#16 コロマル
夕方。
カズトは家の前に立っていた。
手にはボール。
あの公園での感覚が、まだ残っている。
投げて、拾って。
それだけの時間。
でも――
何かが足りなかった。
カズトは家の壁を見る。
白い外壁。
少し古いが、しっかりしている。
「……ここでやるか」
ボールを構える。
投げる。
ドン。
壁に当たる。
跳ね返る。
カズトはそれを受ける。
ドン。
「……」
もう一度。
ドン。
受ける。
ドン。
受ける。
数回繰り返して、カズトは止まった。
壁を見る。
小さな跡。
「……まずいな」
傷つけたら怒られる。
当然だ。
カズトは少し考える。
翌日。
雑貨屋で、小さな玉を見つけた。
軽い。
白い。
三つ星の刻印。
カズトは知らない。
向こうの世界でいう“ピンポン玉”というものを。
「これなら……」
家の前。
カズトはその小さな玉を持つ。
投げる。
コツン。
軽い音。
壁に当たる。
ふわっと返ってくる。
カズトはそれを受ける。
「……いいな」
もう一度。
コツン。
パシ。
コツン。
パシ。
軽い。
速い。
リズムがある。
カズトの手が自然に動く。
体が少し前に出る。
また返す。
また戻る。
気づけば。
笑っていた。
コツン。
パシ。
コツン。
パシ。
繰り返す。
何度も。
何度も。
息が少し上がる。
でも、やめない。
やめたくない。
カズトはふと壁を見る。
ただの壁。
でも。
そこから返ってくる。
ちゃんと返ってくる。
「……お前さ」
小さく呟く。
少し考えて。
言った。
「コロマル、な」
その名前に、理由はない。
でも。
しっくりきた。
コツン。
パシ。
コツン。
パシ。
「コロマル、いくぞ」
投げる。
返ってくる。
受ける。
一人。
だけど。
キャッチボールになっている。
オラクルが静かに言う。
「動作パターン、安定」
カズトは笑う。
「パートナー増えたな」
オラクルが少し間を置いて言う。
「……はい」
夕日が壁を赤く染める。
ガーネットが光る。
澄んだ赤。
濁りはない。
カズトは投げる。
コロマルが返す。
受ける。
また投げる。
その繰り返しの中で。
少しずつ。
本当に少しずつ。
カズトの「一人」は、形を変えていく。




