#14 未熟
森は静かだった。
風が葉を揺らす音。
足元の土の感触。
カズトは一人、隣町へ向かって歩いていた。
だが――
足が重い。
体じゃない。
心だ。
胸の奥に、妙な違和感がある。
ガーネットを見る。
わずかに濁っている。
カズトは立ち止まった。
「……なんだこれ」
オラクルが言う。
「精神状態の揺らぎを確認」
カズトは目を閉じる。
旅立ったばかり。
準備もした。
戦う力もある。
それなのに。
「……早すぎたのか?」
その言葉が、自然に出た。
出会い
その時。
前方から人の気配。
数人の足音。
森の道の向こうから現れたのは――
見覚えのある顔だった。
荒野で見た、あの時の人たち。
魔法杖のテストスタッフ。
そして。
あの女性。
クレア。
カズトは息を呑む。
「……あ」
クレアも気づく。
少し目を細めて、笑った。
「やっぱりね」
見抜かれていた
焚き火の前。
簡単な休憩。
カズトは自分のこれまでを話した。
旅立ちのこと。
訓練のこと。
戦ったこと。
全部。
クレアは静かに聞いていた。
そして言った。
「ねえ」
少し優しい声で。
「あの時のあなたの顔」
カズトは顔を上げる。
「見れば分かったわ」
「いじめか何か、学校であったでしょ」
カズトは黙る。
クレアは続ける。
「あの魔法を見た時」
「あなたの目、灯がともったのよ」
カズトは思い出す。
あの瞬間。
胸が熱くなった感覚。
指摘
クレアの目が少し真剣になる。
「でもね」
「今こうして話して分かる」
一拍。
「あなた、孤独の時間が長すぎた」
カズトの胸が少し痛む。
「一人で、一人でやってきたでしょ?」
「その分、少し頑固になってる」
言い返せない。
全部当たっている。
年齢
クレアは少し肩をすくめる。
「あなた、16歳でしょ?」
カズトは頷く。
「まだ成人まで四年もあるのよ」
その言葉は、意外と重かった。
「急ぎすぎ」
静かに。
でもはっきり。
言葉
クレアは少し笑う。
「あなたの好きなやつ、あるでしょ」
カズトが首をかしげる。
「ドラゴンカードの甲羅つけた師匠」
「あの人、言ってたでしょ?」
カズトの頭に浮かぶ。
あの言葉。
クレアがゆっくり言う。
「よく働き」
「よく学び」
「よく休み」
「よく考え」
「よく遊び」
「よく食べる」
そして。
「周りの力を借りて、成長しなさい」
カズトの手が、少し震える。
限界
クレアはカズトの腰のクリスタルを見る。
「オラクル、優秀ね」
オラクルが反応する。
「評価を確認」
クレアは小さく笑う。
「でもね」
少しだけ、強く言う。
「それだけじゃ“力”が足りない」
カズトは黙る。
「あなた、分かってるでしょ?」
核心を突かれる。
本質
クレアは続ける。
「精神力と魔力は、別物よ」
「ゲームみたいに」
「心の強さがそのまま力になるわけじゃない」
カズトの中の何かが、少し崩れる。
「でもね」
クレアは優しく言う。
「精神力は“自発性”になる」
「動く力になる」
贈り物
クレアは腰の装備を外した。
革製のホルスター。
深い色。
丈夫そうな作り。
カズトに差し出す。
「これ、あげる」
カズトは驚く。
「え?」
「クリスタルホルスター」
クレアが言う。
「腰に付けて」
「地球の銃みたいに扱うの」
カズトはそれを受け取る。
重みがある。
「ドラゴンの皮よ」
「丈夫だから安心しなさい」
オラクルが言う。
「装備適合率、高」
決断
クレアはカズトをまっすぐ見る。
「戻りなさい」
カズトは息を止める。
「元いた街に」
「四年間」
「ちゃんとバランスよく磨きなさい」
カズトの中で、何かが揺れる。
悔しさ。
安心。
迷い。
全部。
クレアが最後に言う。
「あなた、燃え尽きてるのよ」
静かに。
「だから今、ズレてる」
帰る理由
夜。
一人。
カズトは空を見上げる。
ガーネットを見る。
濁っていた赤が。
少しずつ澄んでいく。
オラクルが言う。
「精神状態、回復傾向」
カズトは小さく笑う。
「……まだ早かったな」
でも。
それでいい。
帰還
翌朝。
カズトは来た道を戻る。
森を抜ける。
街が見える。
あの街。
自分がいた場所。
逃げじゃない。
やり直しでもない。
強くなるための選択だ。
カズトは手帳を開く。
書く。
【第二期間 四年】
・働く
・学ぶ
・休む
・考える
・遊ぶ
・食べる
・人に頼る
そして最後に書く。
【一人で強くならない】
カズトは歩く。
新しいスタートへ。
本当の意味での。
成長へ。




