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チャームワールド  作者: 恋塚隆之


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#13 旅立ち

朝の空気は冷たかった。


カズトは市場を歩いていた。


旅立ちの日。


だが慌ただしさはない。


むしろ静かだった。


街はいつも通り。


パン屋の匂い。

鍛冶屋の音。

人の声。


この街で生きてきた十五年。


その最後の朝だ。


タッチペン


雑貨屋の棚に、細い棒が並んでいた。


クリスタル用タッチペン。


魔力端末に絵や文字を刻むための道具。


カズトは一本手に取る。


軽い。


「それ、旅人がよく買うよ」


店主が言う。


「記録用にね」


カズトは少し笑う。


「……そうなんですね」


そして買った。



次に立ち寄ったのは本屋。


古い木の匂い。


棚の端に一冊の本があった。


『スケッチの基本』


旅人が風景を残すための本。


カズトはページをめくる。


線。


影。


構図。


難しいことは書いていない。


ただ。


「見たものを三分で描け」


そう書いてあった。


カズトは笑った。


三分。


また三分だ。


その本も買った。


記録


丘の上。


あの、日光浴をしていた場所。


カズトは座る。


クリスタルを取り出す。


タッチペンを握る。


オラクルが言う。


「新しい入力装置を確認」


カズトは言う。


「旅の記録を残す」


画面に線を引く。


ぎこちない線。


丘。


街。


遠くの屋根。


三分。


秒針を見る。


カチ。


カチ。


カチ。


線が増える。


影を入れる。


形ができる。


「終了」


オラクルが言う。


カズトは息を吐く。


下手だ。


でも。


ちゃんとこの場所だ。


カズトは言う。


「これから見たもの」


「全部描く」


オラクルが答える。


「記録データとして保存します」


クリスタルの中に。


最初のラフ画が刻まれた。


ガーネット


カズトは胸のネックレスを見る。


ガーネット。


太陽の光を受けて、赤く光る。


濁りはない。


澄んでいる。


オラクルが言う。


「精神状態安定」


カズトは空を見る。


青い空。


広い世界。


この先、何があるか分からない。


でも。


怖くはない。


工房


最後に工房へ行った。


親父が腕を組んでいる。


「来たか」


カズトは頭を下げる。


「お世話になりました」


親父は鼻を鳴らす。


「死ぬなよ」


それだけだった。


でも。


それで十分だった。


カズトは剣を腰に差す。


旅の初装備。


出発


街の門。


カズトは振り返る。


この街。


学校。


工房。


丘。


全部が小さく見える。


オラクルが言う。


「旅程開始を確認」


カズトは時計を見る。


秒針。


カチ。


カチ。


カチ。


あの夜。


呼吸を整えた秒針。


戦いの時間を測った秒針。


今。


旅の時間を刻む秒針。


カズトは歩き出す。


荒野へ。


新しい世界へ。


タッチペン。


スケッチの本。


クリスタル。


手帳。


剣。


ガーネット。


そして。


オラクル。


オラクルが静かに言う。


「コンセントレーションタイム」


カズトが笑う。


「いや、まだだ」


そして前を見る。


遠くの地平線。


そこにはまだ見ぬ景色がある。


魅せられるものがある。


きっと。


クリスタルの画面に、新しいページが開く。


旅のスケッチ


一枚目。


丘から見た街。


そして二枚目。


まだ白紙。


カズトは言う。


「描いていこう」


オラクルが答える。


「了解しました」


秒針が進む。


カチ。


カチ。


カチ。


その音と共に。


少年の旅が始まった。

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