VSチワワ その9
一通りの打ち合わせを終え、俺とケムリンは呑み街の端にある貧民区に来た。このエリアにバッドピクシーの処刑部屋があり、ここを抜けると下水の隠し通路がある。貧民区には独特のすえた臭いが立ち込めていた。自警団の連中もすぐには手出ししてこないエリアだ。延々と商売をしている気配も無いボロ家が続いている。これでも昔に比べると範囲が二分の一程度に縮んでいる。今の村長はクッソ野郎だが、呑み街の治安回復と貧民区の撤去に関しては容赦なく断行していた。断行される方はたまったものじゃないだろうが、呑み街全体のトラブルは減り、バッドピクシー達もただの『悪ふざけ』で人間を処刑部屋に誘い込むことはできなくなった。
ギリギリ並走できるポイントまであと少しだった。
「帰ったらさぁ」
打ち合わせの後からずっと黙っていたケムリンが急に話し出した。
「焼き芋たべようよ、ヒロシ」
「いいな、それ」
「虫眼鏡で火を点けて焼くと美味しいんだよ」
「ふん? なんでだ?」
「お日様パワーで、美味しさUPだよ」
「すげぇな、お日様」
「ね、絶対だからね?」
「わかった。今日はホントに」
「そういうのはやめてね。ケム彦にはそういうこと言わないでしょ? 僕のことバカにしたらダメだよ、僕も仲間だから」
ケムリンは一息に言った。
「だな。ごめん、ケムリン。お前、仲間だ」
「うん」
予定していた分断ポイントに来た。崩れそうな櫓がある。半鐘はどっかのバカが転売目的で盗んでそれきりになっている。
「じゃあねっ!」
「おうっ」
ケムリンは髭の触手を櫓の上段に絡めると縮めて跳び上がり、櫓に登ると意外な素早さで改造ポシェットを腹側に回し、即座にスピンアタックで櫓から飛んだ。遠く飛び離れてゆくケムリンはスピンを解いて滑空姿勢になり、飛んでいる位置と高さからは見えているはずの庭に木の生い茂った廃墟の方へと体を傾けて行った。上手くすればあそこの木を使って着地できないではない。ヤツが、チワワ野郎があくまで俺達を追っているとすればケムリンの臭いはこれで途切れる。ヤツが下水の抜け道まで把握していた場合、そっちに回り込む可能性も無いではないが、俺達はヤツの無駄な程の攻撃性に賭けることにした。これで合ってるはずだ。それに、他の方法は思い付かなかった。やるだけやるさ。




