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最弱もんすたあ・ケムシーノっ!  作者: 大石次郎


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VSチワワ その8

 騒ぎを避け、ケム彦の余力で飛べる限界らしい二階建ての酒場の屋根に降りた俺達。ケム彦は自分の鞄から高価な魔石の欠片と古びたロールを一本取り出し、まず魔石を使った。魔石は小さく光り、砕け散った。ケム彦の魔力は回復したはずだ。続けて聴こえないが、ケム彦は何か呟いてから、取り出したロールを使った。ロールが鈍く光ると俺とケムリンとケム彦の体が一瞬光った。また何か呟くケム彦。口の動きからたぶん「余り、当てにはならないけどさ」と言ったんだと思う。

 ケム彦は鞄から一つ薬草を取り出し、二つに分けて俺とケムリンの口に放り込んだ。無理矢理噛んで飲み下すと、耳の奥でピシピシと音がして聴覚が戻り、体の自由も戻った。ケムリンも動けるようになったようだ。しかし、俺は今日1日で薬草を服用し過ぎて吐きそうになった。

「待った待った」

 ケム彦は鞄から飴を一つ取り出した。

「調整薬だ、吐いたり下したりってのは収まるよ。これはこれで不味いけどさ」

『調整薬』らしい飴を触手で受け取り、思いきって噛み砕く俺。ぐっ! これは?! 甘いのに不味い。薬草とは逆のベクトルの不味さっ!

「酷いな、これ」

 言いながらも、吐き気は引いた。ケム彦はさらに鞄から林檎を一つ取って触手で器用に二つに割り、俺とケムリンに渡した。

「ありがてぇ!」

「やったっ!」

 俺達は二人して林檎をガッツいた。ケム彦は軽くため息をつくと、飛んできた方や周囲、そして上空を見た。

「お前を追ってるってヤツ、本当に村に入ってるのか?」

「ヤツは護符を持ってる。これぐらいの村ならフリーパスだよ。最後に撃退した場所がこの村に近い。それにこれだけ派手に騒動を起こせば関心を示すだろう。人間の自警団もそろそろ出張ってくるだろうし、ちょっとマズいなぁ」

「今使ったロールは? 当てにならないとかなんとか」

「ロールって高いんじゃない?」

 俺とケムリンが続けて言った。

「経費で落とす。あれはダメージを受けるタイプの魔法にのみ耐性を上げるロールだ。持続時間は4時間程度、ただし、耐久限界が甘くてさ。さっきのようなのを喰らったら、お二人さんの場合、1発耐えるのが限度だろうね。わかっていれば先に使っておいたんだが、あんなメチャクチャなヤツとはね。取り敢えず、移動しよう。ポン助君より、人間達の方がヤバい。もうヨゼフの悪酔いじゃ済まない」

 ケム彦は屋根の端へと進み出し、俺達も続いた。

「アイツ、本当にパワー型か? あの魔力、魔法タイプだろう? だったら他にも魔法を」

「いやそれは無い」

 屋根から降りて路地を進むケム彦。下水に向かっているのか、ゴミ捨て場のロスエールの方へ向かっているのか? 途中まではルートがほぼ同じなので判然としない。

「アイツの身のこなしはレベル13のパワー型程度。魔法タイプならあんなに物理で強くはない。レベル13以上の魔法タイプでさらに物理もあれだけ鍛えているようなヤツなら俺達は生き残れてないさ。アイツは持ってる特性と性格が噛み合ってないんだよ。スペックがあべこべだから初見は混乱させられたがね。あ、そうか」

 ケム彦は急に何か気付いて、這うのをやめずに鞄から臭い玉を一つと影人形を一つ取り出した。

「次から次に出てくるな」

「林檎もう一つある?」

「林檎はもうないよケムリン。目ぼしい道具もこれで打ち止め、ほら」

 ケム彦は俺に臭い玉を、ケムリンに影人形を渡した。

「影人形、使ったことないし」

「気配と姿は消せる。匂いと音は消せない。大きな衝撃を受けるとダメだ。持続は20分、かな?」

 早口で言うケム彦。

「渡す物渡したら、また悲観的な気分になってきたよ。この路地は人目が無い。1度姿を晒してから、また人目の付かない場所に『獲物』が移動した時を狙う。ヤツが襲う一つのパターンさ。ヒロシ、今、俺はロスエールの元へゆくつもりで移動している」

「ああ」

 ケム彦がただの悲観から言っているのではないということはわかった。

「3人なら、もうネタバレで対策済みのあの犬を倒すのは容易いよ。例え、なんらかの方法で体力や魔力を回復したとしても絶対勝てる自信がある」

「確かに、まあ、そうかもな」

「それホントにぃ? 二人ともポン助甘く見てない?」

「大丈夫だケムリン。必ず勝てるよ。ただ、お二人さんだけになったら、話は別だ。ここからロスエールの所まで持たないだろう。その場合、切り替えてバッドピクシーの」

 ケム彦はそこまで言ったところで突然、上を見ながら路地の端に跳んだ。俺達が驚いて振り返ると、上空から青い槍のようなモノがケム彦目掛けて高速で落下したきた。ドォンッ! 寸前でかわすケム彦。ソイツは路地の土を抉った。槍に見えたのは嘴だった。中型犬くらいの大きさの青いカラス。足は一本だけ、デカい目は一つだけ、『墓場カラス』だ。首に護符らしいのを下げている。

 ケム彦は飛び退きながら特技『カミソリ触手』を放ったが、ソイツはデカい体で器用に避けて近くの屋根まで舞い上がった。

「よぉ、クッソくそ虫野郎っ。2日ぶりじゃねぇか? 人間様の村で随分派手に暴れてるじゃねぇか、あぁん?」

 カラス野郎は唾を散らしながら喋った。俺が身構えると、ケム彦は触手を軽く伸ばして制した。

「よせっ。コイツの狙いは俺だよ」

「けどよ」

「そうだよっ」

 ケムリンまで身構えると、ソイツは屋根の上から一つ目で俺達を見下ろした。

「クッソ虫のお友達かよぉ、あぁん? テメェらも」

 ソイツが言い出す途中で路地に面した戸が開き、女物の上っ張りを着たやたら体毛の濃い男が、小柄だがやたら胸の大きいほぼ半裸のような女を連れて顔を出した。

「おいおい、喧嘩かい? この界隈でアタシの」

 剛毛の男は言い終わらない内にカラス野郎が無言で放った特技『クナイ羽』の羽の刃を顔面と肩と胸に受けた。

「ひゅうっ」

 短い声を上げて、流血して膝をつく男。気道をやられたな。巨乳のチビ女は悲鳴を上げて、男をあっさり放って建物の中に逃げて行った。

「クロベエ、今日俺は取り込み中なんだ」

 名はクロベエらしいカラス野郎に話し掛けながら、ヤツから見ると陰になってる辺りに落ちていた空の酒の小瓶に髭の触手を絡めるケム彦。

「そいつは奇遇だなぁ、俺も今、取り込み中だぜッ!!」

 クロベエは屋根から急降下して特技『石割りキツツキ』を放った。猛烈な連続突き! カラスなのにキツツキっ! 道も壁も近くの壺もデタラメにぶっ壊してゆく。なんだコイツ?! ケム彦は転がって回避しながら、拾った酒瓶をヤツの嘴目掛けて投げ付けた。だが、ガッ! クロベエは突然連打をやめて嘴を開いて酒瓶をくわえて受け止め、そのままバリバリと酒瓶を噛み砕いて飲み下しちまいやがった! イカれてるっ!

「ギヒヒッ! また、俺の目を狙ったな? 突きの勢いでうっかり俺が瓶を割って、破片で『また』目を傷付けて倒せる。ケム彦ぉ、そう思ったなぁああ? バッレバレなんだよクッソくそ虫がッ!!」

 クロベエはロクに狙いを定めず周囲に『クナイ羽』を射ちまくった。俺達も慌てて避ける。さっきの建物から出てきた。武器を持った剛毛男の手下らしいのも悲鳴を上げて剛毛男を回収して建物の中に取って返していった。

「ギャッハハハハッ!!!」

 笑って飛び上がって連射するクロベエ。狙いが甘いからケム彦は訳無くかわしていたが、明らかに戸惑っていた。理詰めのケム彦は分析しても意味無い相手が苦手だ。乱射される『クナイ羽』の中、俺達がケム彦に近付こうとすると

「先に行ってくれ! 俺はなんとでもなるよっ! ロスエールは諦めるんだ!!」

 ケム彦は叫んで、帽子と鞄を例の手品のような素早さで腹側に回すと超高速の『スピンアタック』を移動に使って、一本奥の通りに跳び去って行った。クロベエも攻撃を止め、特技『滑空突き』を移動に使って高速で追っていった。

「ど、どうしようヒロシ?」

「どうしようって」

 俺は正直途方に暮れて、心底今日、村に来たことを後悔したが、言ってられない。

「選べることなんて少ないんだろう」

「え?」

「ケム彦を追っても、追い付けそうにないし、足手まといになるだけだろう。すぐ、人間達も来る。ロスエールも無理だ。下水か、処刑部屋っ! それだけだ」

 俺はケム彦達の去った方から反転して急いで這い出した。ケムリンも後ろを何度か振り返りながら続いた。俺は頭の中でグルグルと『一番上手いやり方』を考えていた。

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