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最弱もんすたあ・ケムシーノっ!  作者: 大石次郎


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VSチワワ その7

 数分後、俺達は宿の屋上の真ん中で互いに尾を向け合い、均等に三方を警戒していた。周囲には強く『風』が吹いている。意識を集中させているケム彦。言わなきゃいけない『台詞』を小声でブツブツ呟いているケムリンは髭の触手で改造ポシェットの中に一つだけ残ってた『玩具の笛』を持っていた。俺は気が気じゃない。まだかケム彦、もう100%ヤツは来て、様子を伺っているはずだ。準備前にぶっ込まれるのは最悪だぜっ!

「諦めたんじゃないか? アイツ、ポン助だっけか? 全然来ないじゃないか」

 ケム彦が舞台役者のようにハッキリとして口調で言った。合図だ!

「一応念は押したい。あの犬、すげぇパワーだからさ。ケムリン、本当に呼べるんだろうな、その『妖精の笛』で?」

 俺も役者のようにハキハキと話して続ける。

「ま、間違いないないよ! 『妖精の笛』は壁越しでも妖精族には音が通るし、呑み街のレプラコーン達を呼べる。さっき話し通したし、お金掛かっちゃうけず、どとっ」

 上ずった声で、最後はカミカミになってたが、ただの『玩具の笛』を掲げるケムリン。

「俺は巻き込まれただけだから金は払わないよ」

「ケチだなぁ、ケム彦は」

 白々しく続ける内に、妙なもんで俺はちょっと楽しくなってきて、ついアドリブを入れてみたくなったが、ケム彦が横目でキッと睨み『無駄なことするな』と警告してきたので即、やめた。そりゃそうさ。

「ケムリン、『妖精の笛』使ってみろよ、ヤツがもう諦めているならただ来るだけだから値切れるだろう」

 切っ掛けを出す俺。テンパってるケムリンは一瞬、台詞を言う前に笛を吹こうとして、途中で気付いて笛を口から離して台詞を喋り始めた。いや不自然過ぎるからっ!

「わかったよ、ヒロシ。料金は折半でね」

 棒気味に言って、『玩具の笛』を吹き出すケムリン。ピィイイイーっ! 軽い、澄んだ音色が周囲に響いた。

「・・・何も起こらないじゃないか? まさかその笛、ただの『玩具の笛』じゃないだろうね?」

 もう最後の段だ。さすがに緊張した様子でケム彦が言い、

「フカしたんじゃないだろうな、ケムリン」

 俺も詰めの台詞を言う。風呂敷の中の辛子玉の位置と、投げ付けるシュミレーションを改めて頭の中で行う。やってやるッ!

「フカしてないし、あと2分くらいで来るよ。この宿の地下にもレプラコーンの隠れ家が」

 ケムリンがそう言ったところで、ズンッ!! 連れ込み宿の屋上に、いや周囲の建物全体に『震動』が響いた。ドゥーモ、震動探知魔法だ。4秒程、間が空き、隣の建物の窓の開いたベランダの鉢植えの陰からボロ布を纏ったままのポン助が姿を表した。ジッと俺達、特にフカしたケムリンを見ている。

「なんちゃって」

 ケムリンは小声で言って、玩具の笛をポシェットにしまった。勿論宿の地下にレプラコーン等いない。宿どころかこの村にはレプラコーンはもう一人もいなかった。ヤツはむしろ静かに宿の屋上に飛び降りてきて、また俺達を見る。周囲には強い『風』が吹いている。ヤツがボロ布をはぎ取ると、布は『風』に飛ばされていった。ポン助、お前の判断は正しい。つつじ荘でトラップを喰らい、さらに一体増えた俺達に、お前はやみくもに突っ込むのをやめていた。臭いでも判定していたんだろう。ドゥーモで俺達のブラフを見破ったのも妥当だ。だが、ケム彦は打ち合わせでこう言っていた。「明確な判断方法を持ってるヤツは、その『正しさ』からハメ易い」本当に、その通りだったぜ。俺達はジリジリと後退し、ヤツは『風』に吹かれながら、構えた。

「ガルルッ、ガルゥオラァアッ!!」

 ヤツは何度見てもギョッとする速度で飛び掛かってきた! よっぽどムカついたのか、一直線にケムリンに突進する。その時、ゴオォオオオオッ!!! 上空から打ち下ろされた烈風に飲まれるポン助。

「ガウッ?!」

 烈風は竜巻と化しヤツを巻き上げた。ケム彦は『つむじ風の帽子』の力でずっと上空で旋風を練っていた。効率は悪いがカモフラージュに周囲にも強風を吹かせ、あとはケム彦が練り終わったタイミングで一芝居打って、ヤツに看破させ、そう長くは持たない練った旋風をケム彦が維持している間に無防備にヤツに突進させる。それが、俺達のアイディアだった。

「ドガラッ!」

 驚くほどカン高い声で即座に呪文を唱えるポン助。体の周りが鱗状の力で覆われ、中空で静止して姿勢を保ち始めた。

「やはり魔法防御か」

 風を操りながら呟くケム彦。だが、それも想定済みだぜ! 俺は辛子玉のピンを解除して竜巻の中に放り込んだ。玉は炸裂し、ケム彦が風の加減をし、ヤツは辛子パウダーに包まれた。『魔法防御』で辛子は防げねーぞっ!

「ギャワンッ!」

 涙を流して苦しむチワワ野郎っ! ザマぁっ!! 速攻でケムリンが止めにケム彦から渡されたダーツを4本、ポシェットから取り出し、触手で竜巻の中に投げ込もうとした。だが、

「ジィーンッ!!」

 またカン高い、それも大声でヤツは叫んで呪文を唱えた。ギィイイイイイイイーンッ!!! ヤツを中心をとんでもない出力の『音波』が放たれた。周囲の窓ガラスは砕け散り、屋上の床も一部、浅くヒビが入った。帽子等で魔法に耐性のあるケム彦と違い、俺とケムリンは一発で鼓膜を破られ、頭の中でシンバルを鳴らされたような衝撃を受け、無音の中、ギリギリ意識はあったがコロリとその場にダウンした。耐えたケム彦も竜巻の維持はできなかったが、ここからのケム彦の素早さは尋常ではなかった。

 ケム彦は、刺し殺されんじゃないか? という速さで俺の風呂敷に触手を入れ、入れた傍から中で何かを操作し、1秒程、中空から落ちてくるポン助を見ながらそのまま待ち、2秒経つギリギリで風呂敷から操作していた物を取り出し、ヤツの着地点に転がした。強化かんしゃく玉だ。それは一瞬でかんしゃく玉どころじゃない爆発を起こした。

 爆炎に飲まれるポン助。ケム彦はさらに俺の風呂敷とケムリンのポシェットから煙玉を手品のように高速で取り出し、投げ付け炸裂させ、屋上全体を煙玉で覆うと、髭の触手でダウンした俺達を左右に抱え、『つむじ風の帽子』の力で煙の中から飛び上がった。ケム彦は何か、珍しく苛立たしげに呟いていたが、今の俺達には何も聴こえない。通りでは騒ぎになっていて、大っぴらに飛ぶ俺達を見付ける人間もチラホラいた。何か叫んだり、喚いたりしてるのが多いが、鼓膜をヤラれて何も聴こえない。最悪だ。わかってたはずなのに、アイツのパワー低く見積もってた。

 振り返ると、煙の晴れだした風穴の開いた連れ込み宿の屋上の端には、煤だらけになったヤツが立ち、微妙な速度と高度でフラフラと飛び去る俺達を、例のジトっとした目で見上げていた。

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