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最弱もんすたあ・ケムシーノっ!  作者: 大石次郎


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VSチワワ その6

 だいぶ整理はされたが今でも雑然としている呑み街は昼間ということもあってひっそりとしていた。安い飲食店の多いエリアはこの時間帯は賑わってるはずだが、ここらは水商売と風俗なんかがメインだ。屋根から屋根へとケムリンと移動しながら通りを見ていると、化粧をまだしてない簡単な格好の女がダルそうに店の前を掃除していた。

「あれ? ケム彦だ」

 俺が女を見ていると、不意にケムリンが言った。俺も前方を見上げた。煙突の影に隠れて、皮の鞄を背負い『つむじ風の帽子』を被ったケム彦がこちらを見下ろしていた。

「ホントだ。ケム彦だ」

 呟いているとケム彦は『つむじ風の帽子』を使って小さな旋風を起こし、フワリと風に乗って俺達の傍に降りると並走してきた。

「よお、お二人さん。何を急いでんだい? 当ててやろうか? 『犬』だろ?」

「知ってたのかよっ」

「ちょっと助けてぇ。ポン助、超凶暴」

「下水に向かってるんだね。どれくらい時間を稼げた? あとどれくらいある?」

 ケム彦はすぐに冗談めかすのをやめた。

「お、おう。仮にヤツが全速で来てるなら5分持たないだろう。だがこの距離、バテるだろ?」

「つつじ荘からかい?」

「そうだ」

「僕もつつじ荘からっ!」

「普通に移動してるなら10分以上は持つ。ロスエールの所まではキツいが、下水なら十分行ける」

「なるほど、ヤツはつつじ荘の『中』まで来たんだね?」

「ああ」

「凄いパワーだったよ! でも鎖のトラップで落としてやったからっ」

 興奮するケムリン。

「うん、『中』まで来たか」

 ケム彦は考えながら、チラリと空を見回すような素振りを一瞬見せた。なんだ?

「『検索犬』は『検索』する。軍用犬の類に探索系魔法を覚えさせて、追跡能力を高めた犬だ。育成して売る専門業者もいる」

 俺とケムリンは戸惑った。あのパワーで魔法まで使うのか?!

「『ドゥーモ』と『ジィーン』は絶対に覚えさせられている。五感でカバーできない時、奴らは迷わず使ってくる。つつじ荘に逃げられるまでは、ただの遊びのつもりだったのかもね」

 ドゥーモは震動探査魔法、ジィーンは音波探査魔法。地味だが、追跡には持ってこいの魔法。

「でもつつじ荘でもたぶん使ってないよ?」

「トラップに掛かったぜ?」

「レプラコーン達はあそこにある程度の外部からの魔法を避ける守りを掛けていた。奴の『検索』は屋根裏部屋や隠し通路の大まかな位置を掴む程度だろう、下調べはつつじ荘に限らずあちこちでやっていたようだがね。何しろ村に来てから十分時間はあった」

 その為の『3週間』か、俺はようやく納得がいった。

「誰かが余計なちょっかいを出して、おっ始めたようだねぇ?」

 嫌味ったらしく言ってくるケム彦。

「う、うるさいなぁ」

「そういえば、なんで村長の家に入ったの、ヒロシ?」

「カツラか、トウモロコシを盗んでやろうと思ったんだよ、それだけだよっ!」

「そんなことでぇ? 何してんのぉ?」

「暇だね、ヒロシ」

 ぬぅううっ、反論できる要素が一つもねぇ!

「それよりケム彦、いつからあの犬調べてたんだ? 聞いてねぇぞ」

「今、話、変えようとしたよね?」

「もういいから! 俺が悪かったよっ! なんでアイツを知ってるんだよ、理由があるんだろ?」

 ケム彦は森の青年団の運営委員で、長老会の密偵の仕事もしていた。幼馴染みだが、俺達と違って出世コースに乗れてるヤツだ。たまたまチワワに詳しいとか無いだろ?

「俺は、物事を悲観的に考える方でね」

 ケム彦はまたチラリと空を見回し、髭の触手で背負った皮鞄から仕込み玉の類を二つ取り出し、俺達に一つずつ渡した。意外と重い。「強化してある。ヒロシのがかんしゃく玉。ケムリンは光り玉だ。ピンの解除法は2段式。2秒で炸裂」

「2秒?!」

「危ないよっ!」

「そう、危ない。協力するが、なんらかの事情で俺が抜けたら、それをうまく使うといいさ。俺はアイツというより村長を調べていた。急にペゼ国の軍人と親しくし出したから、近辺でモンスター狩りでも始めるつもりかと長老達が警戒してね。ただ調べてみると、借金を肩代わりする代わりに手持ちの缶詰め会社の商品をレーションとしてペゼ国に売り込む口利きを頼んでただけのセコい話だった」

「あの村長、お金好きだよねぇ。食べられないのに」

 呑気に言うケムリン。確かに金自体は食えん。まぁ、紙幣なら食おうと思えば食えるが、俺達ケムシーノ族だし。

「状況からみて」

 ケム彦が続けようとすると、キーンッ!! 鼓膜がビリビリ震えるような『音波』が周囲に響いた。近くの窓ガラスがビリビリ震え、通りをウロついていたチンピラ二人が

「うぉ?!」

「耳がっ?」

 あたふたしていた。

「もう来たか。完璧に把握された。凄い出力で使ったな。隠すつもりも無し、か」

 振り返るケム彦。

「全速で来たなら、好都合だ。きっとバテてるぜ? ホントに短気なヤツだ。どっか路地に誘ってヤッちまおう!」

「賛成っ! ケム彦もいるし、余裕だよね?」

「いや、どうもそうもいかないようだね、ああ、これはダメだ」

 ケム彦の言う通りだった。俺達が振り返っていると、通りの向こうから砂煙を上げて、『馬』が一頭、狂ったように走ってくる。ずっと後ろにまだ見えた掃除をしていたさっきの女が驚いて尻餅をついた。馬の鞍の上にはボロ布を被った小猿のような者が乗っていて、そいつが手綱をくわえて馬を操っている。間違いない、ポン助だ!! クッソ野郎っ!

「馬まで使えるのかよッ!」

「来ちゃうよっ?!」

「体力を温存をしているのも厄介だが、人間達が騒ぎ出すのはもっとマズい。奥に移動しよう」

 ケム彦は言うやいなや、60分ハッスルコースと書かれた看板に髭の触手を掛け、素早く通り沿いから離れて行った。俺とケムリンも慌てて続く。

「ざっと見て、ヤツのレベルは13。パワー型だ。ドゥーモとジィーン以外に使える魔法はおそらく一つ。魔法防御だろうな」

 移動しながら言うケム彦。

「魔法防御? 根拠は?」

「僕、魔法使えないよ? ヒロシもっ!」

「攻撃、妨害、移動、あるいはさらに詰められる探索魔法が使えるなら俺と合流する前にお二人さんも殺られてるさ」

 確かに、いえてる。ケム彦は話しながら、辺りを見回し、戦える場所を探していた。俺は追われてる後ろが気になってしょうがない。

「あれだけパワーがあるなら物理防御は選ばないだろう? 残るは回復と魔法防御。回復を使えるならあんな目立つサーカスみたいなことはしない。見通しの利かない、魔法トラップや魔法効果のアイテムが使われるリスクの高いつつじ荘の突入したってことは、それなりの保険はあったはずだ。それにしても短気過ぎるがね。あ、あそこがいい」

 ケム彦は連れ込み宿の屋上の柵に触手を掛けて移動した。俺達も屋上に降りる。宿の屋上は広く、紙煙草の吸い殻がやたら捨てられていた。

「俺の風と、処刑部屋の呪言トラップ、防がれること前提だよ」

「呪言トラップ耐えられるか?!」

「何それ? ここ火事になりそうだよね?」

 連れ込み宿の火災対策はともかく、ケムリンは処刑部屋の管理バイトやったことない。ケム彦はこれで3度目、空をチラリと見回し、

「実は俺も別のヤツに追われてるのさ」

 ポツリと呟いた。

「ええっ?!」

「なんでぇ?!」

「それを含めて、ヤツが来るまで、少し話そうか?」

 ケム彦は緊張して、髭の触手を軽く伸ばし、ピリピリと震わせて周囲を探りながら言った。


 

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