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最弱もんすたあ・ケムシーノっ!  作者: 大石次郎


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VSチワワ その5

 俺達は髭の触手を伸ばし、ぶら下がったまま雑木林の木々の枝から枝へと跳び移り続けていた。意外とケムリンが素早く跳び移るので、内心少し慌てて俺は追う形になっていた。

「さっきはごめんね、ヒロシ」

 渡りながら、不意に謝ってくるケムリン。

「何が?」

「せっかく、雑木林に入ったのにお菓子とかバラ撒いちゃって。臭いでわかっちゃうよね? ごめん」

「もういい。呑み街まですぐだ。下水の隠し通路まであと少しさ」

 呑み街の外れの下水の隠し通路から村を覆う結界から出られる。あそこは臭いし、話のさっぱり通じない無法な野良モンスターもウロウロしてるから普段の出入りでは避けてるが、ここから近い結界の抜け道は他に無かった。

「追い付かれたらロスエールに助けてもらおうよ?」

 ロスエールは呑み街の外れのゴミ捨て場を縄張りにしている幽体系のモンスターだ。友好的なヤツではある。

「アイツは昼間は小屋から出てこないよ」

「小屋の中まで誘い込めばいいじゃん」

「う~ん」

 ゴミ捨て場は下水の隠し通路から遠い。『逃げる』選択肢は残しておきたかった。それに距離がある分、たどり着くまでに追い付かれるリスクが高い。

「微妙だが、バッドピクシーの『処刑部屋』を使う手もある」

「ええ?!」

 ケムリンは驚いて一瞬枝から落ちそうになった。

「ヤバいよっ!」

「2回だけ管理のバイトしたことあるから、あそこのトラップは大体わかってる」

「大体ってっ!」

 処刑部屋は呑み街の治安が今より悪かった頃、バッドピクシー達が『悪ふざけ』する為に作った致死トラップだらけのクソッタレな家だ。今では俺達ケムシーノ族が管理を任されているが、何年かに一体くらいの確率でトラップの事故で死ぬヤツがいて、本当は皆こんな仕事辞めたいが、森では俺達よりアイツらの方が立場があるから辞められない。

「もしもの話さ」

 俺は軽く言って話を切ったが、ヤツに追い付かれた場合、ケムリンを逃がした上で俺がチワワ野郎を引き付けてあそこで戦う以外に、少なくともどちらか一人は必ず生き残るプランを俺は他に思い付かなかった。

 枝から枝へ渡ってゆく内に、渡る木々が細くなり始めた。もうすぐ雑木林を抜ける。思ったより早かったな。

「チワワ野郎のことで他に知ってることあるか?」

「あんまり知らないけど、興味無かったし、トーシマの町で村長が買ったんだって」

 トーシマはこの村から一番近いそこそこ発達した町だ。

「わざわざチワワを買いにトーシマまで? あの村長が?」

「違うって、カジノで軍人の人から買ったんだよ」

「軍人? アイツ、軍用犬だったのか、道理で」

「待って、じゃなくて! ケンサクケンだってさ」

「ケンサク犬? は? なんだそりゃ? カジノの景品で?」

 俺はちょっと混乱したが、ケムリンはちょっとイライラしてきた。

「だから、最後まで聞いてよっ、ヒロシ! 軍人の人がカジノで負けて、村長が代わりにお金を払って、それで、お金の代わりに村長の人に軍人のポン助が、あれれ?」

 ケムリンまで混乱してきた。

「借金のカタにポン助が売られたんだな?」

「うん、そう。そういう意味」

 そういう意味って。ま、いいか。

「その、ケンサク犬ってのはなんなんだよ? 用心棒みたいなことか?」

「知らなーい」

 ぐっ、経緯はおおよそわかったが、アイツの特性等はいまいちわからんな。ケンサク? 検索、か? 探し回る能力なら確かに高いが、それだけなら普通の猟犬と大差無い。やたら攻撃性がヤバいが、検索犬ってなんだ??

 考えていたら、林が明るくなってきた。サンザシの木々の向こうに貧乏臭い呑み街の並びが見える。

「抜けちゃうね」

 ポツリと呟くケムリン。

「巻き込んでごめんな」

 飛び出す寸前に俺は一言言って、俺達は雑木林を抜けた。

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