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最弱もんすたあ・ケムシーノっ!  作者: 大石次郎


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VSチワワ その2

 こっちは最短で道まで来たのに平然と追い付いてきてやがる。この犬っ! 絶対ヤバい。どうする? 意外とイケるか? いやダメだ! 『予感』だけでここまで俺を逃げさせた。大丈夫な訳無いっ! 確実に逃げるには、

「ガルルッ」

 チワワ野郎は唸りながら道の向こうで姿勢を低くした。殺る気だっ! くっそッ! 風呂敷の中に緊急脱出用の『辛子玉』が一つ入ってる。だが、風呂敷の中だ! さっき抱え直した時、何で出しておかなかった?! 今がその時だろう?! 俺のバカっ! 俺のバカっ! 相手を見たまま、片方の髭を伸ばしてで軽く風呂敷の隙間を触ってみる。慌てて結んだから少しだけ緩い。上手く髭を差し込んで探り当てればいちいち風呂敷を解かなくても取り出せそうだ。一瞬でいい、一瞬物陰に隠れる隙があれば『辛子玉』を取り出せる! 水路脇の茂みに入ることができればっ! 俺は、ジリジリと茂みの方に後退しつつ、チワワ野郎に話し掛けてみた。

「お前さぁ、ちょっと誤解してるんじゃないか? 俺、悪いケムシーノじゃないよ? 今日はまだ何も盗ってないし、言葉、通じてる? 前、コリー犬と喋ったことあるんだけど、俺らの言葉、わかるだろ? だから、その、み、みんな友達的、なぁっ? おおおぅ?!」

『友達的』の辺りでヤツは無言で駆け出した! クソッタレっ! 言葉の選択間違えたか?! まだロクに茂みに近付けてない! しかもヤツの突進速度、速い速い速いっ!! 吸い込まれるように直進してくる! このままブッ込まれたら『痛恨の一撃』確定じゃねぇかッ! 俺は即、横っ飛びに避けたかったが中途半端なタイミングで避けると突入角度を調整されて結局ブッ込まれるだけだ。正直ブルったが、ギリギリまで引き付けてかわすしかねぇ! 俺はこれ見よがしに口の左右にある鉤状の牙をガチガチ鳴らして威嚇して応戦する気があるフリをした。実践で威嚇音出すのなんて半年ぶりくらいだがもうやり切るしかない。

「ガルゥッ!!」

 間近に来た! ヤツの口と顎の存在感っ! チワワの口の中とか初めて見たし、見たくも無かったぜこんちくしょうッ!! 俺は喰い付かれる寸前で横っ飛びで避けた。バチンッ! さっきまで俺の頭があった中空でヤツの口が閉じられる! 小さい口なのにスゲェ音したぞオイっ! ヤツは勢いでそのまま前方に飛び出していったが、着地する前にこちらに体を反転させ、着地して反動で滑ってからすぐに再突進してきた。そうくると思ったぜ! 俺は既に特技『苦い汁』の構えを取っていた。再突進の出だしでこの距離なら避けられねぇだろ?! この技、超目にしみるぞこの野郎っ!

「べっ!」

 俺は仰け反り、『苦い汁』を放った! 俺の汁弾は一直線にヤツの顔面に飛ばされたが、ヤツは信じられない反応をしやがった! 後ろ足で地面を蹴りながら横転して汁弾をギリギリのところで避け、なおかつ蹴った勢いと横転の回転運動で錐揉みしながら距離を詰めてきやがったっ!

「ふぁっ?!」

 驚愕して反応が遅れた! ヤツはもう一段跳ぶと、

「ガルゥッアッッ!!!」

 俺の横っ面を肉球の片前足で薙ぎ払った!!

「ぺぶぅっ?!」

 俺は一撃で結構距離のある水路までブッ飛ばされた。棍棒で打たれたような衝撃っ! 『肉球』なのに優しさが一欠片も無い。脳が激しく揺さぶられた! 時間が熱した飴のように引き伸ばされ、全てがゆっくりになった。雀が竹林の方に跳ぶ格好で殆ど静止した様に見える。いや、動いてる、ゆっくりゆっくり羽ばたいている。ゆっくりゆっくり、ゆっくり、ゆ、っくり・・・・い、いかんっ! 逝きそうになった。まだだ! まだ終われねぇっ! 気付けば水面が近くなっていた。もう少し水量があれば特技『休眠』を使って仮死状態のまま水流に乗って村から脱出する選択もありだったが、全然水が足りねぇ。これじゃ『休眠』しているところを速攻でチワワ野郎かアホ村人に止め刺されるだけだ。『休眠』は自分の意思じゃ起きれないしな。

 俺は減速した時間の中で、ぐぐっと顔を水路の対岸側に僅かに上げ、片目だけで確認した。縁に寒椿が並べて5、6本植えてある。あの向こうにボロいベンチも置かれているはずだ。先代の宿屋の親父が村に寄贈した。これだ! ナイスだ、先代の宿屋の親父っ! 俺の左の頬の髭は殴られたショックで痺れたようになっていた。ひょっとしたら殴られた時に千切れちまってるのかもしれないが今は考えたくない。俺は『右』の髭を最大の速度で寒椿に伸ばした! 意識がはっきりしてきて時間の速度が元に戻り始める。ビュオッ! 音を立てて寒椿の1本の幹に枝やらをバキバキ折りながら髭が巻き付く、ちょっと痛い。くっそ! 痛みで時の流れは完全に戻った。俺はそのまま髭を縮め、自分を寒椿の方に引き寄せた。反動で弧を描き対岸の道まで投げ出されそうになる。ただ逃げるだけならこのまま飛んで距離を稼いだ方がいい、だがダメだ! 俺は髭を幹から離さず、反動に耐えるとさらに髭を縮め、我ながら器用に寒椿の横に着地して髭を解いた。チワワ野郎の身体能力ならこの水路も軽く跳び越えられる。俺が全速で這って逃げてもすぐ追い付かれる。だったらここで! 水路を跳ぼうとした中空で! ヤツを俺の汁弾で撃ち墜とすっ!! さっきの錐揉み回避を使えば飛距離が落ちて水路に落下するだろう、それならそれで上からじっくり狙って当ててやる『苦い汁』をっ! しかし、

「なん、だと?!」

 ヤツは対岸の道を村長の家の方にすげぇ速さで走って行っていた。どんどん離れてゆく。なんだ? 1発ブン殴って気が済んだのか? いや、違う! 橋だっ! 向こうに橋がある! くっそ、見切られたんだ。水路を跳ぶと俺がさっき『見た』技を使ってくるとっ! 遠回りの時間ロスを取り戻せると思っていやがる。そこまで走り通しても俺を絶対に、絶対にっ、仕止める『意思』がある!! ちょっと敷地に入っただけだぞ? そこまでするのか?!

「なんて日だッ! バカ野郎っ!!」

 俺は向きを変え、手近な脇道に全速で這って行った。とにかく距離を稼ぐ! と、脇道に入った途端、猛烈なアルコールとアンモニアの臭いがした。あっ? 顔を上げると進む先にヨゼフがいた。元炭鉱夫のアル中ヨゼフだ。左足と腰を労災で痛めたと炭鉱夫共済から金をせびって暮らしているが、本当はなんとも無い。冬に少し神経痛になるくらいらしい。皆、知ってるが村長の親戚だから放置されている。くっそ野郎だ!

「うはぁっ?! デカいイモムシ!!」

 俺が隠れもせずに猛烈な勢いで這い込んできたもんで跳び上がって驚いてやがる。イモムシじゃねーよ、ケムシーノだよっ!! ヨゼフは誰からも信用されていない。騒いでも暫くは大丈夫だろうが、そう時間は無いだろう。チワワ野郎だけじゃなくなったか。俺はもう笑いたくなってきた。尻餅ついたヨゼフを無視して、俺は路地裏を全速で進む。あの犬をどうにかして、人間どもが本格的に騒ぐ前に俺は村を出るっ!!


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