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最弱もんすたあ・ケムシーノっ!  作者: 大石次郎


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VSチワワ その14

 俺は残りの薬草を風呂敷にしまい、物も言わずに電撃トラップ柱の傍のフックから別のフックに移動を始めた。ダメージに、ややモタついて追ってくるヤツ。部屋の端に移動に使えそうなトラップが3つ程ある。どれでもいい。問題は『移動』じゃない。ヤツが途中で短気を起こしてこのタイミングで屋上でやりやがった最大出力の『ジィーン』を使うリスクがあった。言葉で煽るのも止め、足止めのトラップ発動も控え目に、俺はフックからフックへと触手を絡めて移動を続けた。チラチラ振り返るとヤツの動きは明らかに鈍くなっていた。ふと思う。部屋のあちこちにある棚にはアルコール以外にも拷問用の薬品が多数入っている。今のヤツになら、案外簡単にそれらを射ち込めて、何も大掛かりな『仕上げ』をしなくても勝てるんじゃないか?

「無いな」

 俺は知らずに小声で声に出してそのアイディアを打ち消した。そうなったらいい、ぐらいの甘い観測はダメだ。薬品で詰みを狙うならそれようの段取りを組むべきだ。自分にとって都合のいい偶然は期待すべきじゃないぜ。

「ガルゥッ、ガルッ!」

 うおっ?! 近付け過ぎた。俺は焦ってトラップフックを引いて足止めし、別のフックに渡った。部屋の端に来る。床に降りるとちょうどハンマートラップの傍で、ヤツも迫りつつあった。このトラップでいいか。俺は触手ムチで床を打ち、ハンマートラップを床から出現させた。立ち上がりの遅いトラップだ。俺はハンマーの柄に触手を絡め、掴まる。空打ちで振り下ろされるハンマーの勢いを使って、俺は跳び上がった!

「ガルっ?!」

 ポン助野郎を軽く飛び越え、俺は再び電撃トラップの方へ飛ぶ。ヤツは床を跳び跳ねながら切り返して追ってくる。この場面だけなら公園で飼い犬にフリスビーキャッチさせて遊ぶのと同じ風だ。まあ問題はヤツが俺自体を『フリスビー』扱いしていることなんだがよ。俺は飛んだ先で反動のままいくつかフックに触手を絡めて渡り、難なく電撃トラップ柱の前に降り立った。そして遠くから追ってくるヤツの方にドヤ顔を向けつつ、風呂敷から残りの薬草を取り出して見せた。

「ヤメロっ!」

 叫ぶヤツ。俺は当然やめない。薬草を電撃トラップに放り込んでやった。バリィッ!! 放電が起こり、薬草は焼けて吹っ飛んだ。

「ありゃあ、うっかり。燃えカスでよかったら、どうぞぉ~っ?」

 言ってやった。ヤツは追う為の移動を途中で止め、黙って俺を見た。どうだ? 言うか? 呪言トラップの最後のワード、言うか? 言ってくれよ、わざわざ一手間掛けたんだ。言ってくれ!

「・・・殺スッ!」

 ヤツは言った。言い終わるや否や、

「ヴェエエエエッォオオオオオッ!!!!」

 絵の中から『口』達が溢れ出し、濁流のようにしてヤツに襲い掛かった!!

「ガゥっ?! ドガラッ!!」

 ヤツは驚愕しながらも、屋上で竜巻に巻き上げられた時の2倍程の大きさと厚さの魔力の鱗で全身を覆った。『口』達は猛然とヤツを覆う魔力の鱗に噛み付き掛かる。

「硬い、硬いよぉっ!」「鱗邪魔だぁああッ!」「食べたい食べたいぃいいっ」「お前も俺達になれぇええッ!!」「犬ぅっ」「犬食べたいよぉッ!」「歯が歯が歯がぁああッ!!」

 喚く『口』達。呪言トラップ、最後のキーは『殺意を述べる』だ。胸糞だがな。

「安心しろよ、ポン助。わかってるだろうけど、使役系トラップが無制限に発動するってことはまず無い。そいつは持って3分弱だ。よいしょっと」

 俺は中身が抜けて、ただの黒い沼のようになり、それでも蠢いている絵の傍に移動し、裏に多数ある処刑部屋の操作ボタンをイジり始めた。絵の沼の奥には無数の『鎖』が見える。この呪いの絵の本質はこの『鎖』らしい。床から細い鉄のケージが現れた。俺はケージの傍に移動して手早く金具を外し、ケージの底とケージを切り離した。

「お前がわりと近い所で引っ掛かってくれて助かったわ」

 俺は操作ボタンの傍に戻り、クレーンフックで底の抜けたケージを吊り、『口』集られたヤツの上に被せた。

「コンナ貧弱ナけーじハ無効ダっ!」

 『口』どもの隙間から睨み付けながら言ってくるヤツ。

「わかってるぜ? そりゃあ普通の人間用のだかさ。お前を閉じ込めるしちゃ軽いし、脆い。でも『一瞬』で出るのはキツいだろ?」

 俺はボタンを操作し、床から弩弓車を出し、移動に必用な床のトラップをオフにし、触手を伸ばして弩弓車に跳び移った。

「お前相手に素で射っても全く当たらんだろうし、この状態で射つといくらか格子に当たっちまうだろうが、380連発だ。さすがのお前もシャバいぜ?」

 俺は弩弓車をケージの前まで移動させた。

「魔力はそれで打ち止めだろ? 残念だったな、ポン助」

 ヤツは応えずに『口』どもの隙間からこちらを見ている。わかってる。ヤツの魔力はこれで打ち止めじゃない。屋上の戦いでヤツは最大出力のジィーンを使った後、まだ余力があった。だからケム彦は逃げた。コイツは最大出力の魔法を『2発』は打てる魔力キャパを持っている。推定レベル13にしては十分異常だが、それがヤツの限界だ。『1発目』は今、身を守る為に使っている。呪言トラップ解除後、速攻で『2発目』を打たせてやるっ! 体力を消耗し、魔力を使いきり、ついでに『2発目』の段で必ず起こる火災でこの場を混乱させて、始めてヤツを『詰み』にできる。後、少しだ。

 そのまま、緊張したまま俺は弩弓車の操縦席から無言のヤツを見続けた。残り40秒程で呪言トラップは解除される。ヤツは不意に話し出した。

「オ前達ハ無駄ナ者ダ。ナゼ無駄ナ事ヲスル? 無意味ダ」

 普通にクサしてきているが、たぶんこれがヤツとまともに口を利く最後だ。俺はなるべく正しく答えようと思った。

「俺達は確かに無駄な者だ。なんならいない方がいいくらいかもしれねぇ。だが、たまに本気を出す。その本気自体が無駄そのものだったりもするけどな。今日のお前は、まあ、あれだ。運が悪かったな、ポン助」

 俺が言うと、ヤツは口角の片方をググっと引き上げ、口の中の鋭い牙を見せてきた。俺はコイツの新しい怒りの表情の表現かと思ってたじろいだが、どうもヤツは笑っているらしかった。わかりにくっ!

 時間がきた。絵の中から無数の鎖が吹き出し、『口』達を捕らえ、ケージの中から絵の中へ引き摺り戻して行った。

「嫌ぁあああっ!」「犬喰わせろぉッ!」「帰りたい帰りたいぃいいっ!!」「犬犬犬ッ!」「食べ食べ食べぇええッ!!」

 喚きながら戻された『口』ども。構ってられねぇ、俺は弩弓車を操り、ケージの中に矢を連射し始めた! ヤツはすぐにドガラの魔法を解除し、全肢で床に踏ん張り、力を高めた。

「ジィーンッ!!!!」

 ヤツの絶叫と共に屋上戦動揺の強烈な音波がヤツを中心に炸裂する。ギィイイイイーンッ!!! 矢は弾かれ、弩弓車はぶっ壊れ、床、絵、壁、がひび割れ、ぶら下がった多数のフックは狂ったように波打ち、三重の窓ガラスの内、内側の1枚と中の女神や天使のステンドグラスは砕け散り、3枚目の外側のガラスも派手にひびが入った。棚も柱時計も壊れ、大半のトラップも空打ちしながら壊され、ヤツを覆うケージの格子もガタガタにされ、生きている3つ発火装置は全て誘発され発火した。破壊の衝撃!!

 操縦席の俺は直撃を受けると同時に目の前に出現した楕円形の魔力の盾に守られ、むず痒い程度の振動を感じただけだったが魔力の盾自体は一撃で砕かれた。処刑部屋は燃え上がり始めている。火災時緊急脱出用の出入り口の内、いくつが正しく機能したかはわからない。

「派手にしたもんだ、女神も天使も吹っ飛んだぜ?!」

 俺はぶっ壊された弩弓車から降りた。ぶら下がっていたフック付き鎖の内、いくらかが落ち始める。地味に危ねぇ。ひび割れた絵は「痛い痛いっ!」と大騒ぎしている。

「魔法ノ守リヲシテイタノカ。アノ帽子ノヤツダナ? あいつハナゼ他ノ魔物ト争ッテイタ?」

「こっちが聞きてぇよっ!」

 俺は素早く飛び退き、距離を取りに掛かった。あと、24秒くらいかぁ? 最後の追いかけっこだぜ!

「ガルルっゴラァアアッ!!」

 ヤツは疲労を感じさせないパワーで歪んだケージをブチ破り、追ってきた。壊れまくり、もうトラップは当てにならねぇ、フックもガタガタで掴まるのはリスキーだ。俺はそれでも生きてるかもしれないトラップを考慮して床を跳ね回りながら逃げる。途中、トラップの破片等を拾ってヤツに投げ付けて軽く牽制する。目当ての梁までの位置とタイミングを計る。あそこだな。

「しつこいなぁっ!」

 俺は言いながら、預かったいたケムリン玩具の笛を風呂敷から取り出し、当てずっぽうに投げ、次にトラップの破片をいくつかそこそこの精度で投げ、その次に風呂敷から件のダーツを取り出し、強く投げ付けた。ダーツは梁の狙った所に刺さった。よしっ!

「当たらねぇなぁチクショウっ!」

 俺は口ではそう言って、風呂敷をかなぐり捨て、軽めのスピンアタックを移動に使って距離を取り始めた。

「シツコイノハオ前ダ。モウ死ネッ!」

 燃える処刑部屋の中をムキになって追ってくるチワワ野郎。もう、33秒は経ったな。だが、念の為、後15秒使って調整しよう。ベストな『位置』もほしいしな!

 3秒、7秒、9秒、『位置』の調整はほぼバッチリ。後は、信じるだけだ!! 15秒経った。

「ああっ、頭にきた! ガチでやってやるッ!」

 俺は回避移動を止め、触手を短めに構え、全速でヤツの足元に飛び込んだ。一瞬驚いたヤツの隙を突いて触手をヤツの両前足に絡める。

「コンナ貧弱ナものデッ!」

 ヤツは強引に俺の触手を引き千切りに掛かった。実際2秒もあれば千切られただろう。けどなっ!


 シュルルルルルっ!!


 ヤツの後方から旋回音が近付いてくる。振り返るヤツ。何も見えない。ダーツの刺さった梁が見えるだけ。だが、音だけが近付いてくる。

「何ヲッ?!」

 ヤツは慌て、俺の触手から逃れようとした。絶対離さねぇ! 俺は最大の力でヤツの両前足を固定した。

「離ッ」

『せ』までヤツは言えなかった。ドガァンッ!! 足掻くヤツの後頭部の辺り見えざる何かが激突し、衝撃で姿を現した。『影人形』で姿を消したケムリンのスピンアタックだ。屋外から窓越しに発火確認後、交換した臭い玉で念押しで中の臭気ガスと臭いを同化させ影人形を使った上でロックが解除されているはずの脱出用出入り口のどれかから処刑部屋に『30秒以内』に潜入し、ダーツを打ち込んだポイントで待機する。そういう手筈だった。ケムリンは当たった反動でまたダーツの刺さった梁の方へ跳ね返って行った。

「よっしゃっ! 仕上げだ!」

 俺は声も無く力を失ったヤツの触手で掴んだ前足をブン回して燃える部屋の中でも一番火勢の強い、アルコールをぶちまけた辺りに投げ付けに掛かった。あばよ、ポン助!

 しかし、触手で火に投げ入れる寸前で梁にぶら下がっていたケムリンが自分の触手を1本伸ばしてヤツの体を中空で押さえてきた。

「ちょっ?! なんだよっ、ケムリン!」

 俺はバランスを崩してつんのめりそうになった。

「ヒロシ、この子、もう気絶してる」

 はぁあああっ?! 確かに見ればヤツは白目を剥き、泡を吹いて痙攣していた。

「んなこと、言ったって、どーすんだよ? コレっ?!」

 俺はそれぞれの触手で宙で支える形になった。こうなると驚く程体重の軽いヤツを見て困惑した。と、

「ひぃいいいーっ!」「熱い熱いよぉッ!」「帰して、帰してぇ!!」

 割れた絵に引火して『口』達が騒ぎ出す。

「あの子達はこれでようやく終われるね」

「いや、わっかんねぇけど?」

 さらに放置した残りの発火装置にも次々引火し始めた。

「ええぃっ、クソっ! 本当にいい日だぜ」

 俺は折れて、触手を引いてポン助野郎を背負う体勢を取った。

「とにかく、脱出する! ケムリン、どの出入り口から入った?!」

「んー、あそこだけど、今、燃えてる感じ」

 ケムリンが触手で差した辺りは大炎上していた。

「いや、マジだぜケムリンっ!」

 俺達は火に巻かれながら、慌てて残りの出入り口を探し始めた。

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