VSチワワ その15
村から小一時間程離れた、夕暮れの草原を俺達は移動していた。風がざわざわとススキを揺らす。俺はボクスラビット族の背負う籠の中に入れられて運ばれていた。全身軽い火傷だらけで一応簡単な手当てはしてもらったがさすがにもう今日は薬草は服用できない、中毒になっちまう。あの後、合流したケム彦が勧めた調整薬も断った。どうも副作用があるらしい。俺達はどうにか焼け落ちる処刑部屋から脱出後、人気の無いエリアとはいえ目立つ火災に人間達が集まるのも時間の問題であったが遠くに逃げる気力の無いまま近くの物陰でへばっていた。そこへマントにフードを被った雑な人間風の変装をしたボクスラビット族達を連れたケム彦が現れ救出してもらっていた。カラス野郎はなんとか撃退したらしい。
「ケムリン君、よく『彼』相手に屋外でやり過ごせましたねぇ?」
カンテラシェード族のロスエールは緑の灯を灯したカンテラを掲げながら俺を背負うボクスラビットの足元を這うケムリンに話し掛けた。ロスエールは屋敷の焼失を探知したバッドピクシー達から報せを受けて下水の隠し通路を抜ける際の護衛をしてくれていたのだが、面倒見のいいロスエールは日も落ちたことだしと、そのまま森までついてくるつもりらしい。ここまでバタバタしていたので、断片的にしか経緯は話せてない。ボクスラビットの一人からさっきもらった袋入りのレーズンを触手で摘まんで夢中で食べながら這っていたケムリンはロスエールの方を振り向いた。今日、俺程連続使用していないケムリンは自分の薬草は処刑部屋で燃やしてしまったが、ロスエールにもらった薬草でサクッと回復済みだった。
「近くの潰れた聖堂の塔に隠れてたんだよ、それで中でピカッと光るを鏡で見て、それからあすこに近付く作戦。だよね? ヒロシ」
「ああ」
光り玉が合図だった。廃聖堂の尖塔から処刑部屋まで俺達が触手を使えば約3分で移動できる。ジィーンの検索能力は高いからケムリンは尖塔の中で破れたカーテンを被り、さらに割られた鏡を使って間接的に閃光を確認していた。
「扉を全て閉めて格子も落として籠城すれば助けに行けたのに、まさかお二人さんで倒しちゃうとはねぇ」
ケムリンの前を先行して進んでいたケム彦が呆れた風に振り返ってくる。「合流できる保証はなかったろ?」
「信用無いなぁ、何より処刑部屋を燃やしてしまったのはマズい。後でアイツらと交渉するの俺だよ?」
「それは、まあ、すまん。『待つ』ってのは思い付かなかった」
ちょっと気まずい沈黙になり、ケムリンが「あっ」とか「うーん」とか何かフォローしようとしたようだが、上手い言葉は出てこなかった。
「何にせよ、皆無事でよかったではありませんか? お見事でしたよ、ヒロシ君。ケムリン君」
ロスエールが取り成し、ケムリンは誉められてシンプルに「へへへ」と喜んでいた。
「それよりさぁ、アンタらさぁ、くっさいんだけど? 臭い玉だかなんだかしんないけど? 暫く村に入るのも面倒そうだし、マジ勘弁だわっ」
俺を籠で背負っているアカネとかいう名の女のボクスラビットが剣呑に言ってきた。この女、救出に来た直後からずっと口悪い。森ではなく野原の集落に属するモンスターでほぼ初対面だが苦手なタイプだ。だが、こういう当たりの強いヤツとも関わっていかんとダメなのかもしれんなぁ。
「悪かったよ、アカネちゃん」
「『ちゃん』だぁっ?!」
振り向いて籠越しに凄んでくるアカネ。ヤッベ、俺は慌てて視線を逸らした。
「実際問題、事態が拗れたことは間違いない。あの村長は利益次第で交渉可能だが、今回の始末は相当吹っ掛けられるだろう。この『犬』の扱いもある」
フランコという名のもう一人の男のボクスラビットが自分の背負う籠に入った、鎖でグルグル巻きにされ、口を縄で結ばれ、額に『沈黙』の札まで貼られたポン助を示す。チワワ野郎はもう気付いていたが、憮然とした顔でダンマリだ。喋りたくても喋れねぇだろうけどよっ!
「それもこれも、森に帰ってから整理しよう。あとさ、ヒロシ、これあげるよ」
ケム彦はバツが悪そうに自分の皮鞄から触手で茶色いカツラを一つ取り出し差し出してきた。
「ヅラ?」
「よくわかんないけど、カツラかトウモロコシを盗りに村に入ったんだろう? トウモロコシを手に入れる暇はなかったが、これはたまたま被っている人間を見掛けたからさ」
ケム彦はそう言って、籠の中の俺にカツラを被せた。
「似合うねヒロシ! 守備力1くらい上がったんじゃない? キヒヒっ!」
ウケるケムリン。
「イケメン『風』ですよぉ?」
頼んでないがフォローしてくるロスエール。
「なんか背中ガサガサするんだけどっ? マジお前、無いわっ!」
文句言ってくるアカネ。
「・・・あーっ、疲れた」
カツラを『装備』させられた俺は目を閉じ、取り敢えず考えることをやめた。
VSチワワ おわり




