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「24と聞いておりますが。
そうよね、マリア。」
ソフィアはにこにこしながら暢気に尋ねてくる。
残念ながら、19です。
けれども、そんなことは今やどうだってよくって、本当に些細な問題だ。それどころではない。
エリーゼは、当然、クラウスが新しい侍女が自分の元恋人だという事に気がつきそれ相応のリアクションがあると思った。ブランクがあるとは言え、元恋人。抱きしめ合ったり、キスをしたりそれなりに濃密な時間を過ごした事もある。
しかし、
この冷静な、反応。もしや、ばれていない・・・?
「マリア?」
ソフィアは怪訝そうに再び、尋ねてくる。
ばれていない。
それはそれで、むしろ好都合。がしかし、でも、いや、だって、しかし。それなりに傷つく。
途中からは期待していなかったとはいえ、これでも私はしばらく貴方が私のところに戻ってくるのを待っていたんですよ。心のどこかで、貴方に操をたててたんですよ。
年頃の娘が、一人の恋人も作らずに。
というよりむしろ、私の家出劇はこの男がなかなか帰ってこなかった事から始まったといっても過言ではないのだ。
こんな環境で上手くやっていけるだろうか?
答えは微妙だ。
また、仕事をさがすか?
いやいや、それはない。ここでひっそりとやっていかねば。
心のかさぶたをはがさないように最大限努力しながら。
・・・いかん。頭痛がしてきた。
「どうしたのですか?」
考え込むエリーゼに、ソフィアは心配顔だ。その声にはっとする。
気づかれては、いけない。次の仕事は今度こそないだろう。今の私は、マリア・スミス。24歳の有能な侍女。唇を噛み締めて、毅然と面を上げた。
「いいえ、旦那様くらいのご年齢になりますと、そうは言いましてもご家族が気を揉まれるのも当然かと考えておりました」
まぁ、と味方を得たソフィアは嬉しそうだ。
「貴方もそう思うでしょう」
うふふ、と楽しそうに笑った。エリーゼもそれに合わせて微笑んだ。無理矢理に。
こんちくしょう。
「ソフィア、僕にだって恋人の一人くらいいますよ。」
クリスは、少しすねた様な表情を二人に向ける。
そうして、もったいつけたようにイスをまわす。
「結婚だって、彼女とならしたいって考えています。
留学に行く前に約束しましたから」
でも・・・
彼は憂い顔で続けた。
「たくさん手紙を出したのに、一度も返事をくれなかったんです。」
クリスはほう、っとため息をついた。その仕草は実に優雅だ。
ごくり。
エリーゼは、思わず唾を飲み込んだ。
しかし彼は、畳み掛けるように続ける。
「だから、予定を早めて帰国したのに。
僕は何度も会いにいったのに、彼女は一度も会ってくれない。」
心底悲しそうに呟く。
そんな・・・
エリーゼがそれにたじろぐ風を見せると、ぐっと、クリスの顔が近づいた。エリーゼの頬が薔薇色に染まっていく。
「だから、自分で捕まえる事にした。」
ねぇ、エリザベート姫?彼は、数年前と変わらぬ笑顔でにっこりと、微笑んだ。




