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スポットライトの容疑者  作者: 雨音 美月


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22/23

第22話 鏡の中の真実


 休憩を挟み、始まった第二幕。




物語は、追い詰められたユイトが、自身の「正解」と「汚濁」の間で激しく揺れ動く展開へと加速していく。




第一幕で見せた激情は、第二幕では鋭く冷徹な「覚悟」へと変貌していた。




「――♪ 許さなくていい。僕が、僕を許さないから」




ソロ曲の旋律に乗せて吐き出される言葉。それはもはや、脚本家が書いた台詞ではなかった。


僕自身の心臓から直接汲み上げられた、偽りのない叫びだ。




舞台上の高城さん演じるカイルを見つめる僕の瞳には、役としての葛藤だけでなく、現実の僕が抱える「信じたい、けれど信じられない」という切実な疑念が宿る。


結城さん演じるヒロインを抱きしめる腕は、震えを必死に抑え込んでいる。




(これは、演技じゃない。僕なんだ)




客席の空気は、第一幕の興奮とは打って変わり、水を打ったような静寂に包まれていた。


あまりにも生々しい「人間・ユイト」の存在感に、観客は拍手することさえ忘れ、ただ息を殺して見守っている。




オーケストラの調べが止まり、劇場に僕の独白だけが響くシーン。


僕は照明の当たるステージ中央で、独り、絞り出すように語った。




「……光の中にいる僕は、偽物だ。でも、暗闇にいる僕も、また……偽物なんだ。本当の僕は、どこに……っ」




その瞬間、僕の目からこぼれ落ちたのは、完璧に計算された「美しい涙」ではなかった。


鼻をすすり、顔を歪め、醜くも切実に「生」に縋り付こうとする、一人の人間の涙だった。




終演のベルが鳴り響く。


カーテンコール。


幕が上がった瞬間、地鳴りのようなスタンディングオベーションが沸き起こった。




「湊! 湊!!」




「信じられない……」




客席の最前列で、涙を流しながら立ち上がるファン。


普段は厳しいはずの批評家たちが、驚愕の表情で身を乗り出している。




「瀬名湊は本当にアイドルなのか?」




「名俳優でもここまでの生々しさは出せない」




会場の隅々から、そんな賞賛の呟きが波のように押し寄せてくる。




舞台袖へ戻る際、岩田プロデューサーが満足げに、けれど底知れない笑みを浮かべて僕を待っていた。




「……期待以上だ、湊くん。君は今日、本物の『怪物』になったよ」




彼の賞賛を受けながら、僕は全身を襲う激しい倦怠感と、引き裂かれそうな孤独を感じていた。


高く評価されているのは、僕の技術ではない。僕を蹂躙し、壊したあの夜の「記憶」そのものだ。


観客が熱狂しているのは、僕が隠し続けている「本当の自分」の断片。


皮肉なことに、アイドルとして守りたかった清らかな仮面を脱ぎ捨て、泥にまみれた真実を曝け出すことでしか、僕は最高の賞賛を得ることができなかった。




(みんな、見てる。僕の傷を見て、喜んでるんだ……)






楽屋に戻り、鏡の前に座る。




そこには、名俳優と称えられた輝かしい主演俳優ではなく、ただ独り、自分の傷を削りすぎて立ち上がれなくなった、瀬名湊という一人の青年がいた。

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