表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
スポットライトの容疑者  作者: 雨音 美月


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

12/17

第12話 光の底の孤独


  「佐伯さん! ……靴、ありました。機材の陰に落ちていたみたいで」




廊下を走って戻ってきた僕を見て、佐伯さんは胸をなでおろした。




「ああ、良かった……。本当に心配したわよ。スタッフの誰かが引っ掛けて移動させちゃったのかしら。これからはもっと気をつけるように言っておくわね」


彼女の顔には一点の曇りもなく、純粋な安堵の色が浮かんでいる。


僕は小さく頷き、逃げるように楽屋へ戻った。


抱きかかえた自分の靴は、少しだけ冷えていた。


ただの偶然。スタッフの不注意。


そう自分に言い聞かせようとしても、あの暗闇で感じた視線が、皮膚にこびりついて離れない。


(誰かが、僕を試している……?)


番組後半の特別企画まで、あと30分。


メンバーたちは別の収録や打ち合わせで部屋を空け、楽屋には僕一人きりになった。




静寂が、かえって心拍音を大きく響かせる。


僕はソファに深く腰沈め、震える手でスマホを取り出した。


何か、自分を繋ぎ止めてくれるものが欲しかった。




無意識のうちに、SNSで自分の名前を検索――エゴサを始めていた。


画面には、今のパフォーマンスを見たばかりのファンの言葉が、滝のように流れ続けている。


『今日の湊くん、なんだかいつもより綺麗で、目が離せなかった』




『Spica-Sの新曲最高! 湊くんの歌声、浄化される……』




『ずっと応援してるよ、湊くん。あなたの笑顔が私の救いです』




「……っ」




喉の奥が熱くなった。


今の僕は、誰にも言えない汚れを隠し、大切な人たちを疑い、真っ黒な嘘の中で笑っているのに。けれど、画面の向こう側にいる名もなき彼女たちは、そんな僕の「仮面」を、本物の光だと信じてくれている。


兄が「俺たちの誇りだ」と言ってくれた、あの時と同じ、無垢な愛。


(……ごめんなさい)


画面をスクロールする指が止まらない。


あたたかなメッセージの一つ一つが、僕の罪悪感を抉る。


でも、同時にそれは、折れそうだった僕の心を支える唯一の杖でもあった。


あの日、あの男はカメラで僕を撮っていた。


あんな悍ましいものが世に出れば、今この瞬間、僕の笑顔に勇気をもらっている彼女たちの世界も、一瞬で壊れてしまう。


「……守らなきゃ。僕が、壊させない」


悲しみや恐怖に負けている場合じゃない。 証拠のカメラがどこにあるのか。誰が糸を引いているのか。


今の僕には、真実を暴くこと以上に、この「瀬名湊」という場所を守り抜く責任があるんだ。


コンシーラーで消した痣が、また少し痛んだ気がした。


けれど、今度はその痛みが、僕に冷徹な覚悟を思い出させてくれた。


「湊くん、スタンバイ! 特別企画が始まるわ」


佐伯さんのノックの音。


僕はスマホを伏せ、ゆっくりと立ち上がった。




鏡の中の自分を見つめる。


瞳の奥には、ファンからもらった光と、自分を汚した者への静かな決意が、混じり合いながら燃えていた。


「……はい。行きましょう」


僕は再び、一等星スピカの仮面を被った。




生放送、クライマックス。


光り輝くステージの裏側で、僕の孤独な闘いは、いよいよ核心へと踏み込んでいく。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ