表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
スポットライトの容疑者  作者: 雨音 美月


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

11/17

第11話 消えた足跡


 生放送の幕が上がった。


鼓動を切り裂くような重低音がスタジオに響き、僕たちは溢れんばかりの光の中へと飛び出していく。


「――Spica-Sで、『蒼い残響』!」


司会者の紹介とともに、カメラの赤いランプが一斉に点灯した。

僕は無意識に、その光に喉元を絞められるような錯覚を覚える。

けれど、音楽が体を支配した瞬間、僕は完璧な「瀬名湊」へと変貌した。


指先のしなやかさ、切なげに伏せられた睫毛、そして、何万人もの心を射抜く澄んだ歌声。

悲しみも疑念も、すべてをパフォーマンスの熱量へと変換していく。

今の僕には、この偽りの輝きだけが自分を守る鎧だった。


(誰も、僕の過去に気づいていない……)


完璧に一曲目を終え、僕たちは大きな拍手に包まれながら一旦バックステージへと下がった。


次の出番は、番組後半の特別企画。それまでは、各自の楽屋で衣装を整え、待機することになっている。


「湊、キレッキレだったな! 過去最高だよ、今の」


「ああ……ありがとう」


興奮気味の陽介に答えながら、僕は楽屋のドアを開けた。


張り詰めた緊張を解くために、まずは衣装のブーツを脱ぎ、履いてきた私物のスニーカーに履き替えようとした、その時だった。



「……あれ?」



棚の下、自分が置いたはずの場所に、それがない。


僕が今日、メガネをかけ変装して、家族との思い出を胸に歩いてきた、あの履き慣れた黒いスニーカー。


「どうしたの、湊くん?」


衣装のチェックに来た佐伯さんが、僕の様子に気づいて声をかけてくる。


「……靴が、ないんです。僕が履いてきた私物のスニーカーが」


「えっ? 誰かが間違えて持っていったのかしら。スタッフに確認してくるわね!」


佐伯さんは慌てて部屋を出ていった。

楽屋の中には、僕一人。

僕は冷や汗が背中を伝うのを感じながら、狭い室内を隅々まで探した。


椅子のアリバイ、クローゼットの奥、メイク台の下。


……どこにもない。


ただの紛失なら、まだいい。 けれど、この厳重なセキュリティが敷かれたテレビ局の、それも特定のグループの楽屋から、私物だけが消えるなんてことがあり得るだろうか。


(まさか、誰かが……僕を監視してる?)


ガサリ、と部屋の外で物音がした気がして、僕は弾かれたように顔を上げた。


開いたままのドアの向こう、薄暗い廊下を誰かが通り過ぎたような影が見えた。

僕は導かれるように、裸足のまま廊下へ飛び出した。


「待ってください!」


角を曲がった影を追って、スタジオの裏側の機材置き場へと足を踏み入れる。

そこは、本番中の華やかな表舞台とは対照的な、静まり返った闇の世界だった。

埃っぽい匂いと、電子機器の微かな駆動音。 その重機やケーブルの山に隠れるようにして、ぽつんと、僕の靴が置かれていた。

まるで、僕をここに誘い出すための「餌」のように。


「……見つけた」


安堵して手を伸ばそうとした瞬間、僕の視界の端で、小さな光が動いた。

機材の隙間に設置された、小型の、けれど高性能そうなレンズ。

それは、あの日ホテルで僕を冷たく射抜いた、あのビデオカメラの質感と酷似していた。


ドクン、と心臓が波打つ。

誰かが、今この瞬間も僕を見ている。 それは岩田プロデューサーなのか、心配してくれているはずのメンバーなのか、それとも、今僕の靴を探しに行ってくれている佐伯さんなのか。


「誰……? 誰なんだ!」


暗闇に向かって叫ぶ。

けれど返ってくるのは、遠くのステージから漏れ聞こえる、メンバーたちの楽しげな笑い声だけだった。


僕は自分の靴を抱きしめ、逃げるようにその場を去った。


犯人は、すぐそばにいる。

そして、僕があの日の証拠を探し始めていることに、気づいているんだ。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ