02-01.波乱の旅立ち
「聖剣を寄越せ! この女がどうなってもいいのか!」
マズった……。
「うわ~ん! 助けてくださ~い! エコーさ~ん!!」
モニカが捕まってしまった……。
どうしよう……。
「なぁ~んで迷うんですかぁ~! 恋人と聖剣どっちが大切なんですかぁ~!」
どうしてそう余計なことばっかり……。
「はっ♪ こいつぁ都合が良いな! ほぉ~れ! 早くしろよ! でないと大切な恋人が傷物になっちまうぞ!」
「「「「ギャハハハ!」」」」
「ひっ!? ひぃっ!?」
……リリス。
……見捨てよっか。
『ダメに決まってるでしょ♪』
え~……だってあの子の自業自得で~……。
『それでもよ♪ エコーの大切な恋人でしょ♪』
それも勝手に……はぁ……どうしてこうなるかなぁ……。
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「いざ! 教会都市へ!」
私たち二人はギルドから勇者の聖剣を預かって旅立った。
聖剣の護衛と呼ぶには少なすぎる人数だ。流石に信頼されすぎではなかろうか。しかもその聖剣を持つのは騒がしい受付嬢だ。厳重に梱包された聖剣をその小さな背中に背負って一人で持っている。
……あれ? 聖剣って取り扱いが難しいんじゃなかった?
封印されているから問題ないのだろうか。実はこの子が次の勇者だったりしないかな。私気付かない内に、もう一度勇者パーティーに入れられちゃった?
流石に無いか。無いよね? 無いと良いなぁ~……。
「道案内はお任せください♪ エコーさん♪」
相変わらずナチュラルに私の手を取って指を絡めたモニカは、ご機嫌な足取りで町の外へと踏み出した。
「モニカは教会都市に行ったことがあるの?」
「ありません!」
自信満々だ。
「けれどご安心を♪ 予習はバッチリです♪」
そもそも旅をしたことはあるのだろうか。テントすら持っていなかったのに。なんなら実家はたった今旅立った町にあるというのに。
昨日挨拶させられたから知ってるよ。モニカのご両親、目を白黒させてたよ。ついでに私も。
なんか熱烈歓迎されちゃった。彼らが驚いていたのは最初だけで、すぐに涙を流しながら娘をよろしくされちゃった。意味がわからない。
『二人は安心したのよ♪ 決まっているじゃない♪』
……そりゃまあ、モニカなんて放っといたら、荒くれ者に騙されて乳と童顔目当ての変態貴族に売り飛ばされるのがオチだろうけどさ。
『エコーって結構酷いこと考えるわよね』
魔物に引かれる私って……。
『いえ。それが人間の常識なのよね。勉強になるわ』
もっと綺麗で楽しいことを学んで欲しい。
『酸いも甘いも噛み分けてこそでしょ♪』
ポジティブぅ~。
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「エコーさん♪ 見えてきましたよ♪」
そうだね。次の街だね。
「どうです♪ ばっちりだったでしょう♪」
そりゃまあ、街道沿いに歩いてきただけだからね。迷いようがないよね。モニカは途中道間違えかけたけど。標識無視して逆に行こうとしてたけど。私が止めてなければ今頃森の中を彷徨っていた筈だけど。
「部屋を取ったらお身体お拭きしますね♪」
「是非お願いするわ♪」
必要ないでしょ。浄化魔法があるんだから。
「もちろん私も♪ し・て・あ・げ・る♪」
「きゃっ♪」
バカップルぅ……。
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一日が終わり、旅の同伴者が眠った隙をついて、内なる相棒に声を掛けた。
ねえ、リリス。
『コンビ解消なんてしないわよ』
コミュニケーションにならないから真っ先に核心を突くのはやめて頂きたい。
『これだけは譲れないわ』
普通は順序立ててその結論に持ってくるものだよ。それに私はただ、最悪でもその選択を受け入れる覚悟があるってだけ。すり合わせをする意思だってあるんだよ。だからそうやって極端に人の心を拾わないで。普通に会話もしたいからあまり深くまで読まないで。そんなのつまらないでしょ。
『……いいわ。その提案を受け入れましょう』
じゃあ仕切り直して。
私の身体から出てきたっていいんだよ? リリスは自分の身体でモニカと恋人になればいいじゃん。
『それじゃあ意味がないわ』
私のためだから? リリス自身はモニカに興味無いの?
『エコーのためだからなのはそう。私個人がモニカに興味を持っていないなんてことは無いわ』
なら怖いの? 本当の姿を晒して嫌われちゃうのが。
『どうしてそうなるのよ。エコーのためだって言ってるじゃない』
ううん。私のためじゃないよ。だって私はモニカと恋仲になりたいわけじゃないもん。精々お友達。それくらいならなっても構わない……なれたら嬉しい。その程度。
『……違いがわからないわ』
……なるほど。そういうことかぁ。
『結局行き着く先は同じでしょ? 触れ合いたいと願うものでしょう?』
それも人それぞれだよ。
『きっとまだエコーが経験していないからよ』
ぐぬぅ……。
『あ、ごめんなさい。別にエコーが万年ボッチな年齢イコール恋人いない日陰系黒魔だと言いたいわけじゃなくて』
言ってるじゃん! 全部言ってるじゃん!
『やっ! 今のは! エコーが思い浮かべた事で! ごめんなさい! とにかく違うのよぉ~!』
もう! リリスなんて知らない!
『エコぉー~! ごめんなさい! 嫌いにならないで~!』
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「エコーさん? 今朝は少し調子が悪いですか?」
「……うん。ちょっとね」
「夢見が悪かったのですか?」
「……ええ。まあ。そんなところよ」
「聖剣のせいでしょうか。黒魔とは相性が悪いのかもしれませんね」
「ダメよ。モニカ。こんなところでその名前を口にしては」
「あ! そうでした! せいふがっ!?」
「悪い子ね」
「あはは~♪ ごめんなさ~い♪」
「行きましょう。旅はまだまだ始まったばかりよ」
「はい♪ エコーさん♪」
「……エコー」
「え? なんて?」
「……なんでもないわ」
……もう。……リリス。元気出して。
『エコー!?』
リリスが滅入ってると私も暗い気持ちになっちゃうから。もう許してあげるから。仲直りしよ。
「……うぅ」
「エコーさん!?」
「……うぅ……うわぁぁぁぁぁあああん!!」
「えぇ……!? なんで!? どうして~!?」
ごめんね。リリス。ちょっと大人気なかったね。




