01-08.旅の目的
手早く討伐依頼をこなして町まで帰ってきた。
「えぇ!? もう終わったんですかぁ!? これ全部!?」
「ええ。造作も無かったわ。はいこれ。討伐証明部位の受領証明書」
「嘘!? 本当に!? 検品も済んでいるんですかぁ!? 今朝依頼を受けたばかりなのに!?」
あかん。受付嬢のあまりの騒ぎっぷりに、他の冒険者たちからも注目を集めてしまった。
「手続きを進めてもらえるかしら?」
「……」
フリーズしちゃった。
「モニカ」
「はいぃ!!」
リリスに耳元で囁かれて飛び上がった。
「報酬。頂きたいのだけど」
「は、はい! ただいま!!」
やれやれだ。
『ふふ♪ あの子面白いわね♪ エコーが気に入るだけのことはあるわ♪』
だから違うってば。
『いいからいいから♪ 私に全部任せなさいな♪』
何をする気なんだか。
「エコーさん!」
あら? 奥に来いって言ってるね。
『ふひひ♪』
楽しそうなこって。
受付嬢に導かれ、ギルドの奥へと向かった。
案内されたのは先日も来たばかりの会議室だ。ダンジョンで起こった出来事を説明するのに、随分長いこと閉じ込められていたのだ。
案の定部屋の中ではギルド長が待ち構えていた。
「調子を取り戻したようでなによりだ」
私は長いこと臥せっていたことになっていたもんね。実際十日以上も宿屋に引き籠もっていたし。
「奴らの実力は本物だった。お前も何か掴んだようだな」
まあね。色々あったからね。
「お前に頼みたい仕事がある。引き受けてはくれないか?」
先に要件を言わないのはズルいと思う。
「聖剣の護送ね。いいわよ。引き受けてあげる」
「……ああ。助かる。……本当にお前はエコーなのか?」
やっぱり鋭い。
「色々思うところがあったのよ。お陰様でね」
「そうか。……そうか」
何か考えてらっしゃる。やっぱり違和感が拭えないのかもしれない。
「何か要望はあるか? 可能な限り便宜を図ろう」
これは口止め料の話かな。一応聖剣護送の報酬って体で色を付けてくれるのかもしれない。
「同行させる職員はこちらが指名してもよろしいかしら?」
「何故だ?」
「私は黒魔術師よ。どんな噂が伝わっているかもわからないわ。ギルドから信頼出来る者を付けてほしいの。暫く私に彼女を預けてくれないかしら」
「……よかろう。事が事だからな。職員の同行も必要だ。モニカに任せよう」
「ありがとう。私からはそれだけよ。出発はいつ? 出来るだけ早めにお願いしたいのだけど」
「三日後だ」
「いいわ。準備を済ませておくわね」
リリスは報酬を受け取ってギルドを後にした。
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聖剣の護送かぁ……。リリスよく知ってたね。
『教会に返さないとって? 伊達に情報収集してないわ♪』
同じ身体を共有しているのに得ている情報が違うのは何故なのか。
『人間より情報処理能力が高いのよ。そういう種族なの。私は』
なるへそ。元は無作為に聞き取った噂話だ。人間である私とは、情報として認識しきれた内容が異なるのか。
けどさ。そもそもあの斥候と一緒に運ばれたんじゃなかったの? 彼も教会で裁かれるんでしょ? ギルドは事情聴取を行っただけでさ。
『そうね。あっちはとっくに送り出されたわ』
ならなんで聖剣だけ残ってたの?
『封印処理に手間取ったのよ。勇者でもなきゃ抜き身のままでは持ち歩けないの』
なにそれ。私知らない。噂に流れるような情報じゃないでしょ?
『アッシュから聞いたのよ♪』
いつの間に……。
『直通パスでね♪』
なんだか悪巧みばっかりだね。
『人聞きが悪いわね。これだって必要なことよ。次の勇者が困るじゃない。そしたら私たちも困るわ。勇者には魔王を討伐してもらわなきゃね』
わざわざアッシュを潜り込ませて探るのに、私たちまで教会都市に向かうのはどうなの?
『勇者に指名されてしまうかもしれないわね♪』
流石に無いでしょ。黒魔術師だし。
『女神の使徒のくせして何を言ってるのよ』
あれから何も言ってこないもん。もう私の役目は終わったんだよ。
『そうかしら? あの女神はとことんまで使い倒すタイプだと思うけど』
リスク分散でもしてるんじゃない? 勇者があんなことになっちゃったし。私はダンジョンボスと契約したし。あまり期待していないと思うなぁ。
『なんでそんなに自己評価低いのよ。エコーってここのギルドのエースだったんでしょ?』
そんなの皆が勝手に言ってるだけだもん。
『だからこそじゃない。今回の討伐依頼だって、エコー以外が成したと言われても不正を疑われていたわ。あなたは凄いのよ? 黒魔術師という、誰もが胡散臭がる職業でありながら、その実力を皆が認めていたんですもの。でなきゃギルドだって勇者パーティーに推薦する筈がないじゃない』
……運が良かっただけだよ。
『そういうところは好きじゃないわ』
うぐ……。
『けど安心して♪ 全部私が変えてあげるから♪』
……それは私のため? リリスのため?
『どっちもよ♪ 私たちは一連託生よ♪』
……そっか。
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「エコーさ~~~ん!!!」
モニカが酒場の喧騒に負けないよう、声を張り上げた。
「こちらです♪ 待っていましたよ♪」
とか言いつつ、既に飲み始めているようだ。顔がうっすら赤みを帯びている。
「ごめんなさい。待たせてしまったわね」
「いえ♪ 時間ぴったりです♪」
むしろちょっと早いくらいだ。モニカが早すぎるんだよ。
「お勧めを頼むわ。私こういうところはあまり慣れていないの」
「はい♪ お任せください♪」
次から次へと酒と料理が並んでいく。
「どうぞ♪ 今日は私のおごりです♪」
なんでさ。受付嬢ってそんなに高給取りだっけ?
さてはギルドが? 或いは特別手当でも出たのかも。安定職である筈のギルド受付嬢が、聖剣の護送なんて大役を任されたわけだし。
「ありがとう。遠慮なく頂くわ」
「はい♪ エコーさん♪」
リリスもモニカも凄い食べっぷりだ。二人では到底食べきれないであろう量の料理がみるみる内に消えていく。不思議なことに私のお腹が苦しくなることはなかった。
「あなたお酒強いわね」
「えへへ~♪ まかへてくらはいよぉ~♪」
ベロンベロンじゃん。いや、結構飲んでたけどさ。
「楽しい旅になりそうだわ」
「みひあんひゃいも~♪ おまかへ~♪」
「ええ。頼りにしているわ」
「わっふぅ~♪」
もう何言ってるのかわからないし。
「そろそろ切り上げましょうか」
「え~! まらまらのめまふよ~♪」
「なら部屋で飲みましょう。実は良い酒が手に入ってね。是非あなたにもごちそうしたかったのよ」
「いいんれふか~♪ えへへ~♪ うれひいでふぅ~♪」
えぇ……もういいでしょぉ……。
「さあ♪ 行きましょう♪」
「ひゃい~♪」
結局リリスは、酔って足下も覚束ないモニカに代わって支払いも済ませ、そのまま抱えるようにして宿に帰ってきた。
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「はっ!?」
翌朝。訂正。翌日の昼過ぎになってモニカはようやく目を覚ました。
「えぇ!? ここどこ!? きゃっ!? 服着てない!? なんでぇ!?」
騒がしい……頭痛い……。別に二日酔いじゃないけど。
「おはよう。先ずは水を飲みなさい」
「へっ! あ! ありがとうございます! エコーさん!」
グビグビと喉を鳴らして飲み干していく。豪快だ。ついでに豪快な胸部がボロンとまろび出た。豪快だ……。
「ぷはぁ~~~~!! 生き返りました!」
魔術で出された冷水はさぞかし美味かったらしい。冷たい水って妙に美味しいよね。気持ちはちょっとわかる。けどお腹冷えるよ? そろそろ服着たら?
「モニカ。次は服よ。はいこれ。綺麗にしておいたわ」
「あっ! はい! ありがとうございま……んんっ!?」
受け取った下着を手にとって固まるモニカ。まさか自分の胸の大きさに驚いたわけではあるまい。かと言って自分が服を着ていないことは既に認識していた筈だ。何を驚いたのだろうか。
「あ……え……これ……え?」
真っ赤になってしまった。
「覚えてない? 昨日のモニカったら凄かったのよ?」
「は……へ?」
今度は真っ青になった。
「大丈夫。私は怒ってないわ。むしろ嬉しかったの。これから改めてよろしくね。モニカ」
「な……なな!? なななな!?」
まったく。リリスったら。意地悪してないでちゃんと説明してあげなよ。モニカが吐いて大変だったって。大体嬉しかったって何さ。そういう特殊性癖なの? ドン引きだよ?
「わたっ! わた! わたし!!」
赤くなったり青くなったりを繰り返している。そろそろやばいんではなかろうか。
「はっ……」
あ、気絶した。
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「モニカ。次はテントよ。ほら。行きましょう」
リリスはモニカの手を握って町を練り歩いた。
「エコーさん、テントは持っていますよね?」
「私のは一人用だもの」
「なら二人で入れるのを探さないとですね♪ どうせなら広くて動きやすいのがいいですね♪ きゃっ♪」
モニカは開き直ったようだ。自分から指まで絡めてきた。
……どうしてこうなった。
『ふひひ♪』
こんなのまるであの勇者みたいだよ……。
『失礼しちゃうわ。私はまだ手なんて出してないわよ』
勘違いさせたままじゃん。ちゃんと言おうよ。
『必要ないわよ。この子だって喜んでるじゃない』
私が喜んでないことも伝わってるよね?
『時間の問題よ♪』
意味がわからないよ。リリスは私の伴侶になりたいんじゃなかったの?
『伴侶が一人だなんて誰が決めたのよ』
えぇ……。
『私に任せておきなさい♪ 必ずあの女神も堕としてあげるわ♪』
……は?
『エコーはあの女神が好きなのでしょう?』
いや。何言ってるのさ。
『あら? 自覚が無いのかしら? あなた惚れてるわよ。あの女神に。一目惚れだったの』
なん……だって……。
『私が必ずエコーのものにしてあげるわ♪ あなたの欲しいものは何でも手に入れてあげる♪ 期待していてね♪ 私のマスター♪』
えぇ……!?




