05-14.聖剣の所有者
「「「「「何卒!! 何卒!!!」」」」」
おっかしいなぁ。ちゃんと撒いた筈なんだけどなぁ。
私たちが公爵邸に戻ってから然程時もおかず、『何卒お化け』たちが大挙して押し寄せてきた。
『バレバレだったわね』
だね~。
「それで逃げてきたと」
「うん」
「『うん』じゃありませんよ……」
ティアが頭を抱えてしまった。
「まあいいじゃん。モニカも喜んでるし」
部屋の中で素振りまで始めちゃったくらいだし。
外に出られないからって、室内で聖剣振り回すのはフリーダムだよね♪ うっかりやらかせば斬撃飛ぶのにさ♪
『流石に止めるべきかしら』
いいんじゃない?
「我が認めた者が持つのは当然」
ネメちゃんもこう言ってることだしさ。
『……』
「聖剣に拘る必要があるのですか?」
ネメちゃんなら聖剣の二本や三本や五本くらい生やせるのかな? やろうと思えば。
「聖剣は貴重品。我でも量産は出来ない」
あら。そうなんだ。
「もしや、太古に存在した『ドワーフ』が鍛え上げたという噂も真実なのですか?」
「そうだよ」
そうなんだ。というかドワーフって本当に居たんだね。御伽噺の中だけの存在じゃなかったんだね。
「だから回収した」
一応気を遣ってネメちゃん自身じゃなくて、私に回収させたけど、あんまり意味なかったね。こうして屋敷にも押しかけて来ちゃったし。ネメちゃんの意思が介在していることは向こうも察した上でこれなんだから。
「このまんま知らんぷりしたらマズイのかな?」
「一度腹を割って話し合うべきかと」
魔王の件は私たちに任せとけって一言伝えておけば安心できる筈だもんね。
「それはどうかしら」
リリスが私の口を使って言葉を発した。
「と言うと?」
「教会の連中は少々驕りが過ぎると思うわ」
「こうして公爵邸にまでおしかけて来るくらい?」
「そうよ。ネメちゃんがエコーに聖剣を抜かせたという構図を理解しているなら、何も言わずに引き下がるか、或いは公衆の面前で聖剣を引き抜いたエコーをこそ、新たな勇者として認めるべきだわ。それこそ女神が本来彼らに与えた役割なんだもの」
『ネメシス聖教』の本来あるべき姿だね。
「けれど彼らの要求は聖剣の返還よ。エコーを勇者として認めるつもりがないの。この期に及んでネメちゃんの決定に意見を出せるつもりでいるのよ」
教会の人たちは結局反省してなかったんだね。あれだけのことがあった後でも。これは確かに調子に乗っている。
彼らはつい先日、女神様の奇跡を喧伝し、度重なる無礼な行いについて頭を下げてきたばかりだ。
挙句、二度も牢獄に放り込んだティアを再び聖女に据えてきた。一方的に。
だと言うのに、モニカや私を勇者として認めるつもりはこれっぽっちも無いのだ。
彼らは自由になる勇者が欲しいのだ。万が一の場合は、女神に対抗できる存在でいてほしいのだ。
そうハッキリと行動で示している。それが当然の権利であるかのように、恥じることすらなく要求してきている。
やっぱり滅ぼした方がいいのかもしれない。そこまでいかずとも、身の程を知らしめるべきなのかもしれない。
「いいよ別に。放っておいて」
やっぱりネメちゃんは完全に興味を失っているようだ。
「我もう勇者も聖女も作らないし。必要な物は回収し終えたし。ティアも縁切って。グラディス家があれば十分でしょ。三百年も放っておけば教会なんて消えて無くなるからさ」
三百年……神様スケール……。
「あれ? ネメちゃん、この家の名前覚えてたんだね」
「……エコーは我を何だと思ってるの?」
いやほら。大半の人間には等しく興味がないのかと。
「グラディスは昔から良い子だもん」
「そうなの? けどシアには厳しいじゃん」
「だってシアは何にもわかってないんだもん。グラディスのことだって何にも」
へぇ~……。これは予想外。
「とにかく気にしなくていいの。もう教会は用済み。だからって町ごと見捨てるとまでは言わないからさ。そんなのエコーたちが認めてくれないってもうわかってるし。町のことは全部グラディスとティアに任せる。皆もそれでいいでしょ」
「「『……』」」
「なに? まだ何かあるの?」
「ううん。ありがとう。ネメちゃん」
正直そこまで譲歩してくれるとは思わなかった。
「ネメちゃん様の御慈悲に感謝を」
そう。これは慈悲だ。ネメちゃんは寛大な女神様なのだ。能動的に滅ぼされないだけありがたく思ってもらわないと。
ティアは一礼して退室した。公爵と今後のことを話し合うのだろう。
「私も席を外すわ。モニカ。付き合って頂戴。シアたちを助けてあげましょう」
続いてリリスとモニカも退室していった。シア、ベルタ、アッシュの三人にも今の話を共有するのだろう。もう教会の要求に耳を傾ける必要はないのだと。そう伝えるのだろう。
ついでに聖剣を振り回すモニカを見せつければ効果覿面かもしれない。もう既に女神の使徒としてあるべき場所に収まったのだと。教会の人たちにも示してしまおう。それを決別の証としよう。伝わるかは微妙だけど。




