05-12.ドキドキ初デート・前編
「エコー♪ これこれ♪ これ食べよ♪」
ネメちゃんはすっかりいつもの調子を取り戻した。意識していたのは本当に最初だけだった。
やっぱりネメちゃんの恋は足りていないのだと思う
というわけで。私の目標はあいも変わらずネメちゃんの意識改革だ。今日こそネメちゃんを振り向かせてみせるぜ♪
「ふっふっふ♪ 良いのに目をつけたね♪ ネメちゃん♪」
早速ネメちゃんご指名の盛り盛りクレープを注文し、屋台のお姉さんから受け取った。
「一つしか買わないの? エコーの分は?」
「むっふっふ♪ 我に秘策ありだよ♪ ネメちゃん♪」
運良く空いていたベンチに腰を降ろし、隣りに座ったネメちゃんの口元にクレープを運ぶ。
「はい♪ あ~ん♪」
「? 食べさせてくれるの?」
なんで不思議そうにしてるの? いつもネメちゃんだってお菓子を『あ~ん』って分けてくれるのに。
「うん♪ 遠慮せずにどうぞ♪ あ~ん♪」
「ぱく」
「ストォップ!!!」
「!?」
「違うの! そうじゃないの! 私が『あ~ん』って言ったらネメちゃんも『あ~ん』って言いながら口を開けるの!」
「う、うん。……なんで?」
「いいから! はい! あ~ん♪」
「あ、あ~ん……もぐもぐ」
「ふふ♪ どうかな♪ 美味しい?」
「う、うん。美味しい」
お♪ ちょっと照れてる♪
『戸惑っているだけじゃないかしら』
ならまだまだこれからだね♪
「あ~ん♪」
「あ~ん……」
なにこれ!? メッチャ楽しい!! ネメちゃんいつもこんな気持だったんだ!
「……食べづらい」
「ふふふのふ♪」
『何かすれ違っている気がするわ』
きっと自覚が薄いだけだって♪
「ネメちゃん♪ ネメちゃん♪」
「なに?」
「今度はネメちゃんが『あ~ん』ってして♪」
ネメちゃんの手を取ってクレープを握らせた。
「……エコーに?」
「もち♪」
「……これ我のだよ?」
「わけっこしよ♪」
いつも通りにさ♪
「……」
何故そこで止まるのか。
「ネメちゃん。ネメちゃんは大切なことを忘れているみたいだね」
「……何の話?」
「今ネメちゃんは人間の身体を得て弱体化しているんだよ。だから食べ過ぎたらお腹壊しちゃうの」
「……だから分けるの?」
「そうすれば色んなものを食べられるでしょ♪ このクレープだって他にも種類がいっぱいあるんだよ♪ 全部食べないと勿体ないじゃん♪」
「……なるほど」
よしよし♪ 納得してくれたみたい♪
「てことでネメちゃん♪ 『あ~ん』して♪」
「……あ、あ~ん」
「あ~ん♪ もぐもぐ♪」
甘い♪ 美味しい♪
『……これは想像以上に大変かも』
何の話?
『なんでも無いわ。その調子で続けて頂戴』
がってん♪
「ふふ♪ 美味し♪ じゃあネメちゃん♪ 次はまた私が」
「ぱくっ! ごくり!」
「なんでぇ!?」
ネメちゃんは手元に残ったクレープを一瞬で飲み込んでしまった。
「ごちそうさま。満足したから他のとこ行こ」
「クレープは!? おかわりは!? あ~んは!?」
「もうおしまい。ほら。立って」
そんなぁ~!?
ネメちゃんは私を置いて歩き出してしまった。
『早く行きなさい』
慌てて駆け寄り、ネメちゃんの手を握る。
「次はどこ行こっか♪ あ♪ あっちに串焼きが♪」
「食べ物はもういい」
「生搾り果汁♪」
「飲み物もいらない」
ネメちゃんは屋台に目もくれず歩き続ける。
何かやりたいことでもあるのだろうか。
もしかしてネメちゃんも下調べしてくれたとか♪ モニカから何かオススメを聞いていたのかも♪ ふふ♪ どこに連れて行ってくれるのかな♪ 楽しみだなぁ♪
『エコー。これ帰ろうとしてるんじゃないかしら』
……あれ? 公爵邸こっちだっけ?
『ええ。真っ直ぐ目指しているわ』
マズイ!? 何か機嫌損ねちゃった!?
『あれよ! あれに誘ってみなさい!』
がってん!
「ネメちゃん!」
「なに?」
「輪投げだって♪ 勝負しようよ♪」
「わなげ?」
それは知らないんだ。
「ほら来て♪」
主導権を握り返し、ネメちゃんの手を引いて、リリスが目をつけてくれた露天に向かう。
「お♪ やってくかい♪」
「……」
あ、やべ。
「ええ♪ やらせてもらうわ♪」
「おう♪ 一ゲーム三回までだ♪」
ありがとう♪ リリス♪
『いいえ~♪』
まさか言葉が出てこないとは。さっきのクレープ屋のお姉さん相手なら問題なかったのに。
「ネメちゃん♪ 先ずは私がお手本を見せてあげる♪」
えい! とりゃ! はっ!
「あ~。残念だったね~。また挑戦しておくれ♪」
かすりもしなかったぁ!?
「……次は我がやる」
「お♪ そっちの美人さんも挑戦するのかい♪」
まるで私は美人じゃないかのような物言いだ。ぷんすか。
『マジモンの女神様と比べちゃ仕方ないわよ』
リリスぅ!?
『私はエコーが一番よ♪』
もうやめてぇ! なんかそういうフォローが一番心に来るからぁ!
『それよりほら。ネメちゃんをちゃんと見ていないと』
そうだった!
「……」
ザシュ! ザシュ! ザシュ!
「ひっ!? ひぃぃぃ!?」
ネメちゃんがノーモーションで投げた輪っかは、あらぬ方向に飛んでいき、周囲の石畳や建物の壁に突き刺さった。
『凄いわね。普通なら輪の方が砕け散る筈なのに』
物理法則完全に無視だよね。おじさんの髪の毛掠っただけなのにツルッパゲだね。
『ギリギリだったわ。運が良かったわね』
果たしてこれは運が良かったと言って良いのだろうか。
「これで良いの?」
「ううん。全然ダメダメ」
「むっ! もっかいやる!」
「かっ!? 勘弁してくれぇ!!」
あら残念。折角ネメちゃんがやる気になったのに。




