05-04.何卒お化け襲来
「神よ! どうかお許しください!!」
教会のお偉いさん方が命乞いをしにやって来た。
どうやら微妙な誤解が生じているらしい。……誤解? でもないのかな? むしろ正確に現状を理解している? その上で? ちょっとよくわからない。どうしてそんな結論になったのか。詳しく聞いてみたいところだけど、かなり恐れられちゃってるんだよね。どうしたものやら。
彼らの言い分はこうだ。
神の怒りによって、この『教会都市リブラ』が壊れてしまった。このままでは間違いなく崩壊するだろう。だからどうか、その前に怒りを鎮めて立ち去ってほしいと。要約するとそんな感じだ。合ってるんだけど違うんだよなぁ。
やっぱり教会都市を名乗っておきながら女神を追い出そうとするのはどうなんよと思わなくもないけれど、今重要なのはそこじゃない。とっくにわかりきっていたことだし。
「何卒! 何卒!!」
平身低頭するばかりだ。ちょっと考えるから静かにしてほしい。
私たちは、現在進行系で何かしているわけではないし、ネメちゃんの存在が直接土地に悪さをしているわけでもない。
むしろこの窮地を脱しようと策を練っていたところだ。具体的方針も固まった。後は準備を済ませて動き出すだけだ。
けれど彼らは一刻も早く出ていってほしいそうだ。これ以上何もせずにと。そう言い張るばかりだ。頼み込んできたくせにこちらの言い分を聞くつもりがまるで無いのだ。
こんな強引なマネをして女神が本当に敵に回ったらと考えないのだろうか。或いはそんな事にも気がつけない程に追い詰められてしまったのだろうか。
それともまさか、この人たちは単なる使いっ走りで、「追い出した」という結果以外を持ち帰れない状況にあるのだろうか。誰かに家族を人質にでもされているのだろうか。
そんなことを考えてしまうくらいに話が通じない。
これでは作戦を共有する事もできない。やっぱり秘密で進めるしかないのだろう。
リリスの言っていたことがわからないわけじゃない。主張は大切だ。でなければきっと彼らは怯え続けるだろう。私が気にしなければ済む問題ではなくなってしまう。それが今まさに形となって現れたのだ。リリスの言っていたことはやはり正しかった。
かと言って、今の状況で主張しても理解されることはないだろう。先ずは何より結果を示さなくちゃだ。状況は刻一刻と悪くなっている。何か大きな改善を示さないと。策ではなく結果として。
『今のままではコアのリソースが足りないわ』
リリスは今現在二つのコアを所有している。
そのどちらにも、フィリアスを生み出せる程のリソースが残っていないそうだ。
一旦リリスを介して力を流し込めればとも思ったのだけれど、リリスは私の眷属であってネメちゃんの眷属ではない。だから流し込むには私を介する必要がある。
今の私は少々特殊な身体だ。あまり無茶をしては砕け散ってしまうかもしれない。必要なリソースとはフィリアスを生み出す分だけではない。ダンジョン生成の分だって必要だ。
魔王を引っ張ってきてもいいのかもしれないけれど、それはそれで混乱を引き起こしてしまうかもしれない。そもそも魔王城まで行くには時間が掛かり過ぎる。その前にこの都市は完全に滅びてしまうだろう。
コアを集めて専用のフィリアスを生み出す必要がある。或いはフィリアスが誕生したダンジョンを見つけ出して、その子を勧誘するのでも構わない。
とにかく、強い力を秘めたダンジョンが必要だ。
ティア、モニカ、アッシュの三人にお遣いを頼むことにした。近場の高難度ダンジョンを調べてもらっているのだ。
とはいえ、いきなりダンジョンに乗り込むわけじゃない。むしろそこは私たちの役割だ。コアの掌握には専門の知識が必要なので、リリスが直接赴かなければならない。
だから三人はあくまで情報収集を行っているにすぎない。今は冒険者ギルドに顔を出してもらっている。今更だけど聖剣護送の件も報告しなきゃだし。ついでに教会で受けた扱いも正式に抗議しておくそうだ。私もこの都市には迷惑をかけてしまっているけれど、それはそれなのだろう。
上手くすれば冒険者ギルドを味方につけられるかもしれない。後々を考えるなら、一人でも味方が大いに越したことはない。これから生み出すフィリアスにはこの町で暮らしてもらわなければならないのだから。
三人が戻るまで、私たちに出来ることはない。下手に力を使えば、それこそ彼らの言うように状況を悪化させてしまうかもしれない。
かといって、シアとベルタだけでは止められそうにない。ネメちゃんはへそを曲げて奥に引き籠もってるし。それ自体はむしろ幸いなのだけど、かといっていつまで続くかはわからない。危険な状況だ。
『私に任せなさい♪』
ありがとう。リリス。お願いね。
『がってん♪』
リリスが私の身体を操ってお偉いさん方の前に出た。
彼らはすぐにこちらをターゲットに変更した。
「落ち着きなさい。神は今、準備を進めています」
がやがやガヤガヤ。
返ってくるのは相変わらず「何卒何卒」だけだ。早く出ていけの一点張りだ。こちらの言葉は届いているっぽいのに。明らかに焦っている様子だし。まだ何かする気なのかと震え上がっちゃったし。
「静粛に!!!」
「「「「「「!?」」」」」」
リリスが魔力を乗せた言葉を放った。すっごい力技。
「考えてもみなさい!! 神が軽く力を振るっただけでこの有様なのよ!! この地にどれだけの不浄が溜まっていたと思うの!? それに気付きもせず何を言うかと思えば!! 恥を知りなさい! 神の救いを汚そうと言うなら使徒たるこの私が許さない!! 邪魔をするなら相手になるわ!」
「「「「「「……」」」」」」
すごぉい。あんなにうるさかったお爺さんたちが一瞬で。
けどこれ……いいの? まるでこの人たちのせいみたい言っちゃったけど、実際やらかしたのは私なのに。
『嘘も方便よ』
あ、はい。すんません。続けてください。
『なんでエコーまでビビってるのよ』
いや、そんなこと……ないよ?
『後で話し合いましょうね』
はぁ~い。
それから程なくして、何卒お化けたちは帰っていった。
結局話は聞いてくれなかった。それはそれで別にいいのかもしれない。やっぱり先に結果を出すのも大切だと思うし。
とにかく急ごう。次回はこの程度じゃ済まないかもだし。




