05-01.緊急事態
「あれ? ネメちゃん寝ちゃったの?」
「そうなんです。急にコテンって。驚きました」
私の肉体をぶんどった影響だろうか。
今のネメちゃんって、人間らしい生理現象も備わっている状態なのかな。これは確かに驚きだ。
「こうしていると可愛いものですね」
モニカは、自分の膝を枕に眠るネメちゃんを撫でながら、優しげな微笑みを浮かべている。モニカって母性も強いのかもしれない。彼女の表情を見てそう思う。
「シアさんとティアさんはご一緒ではないのですね」
「教会に行くって」
「二人だけで大丈夫でしょうか。とても不安です」
なんとかなるでしょ。たぶんきっと。
「私が見てくるわ!」
心配性ママンなリリスが飛び出して行った。残念。相談に乗ってほしかったのに。
けれどお陰で、もう一人のママも安心したようだ。
「エコーさん。ネメちゃんをお布団に運んであげましょう」
そうだね。私が近づいても気が付かない程深く眠っているみたいだし。起こすのも可哀想だ。
私がネメちゃんの頭を抱えている隙に抜け出したモニカが、ネメちゃんを抱き上げてベッドへと移動した。
ネメちゃんは動かしても起きる様子がなかった。すやすやと気持ちよさそうに眠っている。けれどモニカが離れると、すぐに寂しそうな表情を浮かべてしまった。
それを見たモニカはネメちゃんの隣に潜り込んだ。途端にネメちゃんの表情は和らいだ。モニカの腕を抱き締めて幸せそうに眠り続けた。
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『……エコー……エコー……起きて……エコー』
……ネメちゃん?
……あれ? また夢の中? なんで?
『違うの。起きて。目を覚まして。助けて。エコー』
どうやら現実から話しかけているようだ。
目を覚ますと、眼の前に頬を赤らめたネメちゃんの顔がドアップで現れた。昨晩はネメちゃんを間に挟んで、モニカと三人で眠ったのだ。アッシュはいつも通りどっか行った。
「……ぐすん」
あらま。
どうして泣いちゃってるのかしら。
「……これ」
ネメちゃんに手首を握られて導かれた。……あらま。
「……ぐすん」
お漏らししちゃったのかぁ。
しゃあないよ。人間の身体に慣れてないんだから。
幸いモニカはまだ起きていないようだ。今のうちに浄化の魔術で綺麗にしてしまおう。
「ピュリフィケイション」
閃光が広がった。
「っ……!? 何事ですかぁ!?」
驚いて飛び起きるモニカ。屋敷中からもドタバタと足音が聞こえてくる。
「……ばかぁ」
ごめんて。
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「驚きました」
教会に居たティアたちからも見えていたようだ。
なんなら、教会都市中の人たちが馬鹿げた閃光を目撃したそうです。曰く、夜闇に突然太陽が出現したかのような眩しさだったとのこと。ご迷惑おかけしました。
「ごめんなさい。お風呂入ってないの思い出して。つい」
まさかあんな威力になるとは思わなかったんよ。
当然ネメちゃんのおねしょはナイショだぜ。いっそ話した方が誤解も解けるかもしれないけれど。
「エコーでも失敗するのですね」
そりゃまあ、私は人間だもの……人間? だよね?
私の今の身体って、『女神の天秤』と呼ばれる水晶なんだよね。もう人間じゃないのかもしれない。……後で考えよ。
「主が都市ごと葬り去ろうとしたのではないと伝われば皆も安心することでしょう」
「そう簡単な話ではないのだわ」
シアも戻ってきた。公爵令嬢の立場で色々と後始末……調べてきてくれたのだろう。
「マズイことになったのだわ」
本当にやばそう。
「浄化の魔術。それは確かに直接的な害を及ぼすものではない筈なのだわ」
筈……。
「威力も範囲も強大すぎたのだわ。下水処理を任されているスライムたちが全滅したのだわ」
あらぁ……。
「それだけじゃないのだわ。パンや酒に必要な菌まで全滅しているのだわ。それから魔導具の不具合も報告されているのだわ。堆肥だってただの土と化したのだわ。更にはこの地に存在する水は全て聖水に置き換わったのだわ。いずれ川にだって大量に流れ出すのだわ。そうしたらもっと多くの魔物たちが死に絶えるのだわ」
うわぁ……。
「まだまだこんなものではないのだわ」
どうしよぉ……。




