04-10.解放
神像が砕け散った。
飛び散った破片が騎士たちを撃ち抜いていく。
本来安息と祈りの場である礼拝堂は、またたく間に血と悲鳴で埋め尽くされた。
神像のあった場所には一人の女性が浮いている。
『黒魔女』と呼ばれたその女性の肉体は、少しずつ姿を変えていった。
夜闇のように艷やかな黒髪は、透き通った銀髪に。
全てを飲み込む漆黒の瞳は、星の瞬く深い蒼の瞳に。
歴戦の黒き外套は、神秘を湛えて揺蕩う純白の神衣に。
……あれ? ……ネメちゃん?
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「エコーさん!?」
「これは……!?」
エコーの姿が変わっていきます! あれではまるで主の姿そのものではありませんか!
「くっ……!! 間に合わなかったのだわ!!」
オルテシア! それにあれは公爵!?
何故彼女が公爵家の兵と共に!?
「……」
主は冷たい表情のまま礼拝堂に集まった者たちを睥睨なされました。
(マズい!!)
主はゆっくりと右の手を掲げました。
背筋に走った悪寒に押されるように飛び出し、主の足下へと駆け込んだ。
「お待ちを!」
「……ユースティリア」
やはり!
「どうか! どうかお許しを!」
「なりません」
「主よ!!」
「……エコーまで?」
エコー!? もしや意識があるのですか!?
「……え~。けど~」
何やら話しておいでです。エコーが主の内側からも止めてくれているようです。
「……だってさ~」
……主はこのような話し方ではなかった筈ですが。
「……我がやるから。……なんでよ~」
誰もが固唾を飲んで見守ります。少々緊張感の抜ける言葉遣いではありますが、その身から放たれ続ける圧倒的なお力には抗いようもありません。
「……うっさい! 邪魔しないでよ!」
あぁ……そんな……。
「リリスは黙ってろ!!」
……ああ。なるほど。
「……もう。わかったよぉ。今回だけだからね」
主は静かに腕を降ろされました。
そのまま地上へと降り立ち、堂々たる足取りで歩みを進め始めました。その行く先には光の道が現れました。
「ユースティリアもついてきて。あとついでにモニカも。仕方がないから連れて行ってあげる。エコーに感謝してよね」
主が歩まれる光の道には、私とモニカだけが立ち入ることを許されているようです。騎士たちどころか、オルテシアすらも壁に阻まれて見守るしかありません。
「……ダメ。後にして」
エコーが何か交渉をされているようです。オルテシアの同行を願い出たのでしょう。しかし主はお認めになられませんでした。あくまで私とモニカだけが許されたようです。
「……行きましょう。ティアさん」
モニカは油断無く主の背中を見据えています。その手には魔剣が握られており、その警戒心は、主ただ一人に向けられています。騎士たちのことは既に眼中に無いようです。
やむを得ません。今は従いましょう。主の思惑が読み取れないのですから。このままエコーを返してくださらないのではとても困ってしまいます。
もしそうであれば……私は……。
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『なんでだめなの~?』
「後にしてってば」
『ねぇ~ねぇ~。シアとベルタとアッシュもさ~』
「わかってるってば。事情はちゃんと説明する」
『リリスにも優しくして♪』
「……嫌」
『お~ね~が~い~』
「嫌ったら嫌! エコーは我のなの! 追い出さないであげてるだけありがたく思ってよ!」
『も~』
しゃあない。後にしよう。ごめんね、リリス。もう少しだけ待っていてね。
『♪』
可哀想に。ちょっと喋るだけでネメちゃんが不機嫌になっちゃうから。
「我の計画と違うんだもん」
計画?
「なんでもない」
『そっか。それで? この後はどうするの? このまま私の身体使うんじゃ、ぎゅって出来ないよ?』
「ちゃんと策は用意してあるってば」
『他に身体があるの? まさか生贄とか?』
「もう! そんなわけないでしょ!」
『だよね。ごめんごめん』
「大切なエコーの身体を作るのに不純物なんて混ぜるわけないじゃん」
『……え? 作るの私の身体なの?』
「そりゃそうだよ」
『じゃあこの身体は?』
「我が使うに決まってるじゃん」
『なんでさ』
「それしかなかったの。もう。文句言わないでよ」
えぇ~……。




