04-03.女神の期待
「エコー」
……何か……聞こえ……むにゃむにゃ……zzz。
「エコー。静寂なる安らぎはここまでです。意識の糸をたぐり寄せ、現世と幽世の狭間……この『幻夢の境界』へと這い上がりなさい。汝の魂に、避けること能わぬ『啓示』を刻み込むとしましょう」
……?
「エコー。目を覚ましなさい。今一度、力を授けます」
……あ、女神様。
……あれ? ここどこ?
「ここは、肉体の牢獄から解き放たれた精神が、虚無と現実の境界を彷徨う場所。学術的な理を以て解くならば、脳髄が覚醒の光を宿しながらも、四肢が深い闇に縛られし『急速眼球運動を伴う逆説的睡眠』……すなわち、幻想を真実と見紛う浅き眠りの檻の中です」
……?
「所謂『レム睡眠』です」
……?
「比較的浅い眠りです。人間はこの状態で夢を見ます」
……なる……ほど。
「戸惑っておいでですね」
そりゃぁ……まあ……。女神様……だよね?
「左様。汝がその卑小なる知性と直感の果てに導き出した解は、宇宙の真理の一端を射抜いております。我は万物を統べ、運命の糸を紡ぎし高次の存在。すなわち、汝ら定命の者が畏怖と敬意を込めて呼び習わすところの『神』という概念の一端に他なりません」
……ごめん。もう少しわかりやすく。
「……はい。その通りです。我は女神ネメシスです」
……ありがとう。女神様。
「……すみません」
……こちらこそ。なんかごめんなさい……。
「エコー。あなたは力を望まれましたね」
え……ああ。うん。皆を守りたくて。危険に晒したくなくて。だったら私一人で魔王を倒すのが手っ取り早いかなって……そう思ったんだ。
「ならば授けましょう。我が力の一端を」
え? いいの?
「はい。あなたには期待しています」
そっか。女神様、私を好きになってくれたんだ。
「好っ……!? 何を仰っているのですか!?」
ありがとう。女神様。私頑張るね。
「え、あ、はい……お願いします」
頑張ったらご褒美くれる?
「……お約束しましょう」
なら女神様も家族になってね。
「……はい?」
約束だよ♪ 私頑張るからね♪ とっても強くなっちゃうからね♪ きっと迎えに行くからね♪
「ちょっ!? 待っ……!!」
ああ。なんだか身体がふわふわしてきた。
またね。女神様。
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「……あれ?」
何か夢を見た気がする。……けど内容が思い出せない。
「エコー……あなた……それは……」
『今度はこっち!? いったい何があったのよ!?』
起きたばかりの私を目にした、ティアとリリスが驚いている。リリスはティアの調整を中断して飛び出してきた。そのまま今度は私の中に潜り込んできた。
『……あら。そういうことなのね』
リリスはすぐに状況を把握したようだ。私にも教えてほしい。なんだか力が漲っている気がするの。
『気がするもなにも十倍くらいに膨れ上がっているわよ。女神も雑なことをするものね』
女神様?
『夢に現れて力を授けたの。ついでにナンパされて慌てふためいていたわ』
ナンパ? 誰が? 誰に?
『よくやったわ♪ エコー♪』
なんだかよくわからないけど。……まいっか。
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「実は私もなのです」
ティアも女神様から力を授かったそうだ。夢の中で久しぶりに話をしたらしい。嬉しそうだ。けどちょっと複雑そう。
ティアが新たに受け取った力は、私には遠く及ばないものだった。女神様は私に期待していると口にした。逆にティアにはそれ程の期待を寄せていないのかもしれない。と、ティア本人は思い悩んでいるのだ。少しだけ。
リリスは今朝から大忙しだ。私とティア二人のメンテナンスに掛かりきりだ。一応私の方は安定しているので問題も無いのだけれど、リリス的には不安で堪らないようだ。
リリスはいつも飄々としている。こんなに慌てている姿は珍しい。それだけ私たちのことが大切なのだろう。リリスは何より私を大切に想ってくれているから。私のハーレムが欠けて私が悲しむことだって怖くて堪らないのだ。もちろん私自身を失うなんて論外だ。
とはいえ、状況としてはティアの方が問題だ。私は安定しているけれど、ティアの方はそうでもないらしい。リリスが支えることを前提に雑に力を突っ込まれたそうだ。女神様は加減が苦手なのかもしれない。つくづく極端な神様だ。
けれど彼女は、間違いなくティアのことも想ってくれていた。それだけは確信を持って言えるだろう。ティアの表情を見れば一目瞭然だ。よかったね♪ ティア♪




