04-01.修行編・開幕
私たちは少しだけ腰を据えて修行をすることにした。
ティアがまだ少し本調子ではないので、療養のための口実でもある。そうでも言わないと、ティアはすぐに出発したがるからね。困った真面目ちゃんだ。
もちろん修行の必要があるのも嘘じゃない。特にモニカの技量はまだまだ向上の余地がある。というか技術に関してはほぼ素人同然だ。今のモニカはただ強いだけだ。聖剣の力で引き上げられた高い身体能力で振り回しているだけだ。
大概の魔物はこれでも十分だろう。多少知能が高くたってスペック差を埋められる程じゃない。それだけ今のモニカの力は圧倒的だ。
しかし魔王はダメだ。高位の魔族だって手には負えまい。せめて私やティアに一太刀くらいは入れられないと、そもそも勝負の土台に上がることすら出来はしない。
「はっ! ふっ! げべっ!?」
あ、転けた。
ぷりちーなお尻が突き出された。
「すぐに立ち上がってください。隙を作る癖は直してください」
ティアが杖でモニカの尻を小突いた。そのちょっとした動作でモニカがゴロゴロと転がっていく。
もちろんティアの腕力が特別に凄いわけじゃない。ティアは女神様から貰った力を完全に制御している。防具として全身に纏うだけでなく、膂力を強化したり、衝撃波のように放って攻撃にも転用出来るのだ。
いかにモニカの身体能力が高く、その身体が下手な鋼鉄以上に頑丈ではあっても、肉体は小柄な少女そのものだ。
つまり軽い。
聖剣と魔剣の両手持ちでもまだ足りない。
そもそもモニカが使いこなせていない。
剣に振り回されることこそないけれど、その重みを有効活用出来ているとは言い難い。
更に聖剣には、重量を自在に変化される力もあるそうだ。
実際適性の無い者では持ち上げることすら出来ない。これを上手く扱えれば、敵をその重量だけで真っ二つにすることだって可能な筈なのだ。
しかしモニカは何の力も引き出せていない。ただ力任せに振るっているだけだ。
振り方……ひいては身体の動かし方自体は中々のものなのだけど、戦術という意味では片手落ちだ。素振りがどれだけ上手くたって、見事な演舞を披露できる体幹が備わっていたって、「敵を斬る」という目的が果たせるとは限らない。
別に覚悟が無いわけじゃない。モニカは遠慮なんてしていない。本気でティアを斬ろうと振り下ろせている。けれど当たらない。そのための思考が出来ていない。ただ近づいて振り下ろすだけだ。華麗に剣を振り回しているだけだ。それでは格上とは戦えない。戦いにすらなり得ない。
モニカは幾度も転がされた。まるで大人と子供だ。ティアには指一本触れられない。剣先を掠めることすら出来はしない。そのための工夫が足りていない。駆け引きというものをまるで理解出来ていない。
もちろん口では説明済みだ。本人も理解はしているのだろう。本人なりに工夫もしているのだろう。今はまだ経験が足りないだけなのかもしれない。
けどなんとなく違和感。
もしかしてだけど、モニカってその手の才能だけは致命的に無いのではなかろうか。センスと才能の塊ではあっても、ほんの少しだけおバカなのではなかろうか。
あまりにも成長が無さすぎる。普通はこんなものなのだろうか。或いは命懸けの経験が必要なのだろうか。もっと追い詰められないと真の才能が目覚めないタイプなのだろうか。
「エコー様」
「……ごめん」
いけないけない。こっちもちゃんと指導してあげないと。
私の生徒はシア、ベルタ、アッシュだ。多くね?
相変わらず前衛少ないなぁ。新生勇者パーティー。七人もいるのに、モニカ以外前衛がいないんじゃん。お陰で剣士でもなんでもないティアが教育係を務める羽目になってるし。一応療養中の筈なのだけど。
リリスは相変わらずティアの中に籠もっているし、魔術の教師役が私になるのは致し方のないことだけれども。
「……アッシュ。手伝い」
「はい。主様」
アッシュは一足先にリリスの修行を受けていたもんね。講師の補助役を任せてみようか。察しも良いし、きっと私の言いたいことを代弁してくれるだろう。頼りにしてるぜ♪
「……三色……おさらい」
私は「体内魔力」「自然魔力」「神聖力」の三つを球体にして手の平の上に浮かべてみた。
「さらっととんでもない技量を披露されたのだわ」
「……基礎」
これ魔力制御の基礎訓練でやるやつだよ。シアだって出来るでしょ。
「三色同時は基礎とは呼ばないのだわ」
「「(こくこく)」」
ベルタどころかアッシュまで頷いてるし。仲良いね。皆。
話を進めよう。
「……自然魔力……ここフラット」
ここはリリスが産み出したダンジョンの一室だ。というより、一室だけのダンジョンと言った方が正しいか。入口から直接ラスボス部屋直行だ。どこにでも持ち歩ける家みたいなものだ。超便利。もっと早く出してほしかった。
あかん。話が逸れた。
とにかくだ。自然魔力は周囲の影響を受けやすい。火の性質が強ければ火の魔力が。水の性質が強ければ水の魔力が。周囲の環境に応じて異なる魔力が集まってくるものだ。
けれどここの魔力に属性は付与されていない。これはむしろ珍しい。ダンジョンならではの特徴だ。なんならダンジョン内でだって魔力の性質は偏るものだ。
その辺の性質に応じて扱い方も変わってくる。火属性の制御が得意な人は、地属性の魔力を上手く扱えなかったり、水属性の制御が得意な人は、風属性を上手く扱えなかったり。
人によっては限られた属性の魔術しか扱えない。
「逆なのだわ。全属性使えるエコー様がおかしいのだわ」
「「(こくこく)」」
え~……。
も~。一々驚かれてたら授業進まないんだけど~。
「失礼したのだわ。進めてほしいのだわ」
三人の目は真剣そのものだ。何一つ見逃すまいと意識を集中してくれている。
なんかよくわかんないけど、掴みはバッチリだね。
興味を持って頂けたのなら何よりです。




