03-05.魔女と聖女
「あなたが『エコー』ですね」
(うわっ!? 急に落ち着いた!?)
今の今まで、天に御わす女神様に向かって、散々っぱら詰問の声を張り上げていた聖女様。
しかし何故か突然冷めてしまったようだ。挙動不審だ。
或いは何かしらの答えを得たのかもしれない。私には聞こえなかっただけで。女神様は聖女の脳内に直接声を届けてきたのかも。
聖女は私に向き直って、落ち着いた声で問いかけてきた。
私のこと知ってたんだね。
とすると聖剣護送の話とかも聞いていたのかな?
「オル……グラディス公爵令嬢は何処に?」
真っ先に気にするとこそこなんだ。
「……ダンジョン」
「……何故?」
……何故って言われてもなぁ。
「……彼女を新たな勇者パーティーに?」
察しが良すぎる……どうしてそう判断したのさ。
ああ。私がダンジョンに放り込んで育成しているとでも考えたのか。
「図星のようですね」
なんでわかったし。
「真の狙いは私ですね」
唐突な自意識過剰。
「より正確に言うならば、私を通して主に何か問いたいことがあるのでは?」
なんだそっちか。いや、えぇ……なんでわかるのぉ……。
「ふむ。その内容についても理解します」
予想とか想像とかすっ飛ばして共感されてしまった。
え? なに? 本当は聖女やりたくないの?
「オルテシアと話さねばなりません。急ぎましょう」
もしかして追いかけるの? 付いて来いってこと? そもそもダンジョンの場所わかるの?
「……ダメ」
「何故ですか?」
「……ダンジョン、大きい」
たぶん中で行き違うよ。相当入り組んでいるだろうから。
「……わかりました」
素直。何か失敗した経験でもあるのだろうか。
「エコー。あなたの話を聞かせてください」
何故か私の隣に腰を下ろす聖女様。私の方ではなく、まっすぐ前を見据えている。もしかして気を遣われた?
にしても真っ直ぐだ。姿勢だけでなく、その身体も。
「エコー」
ごめんちゃい……。
「失礼。まだ名を名乗っておりませんでしたね」
知ってるよ。聖女様でしょ。
「我が名は『ユースティリア』。聖女を務めております」
名前だけ? 苗字は無いのかな? 貴族じゃないの? 平民の割にはすっごい育ちが良さそうだけど。
「エコー。あなたは『勇者』を背負う覚悟がおありですか」
モニカなら背負うけどさ。そうじゃないんでしょ。聞いてるのは。
過程をすっ飛ばして答えのやり取りだけで済ませるタイプだ。この人。
「……勇者……違う」
「認め難いのであればそれも結構」
伝わってないなぁ。さっきまで察し良かったのに。
「……預かりもの」
聖剣を指し示す。
「勇者が他にいるのですか?」
女神様からは何も聞いていないようだ。
「……うん」
モニカが勇者になるんだよ。私じゃなくてね。
「ならばあなたは?」
「……断罪者」
「勇者を罰するために力を与えられたと? あなたが彼を殺したのですか?」
「……そう」
正確にはあの斥候だけど。それはこの聖女も知っているだろう。勇者の件は聞き及んでいるみたいだし。だから質問の意図はそういうことではない筈だ。
「あなたは『悪人』ですか?」
「……違う」
これはどっちだろうね。取り敢えず答えちゃったけど。
この人の質問には色々込められ過ぎていて大変に危険だ。大概はその類まれな頭の良さで正確に読み取ってくれるみたいだけど、読み違えることだってないわけじゃない。だから怖い。普通の人と話す以上に。
「あなたの務めは続きます」
あら。やっぱり。
「その聖剣が何よりの証です」
だから私じゃないんだってば。
「聖剣を抜きなさい。力を示しなさい。女神様にお会いしたいのならば」
それじゃあ本末転倒でしょうに。
「我が力も尽くしましょう。他ならぬあなたの隣でなら」
女神様に選ばれた聖女のくせして、自分でも勇者を見定めるつもりなんだ。この聖女様。
というかなんで私なのさ。まさか気に入ったの? この短時間で? どんなチョロインさ。
ダメだぁ……。
この聖女様が何考えてんのか全然わからん……。
やっぱ私には荷が重いよぉ……。
「やはり不服ですか」
あっさり諦めちゃった。まさか冗談だったの?
「……任せる」
私は聖女に聖剣を差し出した。
ごめん、モニカ。聖剣は一旦聖女様に預けるね。もしこのまま教会都市に行くなら、きっとまた会えるから。今だけは手放すけどお許しを。私の心の平穏のために。
だから聖女様。どうかこれを持ってお帰りください。




