02-10.夢はでっかく
「すみませんでした……」
話したらちゃんとわかってくれたようだ。よし良い子。
『エコーも大概甘いわね♪』
いいでしょ、別に。
『もちろんよ♪ ふひひ♪』
ぐぬぬぅ……。
モニカへのお説教を終えた後、遅い夕食を済ませ、もう一度四人で話し合っておくことにした。
「モニカ様には間違いなく勇者の素質があるのだわ」
「あるのは素質だけよ。二十間近の成人女性が一から剣の修業を積んで務まる程、魔王討伐は甘くないわ」
あら。リリスもそういう認識はあったのね。
「それは確かにその通りなのだわ」
「そんなぁ~……」
夢は夢で別に見ても構わないけどね。現実はね。
「けど安心してほしいのだわ♪ そのためのグラディスなのだわ♪」
「どういうこと?」
「代々グラディス家は勇者の育成を務めてきたのだわ♪」
なるへそ。そういう立ち位置だったんだ。私もそこまでは知らなかった。
「けどシアって目が良いだけよね?」
「酷い言い草なのだわ。けれど事実なのだわ」
どうしてこう、どいつもこいつも自信だけは一丁前なのかしら。
「基礎であれば私がお教え出来るかと」
ベルタもかぁ。
あのへっぴり腰を見ればわかる。このメイドさんは実戦経験がまるで無い。訓練だけで知った気になっているようじゃ論外だ。
「エコー様は?」
「生粋の魔術師よ」
剣を握った経験が無いどころか、腕力ではモニカにだって劣る程だ。これは比較対象がおかしいだけかもだけど。
「エコーさん!」
なんでまた燃え上がっているのかしら。この子は。
「私やります! どんな修行だって耐え抜いてみせます!」
その先生がいないって話をしているんだけど。
「見ててください♪ 必ず魔王を倒して世界を平和にしてせますから♪ エコーさんに相応しい勇者になりますから♪」
随分と惚れ込んでくれたものだ。
「早速今から素振りしてきますね♪」
「待ちなさい」
その聖剣は大切なお届け物でしょうが。
……仕方ない。明日出発する前に武器屋に寄って木剣でも買っていこう。
『がってん♪』
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「ありがとうございます♪ エコーさん♪」
翌日予定通りに木剣を買い与えると、子どものように無邪気に喜んでくれた。
この子が十九歳って本当? 私より年上だよ? 全然そうは見えないけど。もちろん私が老けてるって話ではなく。
背中に聖剣、腰に木剣を携えた、ちみっこ受付嬢。
しかしその胸には、誰より大きなものを秘めている。むしろ持て余している。たゆんたゆん。主張が激しい。
『まるでおじさんみたいよ。エコー』
なんでこの子はダンジョンボスなのに、そういうの知ってるんだろう。
『日々学んでいるからよ♪』
成長早いなぁ~。
『エコーも成長したわね♪ モニカへの興味が隠しきれなくなってきたわね♪』
人をむっつりスケベみたいに言わないでほしい。
『自覚あるんじゃない♪』
そんなんじゃないやい!
「エコー様。本当に徒歩で行かれるのですか?」
「馬車は酔うから嫌いなの」
もう二度と乗るもんか。
「慣れておいた方が後々困らないと思うのだわ」
「どうして?」
「勇者様と言えばパレードですもんね♪」
「そういうことなのだわ」
勇者パーティーに入ると強制的に乗せられると……。
「ふふ♪ エコーさんにも苦手なことがあったんですね♪」
あるよそりゃあ。たくさん。
「エコー様は不思議なのだわ。出身はどちらなのかしら?」
「うふふ♪ 秘密よ♪」
なんで隠したの?
『その方が面白そうじゃない♪』
いいけどさ。
「さあ♪ 出発しましょう♪ 旅はまだまだ長いわよ♪」
リリスが私の身体で歩き出すと、モニカがいつものように指を絡めてきた。
「羨ましいのだわ」
反対の手をシアが握りしめた。流石に指は絡めなかった。
「両手に花ですね。エコー様」
折角心を開いてくれたベルタが胡乱げだ。やっぱり大切なお嬢様が侍るのは気に入らないのだろうか。
「エコー様。どうかわたくしに魔術を教えてほしいのだわ」
「もちろんよ♪ シアとベルタにも勇者パーティーに相応しい力を身に付けてもらうわ♪」
最悪勇者は力任せに剣を振るうだけだもんね。二人にも頑張ってもらわないとね。あとアッシュにも。流石に前衛が欲しいところだ。まともに前衛務まる人が一人もいないし。
……いや待て。
違うから。私やんないから。魔王討伐なんて。
『私がやるから気にしないで♪ マスター♪』
そう言うってことは、結局モニカを勇者にするって決めちゃったの?
『え? エコーにはそう言ったじゃない』
え? けどシアには。
『ああ♪ それはそれよ♪』
……程々にね。人間は嘘を嫌うものだから。
『がってんよ♪ マスターがそう言うなら極力嘘はつかないわ♪』
ならよし。良い子。
『ふひひ♪』




