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無声凱歌  作者: 十田 實
◆ 第3章 ◆ 愛と破滅
44/87

‐ 第44話 ‐ 混沌

<R15> 15歳未満の方は移動してください。

この作品には 〔残酷描写〕 が含まれています。

 ロケットランチャーが効いたのか、それともヘリの中で何か起こっているのか、何にせよヘリのスピードは遅かった。ヘリは時折俺たちを危惧して攻撃してきたが、黒い箱が俺たちの前に出て盾のように変形し、守ってくれた。


 ヘリを見上げて走る俺たちに、中の様子は全くわからなかった。


 逃さないよう必死にヘリを追い続けていると、美生が凱を抱きかかえ、今にも飛び降りようとしているのが見えた。


「美生!」


 呼び掛けるが、ヘリの音に掻き消されてしまう。


 ――直ぐに追いつくから、そこで飛び降りろ。そしたら俺が受け止められる――


 美生と目が合った。わかってくれたのかもしれない。

 そう思ったが、美生は凱だけをヘリから投げ落とした。


 抱えていたケイトを咄嗟に下ろし、死に物狂いで足を動かして、凱の落下地点へ間に合おうとした。

 地面に飛び込み、何とか凱を受けとめることができた。


「凱! わかるか? 凱!」


 凱は血だらけだった。槍で胸を貫かれた時の傷は既に塞がっているが、口元の血が生々しい。

 恐る恐る唇を開かせると、歯が何本か抜かれていた。

 奴等にヘリの中で無理やり抜かれたのだ。俺たちが凱を取り戻しに来たから、万が一のため、歯だけでも奪っておこうということだろうか……。


 そこまでするのか。奴等は子ども相手に、こんな惨いことができるのか。

 理解できてはいた。あの夜工場で、デックスからの話で。人の命を何とも思っていない連中だと、理解できてはいたのだ。


 しかし今、目の前で、完全に証明させられてしまった。


 自ずと涙が出ていた。

 涙なんて無駄なものは滅多に流さない。けれども底知れない感情が俺にそうさせる。

 凱を抱き締め、己の唇を強く噛み締めることで、涙が出るのを緩和させた。まだやることがある。


 美生を乗せたヘリはまだ近くで動いている。だが、凱を抱きかかえて立っていた場所に、美生の姿は見えない。何故あの時、一緒に飛び降りなかったのだ……。


 ケイトは箱と共に自力で俺の場所に追いついた。

 凱の様子を見るのも束の間で、箱の中の揃えられた武器から扱えそうな銃を俺に渡し、ケイトは再びロケットランチャーを自分の手に取った。


 それ以外の身に付けられない武器はその場に捨て、箱の中を空にした。

 何をするのかと思うと、箱は側面部分から金属製の長い手を器用に生やし、空になった自身の中に凱を持ち上げて入れた。


「一先ず凱君にはこの中で安静にしていてもらいましょう。見ての通り、このロボットはかなり頑丈にできています。私も、少しは一人で走れます。追いかけて、ヘリを落としましょう。ロケットランチャー(これ)はあと一発しか撃てません。必ず撃ち落とさなければ……」


 ケイトは鋭い目をして云ったが、強がっているのだとわかった。迅速な判断と行動の中に、葛藤があるのがわかる。決して冷徹などではない。デックスもそうだった。彼らは最初から血の通った人間だった。


 ケイトからロケットランチャーを無理やり奪った。


「俺が一番怪我してない。俺がやる」


「さすがに初心者には扱えませんよ」


「片手で外した奴がよく言うぜ。それに美生が言ってただろ? 俺撃つの上手かったって。賭けてみろよ」


 一人で走れると粋がったケイトの肩を、もう一度抱えた。

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