‐ 第43話 ‐ 混沌
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この作品には 〔残酷描写〕 が含まれています。
また凱の叫び声が聞こえてきた。今のは尋常じゃない叫びだ。叫びたくても叫べないというような、悶え苦しむ叫び。
早く助けなければ。
あたしはやっとの思いで、掴んだ白衣の男の腕に噛み付いた。
「っあーー!」
男は凱とは比べるまでもない素っ頓狂な叫び声を上げ、ヘリの中に倒れ込んだ。引っ張られる形で、あたしもヘリの中に入り込んだ。
血の味がする。口の中に不快感があったので、床にそれを吐き出す。吐き出した塊は、恐らく男の腕の肉だった。それ程強く噛み付いたらしい。血の味は自分のではなく、男の血だった。
男は腕を抑えながら、あたしが床に吐き出されたそれを見て呆然としている。凱は、何処だろう。
ヘリの最奥部に、凱は力尽きたように倒れていた。
凱の横には女が肩で息をして立っている。――奈須川美鈴だ。手にはペンチと、袋を持っている。
「はぁ……はぁ……。取り敢えず、これだけあれば……」
奈須川が凱に何をしたのか、理解した。
理解した次の瞬間には、あたしは奈須川に襲い掛かっていた。だが、奈須川は思いのほか腕力があり、互いの腕を掴み合う形で防がれた。あたしは男にしたように、奈須川の腕に思い切り噛み付いた。
「嫌ぁ! なんなの! これじゃあなた獣じゃない!」
そう云って奈須川は腕を抑えたじろいだが、男ほど効果がないようだった。
「血が出てる……。痕になるわ。あぁ、私ったらこんなに汚れて……。最悪。最悪よ。最っ悪だわ!」
ヘリから脱出するため、奈須川がぶつぶつと呟いている間に凱を抱きかかえた。
凱の口元は血で溢れていた。
痛かっただろうに。苦しかっただろうに。
気を失う程の痛みを迷いなくこいつらは与えてくる。人間じゃないのはお前たちだ。お前たちが人間を主張するのなら、あたしは喜んで獣になる。
ヘリから地上を見下ろすと、勇魚がケイトを抱え、走ってヘリを追っていた。
とにかく、飛び降りよう。骨が折れようが肉が飛び散ろうが、あたしの体は何とかなる。もう何度も死んでいる。飛び降りさえすれば、勇魚が何とかしてくれる。
「…………っ!」
飛び降りよう。そう踏み切ったとき、体に鋭い衝撃が走った。
自分のお腹から、矛先が出ている。後ろから体を刺されたことを、それで理解した。凱に刺さっていた槍だ。
凱をヘリの外へ放り投げた。勇魚ならきっと、何とかしてくれる。




