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012 Sランク・モンスター

 ――ドスッ!



「……?」



 今、なんか鈍い音がした。そして、すぐさま感じるはずだった痛みが一向に襲ってこない。固く閉じた目をおそるおそる開けてみると、そこには目を疑うような光景が広がっていた。

 ユニコーンの短くなった角に、赤い魚もどき(上からじゃ気づかなかったけど、短い足がある!)が串刺しになっている。



「……え、?」



 あまりにもシュールな光景すぎて、脳がフリーズしかけるのをギリギリで耐えた。

 助かったのだと気づいた途端、身体から力が抜けていく。角が腕からすり抜けて、カランカランと音を立てて砂利の上に転がる。立っていられなくて、その場にへたり込んだ。

 心臓が爆発するんじゃないかって思うくらいに飛び跳ねている。無意識にその上に重ねた手も、見っともないくらい震えていた。

 

 また飛んでくるんじゃないだろうな、と戦々恐々としながら小川を見やれば、綺麗サッパリ姿を消していた。驚きつつ目を凝らして探してみても、あの派手な色はがこれっぽっちも見当たらない。



「ブルル……」

「あ、ありがとう~~! 君が助けてくれなきゃ、私、いまっ……し、死んじゃう、ところだった……!」



 座り込んで川を凝視している私を心配してくれたのか、ユニコーンが顔を寄せてきた。

 「大丈夫?」と気遣ってくれているような仕草に、相手がモンスターだという事も忘れ、手を伸ばす。そして、角に突き刺さったままビチビチとユニコーンの顔を叩く赤い尾に、フリーズした。シュールすぎるし、なにより生々しいわ。



「……」

「……」



 ユニコーンと無言で見つめ合うこと、およそ3秒。ふっと顔を上げたユニコーンが首を大きく振って、刺さっていた魚もどきを吹き飛ばした。


 呆気ないくらい綺麗に吹き飛んでいく赤色を見て、先ほどまでの心配が余計だったことを痛感した。

 うん、私如きがSランクモンスター様の心配をするとか、恐れ多かったわ。短くなろうが、立派な武器に変わりはありませんでした。


 ビッタァァン!! と勢いよく地面に叩きつけられてもなお跳ねまわる姿が、本日頻繁に脳裏をよぎる某ゲームのモンスターを彷彿させるけれど、“あれ”はあんなに可愛くない。どっちかっていうと、あれだ、進化すると尾っぽのないサメさんになる方の、モンスター寄りだったわ。攻撃的な意味で。

 

 鋭く尖った大きな牙を思い出し、身震いしながらそっと目を逸らした。

 震える私に「もう大丈夫だよ」と言わんばかりに、ユニコーンが再度顔を寄せてきた。ならばこちらも仕切り直しだと改めて腕を伸ばす。両手で頬を包むようになでれば、心地よさげに目を細め優しく頬ずりを返してくれた。か、かわいい……!



「うぅっ、ぐすっ……君、ほんっと優しい子だねぇ……!」



 恐怖に染まった心が、じわりと伝わる温もりと与えてくれる優しさがゆっくりと溶けていく。ついでに涙腺は崩壊した。


 衝動に任せてユニコーンに抱き着き、涙活することおよそ数分。泣くことにすら疲れてきて、頭がボーっとしてきたけど、比例するように気持ちが大分落ち着いてきた。

 それにしても本当に大人しい子だ。見ず知らずの人間が突然、抱き着いて泣き出しても、攻撃してくることもなければ、逃げる気配もないなんて、野生動物……じゃないや、野生モンスターとしての“これから”が若干心配になってくる。知らない人についてっちゃダメって教えておくべき? お節介すぎる?



「うぇっ……ぐすっ、ごめんね、もう大丈夫……」



 触り心地の良い鬣から、のそりと顔を上げる。

 どんな宝石よりも美しいと思える、青が静かに見下ろしてきた。心配してくれているのが、雰囲気でわかる。嬉しくて、またじわりと滲む涙を慌てて拭った。いつまでも泣いているわけにはいかないもんね。



「ありがとう」



 この気持ちがちゃんと伝わりますように、と願いを込めて鼻筋を撫でる。短い毛並みに沿うように、またその手触りを楽しみながら、優しく優しく繰り返した。

 するとお気に召したのか、突然ユニコーンが足を折り畳んだ。何ごとかと驚いている間に、膝の上にずしりとした重みと温もりが。



「えっ、ぇっと……あの、ユニコーンさん?」



 戸惑う私を、細かなラメを散りばめたような輝きを持つ青い瞳がチラリと見上げてくる睫毛がとんでもなく長い。じっと見つめてくるその視線と、ピコっと動かされた耳が、まるで続きを催促しているように見えてキュンとした。

 咄嗟に胸を抑えた私に、顔を上げたユニコーンが小首を傾げてみせる。「だめ?」と問いかけてくるようなその仕草が、恐ろしいくらいにあざと可愛い。流石ユニコーン、精神攻撃すらもSランク。


 そんな攻撃を食らって、私ごときがダメージを食らわないはずがない。すっかり骨抜きのメロメロにされてしまった。可愛いは正義。

 よーしよしよしよし! ご本人様から許可を頂いたことだし、思う存分堪能させてもらうしかない。お客様、かゆいところはございませんか~?



「……おい、コラてめェ」

「はっ!」



 ユニコーンを全力で愛でることに夢中で、青年の存在を完全に忘れていた。コミックの背景ならハートが飛び散っているような、デレデレの雰囲気をぶち壊すような低く乱暴な言葉に、現実へと引き戻される。

 推しの存在を忘れるとか、オタクとして不覚……! とか、ふざけてる場合じゃなかったわ。


 慌てて声がした方に顔を向ければ、思ったよりも近い位置に青年がいた。

 相変わらず剣を握ってはいるけど、その表情には警戒よりも困惑と呆れの色の方が濃く見受けられる。

あ、あはは。いつの間に川を渡ったのだろうね、全然気づかなかった。

 咄嗟に浮かべてしまった愛想笑いから、私の考えを察したらしい。青年のただでさえ「へ」の字に曲がっていた唇が、大きく引きつった。やっべ。


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