011 URアイテム
緊張した面持ちの青年に見送られ、ユニコーンを刺激しないようにゆっくりとした足取りで近づいていく。歩く度に響く砂利の音が、嫌に大きく聞こえた。そうして数十歩ほど歩みを進めると、小川の直ぐ傍までたどり着いた。
流れる水は透明度が高く、水流越しでも川底がハッキリと見て取れる。したがって、ここで暮らす生き物たちの姿も、上から見ると丸見えだった。
というか、そもそも隠れる気がないのかもしれない。だってどう考えても見つけやすすぎる配色だもの。赤とか黄色ってどうなの? 鯉かよ、というツッコミは飲み込んでおく。
普通こういう川に生息してる魚って、石とか砂とかに似た色してない? あのユニコーンもそうだけど、「擬態」って概念が存在しない世界なのかな?
……そういえば、私、さっきここのお水を飲んだんだっけ……。あ、これは掘り下げて考えないほうがいい案件ですね、はい。病は気から。美味しく頂いた記憶だけ、覚えておきましょうね。
つい目で追ってしまいそうになる主張の激しい魚たちから視線をはがし、濡れずに渡れそうな場所を探す。運よく近くに大きめの石がいくつか水面から飛び出ている場所を見つけることが出来て、ほっと胸をなでおろした。
「よっ、……ほぉっ!」
狙いを定め、バランスを取りながら慎重に足を運ぶ。思っていたよりも、石と石の間隔が広かったため、水上アスレチックにでも挑戦しているような気分になってきた。
ぶっちゃけ、次に足を乗せる石を見定めることに必死で、ユニコーンを見ている余裕はない。私の足取りが危なっかしいからか、漂う雰囲気がどこかハラハラしているような気がする。半分くらいまで渡り終えたところで、一息ついた。渡り切るまで、あとたった3ジャンプなのに、その距離の遠さに眩暈がしそうだ。
そして何となく、魚たちが寄ってきているような気がするのは、気のせいだろうか。不安になりつつ、対岸を見ればユニコーンが「まるでこれが景品だ」と言わんばかりに、折った自分の角をくわえて私を待っていた。なんでやねん。
いや、待って。他にも色々とツッコミたいけど、考えたら負けなきがしてきた……とにかく今は、渡り切ることに集中しよう、うん。
「よっ、とぉ! やっと着いたぁ……!」
つっかれたぁ!
その後も一人と一頭に見守られながら、石を乗り継ぎ、ようやく目的地にたどり着いた。間隔は広いし、ぐらつくし、足場は小さいしで思っていた以上に大変だった。
そのため渡り切っただけなのに妙に達成感がある。思わずガッツポーズを決めた私に、青年からは冷めた視線が、ユニコーンからはどこか微笑ましそうな視線が向けられた。
近くで見るユニコーンの迫力に無意識に唾を飲み込む。当たり前だけど、すごく大きい。
「え、っとぉ」
そして、なにより――美しい。
その圧倒的なビジュアルに言葉が消失する。
配色はメルヘンチックだけど、それを上回るほどに神々しい。
私の貧相な語彙力では到底言い表せない、美しさが、今、目の前に存在している。手を伸ばせば、簡単に触れてしまえるほど近くに。
長く毛量の多いまつ毛に覆われた大きな瞳に、目を奪われる。まるで初夏の青空で星々が輝きを放っているような、不思議な煌めきに引き込まれてしまいそう。キラキラと反射するその輝に、ネイル中にうっかりこぼしてしまった細かなラメを思い出した。
「ブルル」
「!」
不思議な魅力を持つその瞳に見入っていると、そんな私を現実に引き戻すようにユニコーンが小さく嘶いた。ハッとして我に返る。無意識に近づいていたらしいユニコーンから慌てて距離をとった。
改めて間近で見ると、パステルイエローとパステルブルーの捻じり角の存在感よ。完全に星5つ、URアイテム感が凄いわ。角自体が輝いて見える気さえする。
そしてその角をユニコーン自身がくわえているという、摩訶不思議な光景に戸惑いが酷い。
犬じゃないんだぞ君、ファンタジーを代表すると言っても過言じゃない、超有名で神秘的なモンスターなのよ? なんでそんな、私が投げたボールを取って帰ってきたうちのワンコみたいな反応なの? 褒めてあげるべき?
あと、ここまで来といてなんだけど、正直そんな凄いものをもらっていいのだろうかと腰が引ける。
というか、そもそもこの子、こんなに角を短くしちゃって大丈夫なの?
額から10センチほどの長さになってしまった角に、罪悪感が押し寄せてくる。
青年の為、そして何より私自身の為に、その角は必要不可欠なんだけど……でも、そのせいでこの美しい子が怪我をしたりするのは嫌だなぁと思う。まあ、もうすでに折っているので、どうすることもできやしないんだけどね。
往生際悪くためらっていると「さっさと受け取れ」と言わんばかりに軽く首を前後に揺られたので、慌てて両手を差し出した。
「おっもっっ!!」
間をおかずに両手の上に落ちてきた角は、その可愛らしい見た目に反してかなりの重量があった。落としてしまわないように、慌てて抱きしめる。なにこれ、手触りは磁器みたいにスベスベなのに、重さは大理石みたいでエグいんだけど。
「……これ、本当に貰っちゃっていい、んですか?」
「ブルルルル」
自分の武器を失ったというのに、なぜそんなに満足げなのか。ふすんと鼻を鳴らしたユニコーンに最終確認をとると、大きく頷いた。
なんなのこの子。めちゃくちゃお利巧なうえに、優しすぎるんですけど。天使なのかな? 実は背中に羽を隠してたりしない??
「危ねェッ!!」
突然、和やかな雰囲気を切り裂くような声が響く。
青年からの警告に、咄嗟に振り返ると目の前が真っ赤になった。
「え!?」
いきなりの事態に一体なにが起こっているのか、頭がついていけないのに、ただ眼前に鋭い牙が迫っていることだけは理解した。
あ、だめだ。逃げられない――!
瞬時に脳がそう判断を下す。
手でガードするにも、角が邪魔だし何よりどう考えても時間が足りない。目を固く閉じ、襲い来る痛みに身構えるしかなかった。




