意外に高い知名度
あれから数日、俺は活動の拠点をアルシールにある家に移し、エレナと共に生活していた。
あの日グレイスさんに見てもらった結果、彼女の適正は槍使いだったようで、俺と同じ癒し手になりたいと考えていたらしいエレナにとっては不本意な結果だったそうだ。
パーティーのバランスを考えれば悪くないとは思う。
正直ローランドさんからお願いされている事を考えると、危険の高い前衛にエレナを配置するのは気乗りしていなかったが、まぁ杞憂だったようで……
装備を整えてから向かったクエストで、出てきた魔物をサクサク突き殺していく姿を見るに大丈夫そうだった。
本当に危なかったら身を呈してでも守るつもりではいるけど。
半ば定位置と化しているソファに体を預けながら物思いに耽っていると、エレナが目を覚ましてリビングにやってきた。
俺が起きた時はまだ薄暗かった窓の外も、いつの間にか明るくなってきている。
「――ねえユーキ」
「んー?」
「お腹空いた」
おじょうさま は くうふくを うったえた
「あー、じゃあ朝食にしようか。何か希望ある?」
「ユーキが作ったやつならなんでもいいわ」
なんでもいいが一番困るんだけどなぁ。
「とりあえず作ってくるから、ちょっと待ってて」
そう言うとエレナを背に台所へ向かう。
元々一人暮らしをしていたから料理は出来るけど、朝から凝ったものを作るのは面倒だし、どうするかな。
何があるかを確認すると、前に買ったパンと卵、野菜が少し残っていた。
――無難にサンドイッチかな。
こっちに来てから自炊を再開して分かった事、それは名称こそ違うものの、基本的には俺の知っている食材が売られているという事だった。
科学が発展していないらしいこの国に冷蔵庫なんて便利なものは無く、足の早いものなんかはその都度買いに行かないといけないというのは少し面倒なんだよね。
冷蔵庫が三種の神器なんて呼ばれていたのも、今となっては頷ける話だ。
玉子を解き、油を敷いた鍋で薄く焼き上げる。
マヨネーズがあれば、一般的なタマゴサンドも作れたんだけど、残念ながらこの世界にはマヨネーズが無いようで。
野菜は食べやすいサイズに切り、同じく油を敷いた鍋で炒めていく。
味付けは塩胡椒のみでちょっと味気ないかもしれないが、そこは我慢してもらおう。
そういえば牛乳を売ってる店が家の近くにあったっけ。
出来上がった二品を木皿に載せて火を落とし、店へ行き買ってくる。
チーズも売っていたので、ついでに購入してきた。
パンを薄く切り分け、その間に野菜炒め・薄焼き玉子・チーズを挟み込んで完成。
「エレナー、ご飯出来たよー」
二人分のサンドイッチが載った木皿と牛乳の入ったカップをお盆に載せ、リビングへと向かう。
さっきまで俺が沈み込んでいたソファで微睡んでいた様子のエレナは、俺の声を聞いて揺らりと立ち上がり、ゆっくりとした足取りでテーブルに着いた。
「ユーキ遅い、空腹で死ぬかと思った」
「大丈夫、水さえあれば人は一週間生きられるから」
俺の言葉にムッとするも、目の前にサンドイッチの載った木皿と牛乳を置くとそれも収まり、食べ終わる頃にはすっかりいつも通りになっていた。
「さ、クエスト行きましょうユーキ」
食後の片付けを終え、再びソファに沈み込む俺の横に来ると無慈悲な一言を告げるエレナ。
「ちょっと休ませて――」
「ダメ、時間は有限なの。さ、行きましょ?」
そう言うと俺の腕を引いて立ち上がらせる。
くっ、このお嬢様、前衛職なだけあって力が強い……!
もう少し休みたかったけど仕方ないか。
「はぁ……じゃあ用意してくるよ」
部屋へ行き準備を整えると、エレナと共にギルドへと向かった。
「遺跡調査の護衛?」
ギルドに着き、いつも通りミリアちゃんのいる受付へ向かうと、彼女からクエストの依頼を受けた。
「うん。是非ユーキちゃんに受けて欲しいって依頼されてて……」
んん? なんで指名されてるんだ?
俺の知名度なんて全く無いはずだし……
「なんでユーキが指名されてるの?」
同じ疑問を抱いたらしいエレナがミリアちゃんに尋ねる。
「ユーキちゃん、前にギルドで詠唱なしで回復発動させた事があったでしょ? あれが結構噂になってて、王都の調査団が興味を持ったみたいで……」
――訂正、知名度めっちゃ高いようです。
セリアさんも無詠唱で魔法使える人は居ないって言ってたし、目を付けられててもおかしくはない訳ね。
「それって断る事はできる?」
面倒な事になりそうだし、可能なら断わりたいんだけど……
「勿論クエストを受けるかは自由だから断われはするけど、依頼主が依頼主だけに、今後の活動にも影響してくるかも……」
なるほど。
相手が国の機関である以上、断ればこれから先冒険者として活動し難くなる可能性があるって事か。
「なら受けるしか無いね。ミリアちゃん、受注お願い」
「うんわかった――今回調査する遺跡、まだ人が立ち入った事がないみたいだから、気を付けて? 危なくなったらユーキちゃんだけでも逃げてね? 約束だよ?」
そう言って俺の身を案じてくれるミリアちゃん。
――この子は好感度をどれだけ上げる気だろう、既に俺の中の好感度ゲージは振り切れてるんだけど。
「心配してくれてありがと。護衛が逃げちゃダメな気もするけど、本当に危なくなったらそうするね」
彼女からクエスト詳細の書かれた紙を受け取り、その場を後にした。
ギルドから出ると、エレナが腕を引いてこちらを見ていた。
「ユーキ、本当にクエスト受けるの? うちの名前を出せば断れるかもしれないけど」
「こんな事でローランドさんに迷惑は掛けられないよ」
確かに何とかなるかもしれないけど、それで迷惑を掛けるのは本意じゃない。
「あ、勝手に話を進めて申し訳ないとは思うけど、今回は留守番しててね」
どんな危険があるか分からないところに、エレナを連れて行くわけにはいかないし。
「嫌、私も行くから」
俺の目を力強く見つめながら拒否するエレナ。
「そう言うとは思ってたけど、流石に危ないから」
「ならユーキが護ってくれれば問題無いわね?」
あ、これは絶対言う事聞かないやつだ……
「はぁ〜、もしエレナに何かあったらローランドさんになんて言えばいいのさ……」
「ユーキなら大丈夫でしょ?」
エレナから寄せられる根拠のない信頼に、思わず深い溜息が出るのだった。
次回、遺跡探索開始。





