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初ナンパ

 メイヴィス家での一件の後、俺はギルドのある王都の一軒家にいた。

 あ、ちなみにこの王都はアルシールというらしい。

 その場の勢いだけで今まで生活していた為、名前なんて気にもしていなかったのだが。


 ――まぁそれはいいとして、何故俺が一軒家にいるのか。

 答えは簡単、メイヴィス家からの贈り物である。


 ローランドさんは、エレナを助けた件とこれから面倒を見てもらう条件として、いくつかの謝礼を俺に与えたのだ。


 一つ目がこの家で、ギルドから近い場所にあり活動するのに便利だろうという事で、空き家だったメイヴィス家名義の家をくれたのだ。


 二つ目が、メイヴィス家の家紋の入ったエンブレムである。

 ローランドさん曰く「公爵家の後ろ盾がある事の証」だそうだ。

 水戸黄門の紋所みたいなものだろうか?


 三つ目が大量の金貨の入った大袋で、さっき枚数を数えてみようとしたんだけど、二百を超えても無くならない中身を見て匙を投げた。


 ――とまぁ、内容が内容だけに最初は断ったのだが、「無理を聞いてもらうお礼と、娘の安全のための保険」と言われては受け取らない訳にもいかなかった。


 そんな訳で、俺はエレナと共に、譲り受けた家で一休みしていた。


「ユーキ、早くギルドに行きましょう?私冒険者になりたくて家を出たんだから」


 妙に疲れてソファに沈み込んでる俺の横で、エレナが催促する。


「あー、そうだったね……でももうちょっとだけ休ませて……」

「だめ!今すぐ行くの!」

「えぇ……」


 動く気力が湧かない俺は、彼女に引き摺られるように家を出た。



 安息の地(ソファ)から引き離された後、徒歩5分程度でギルドに着いた。

 ――本当に近いなぁ。

 転移魔法事件があってから、セリアさんの家から徒歩でギルドに向かっていた時は三十分以上は掛かってたのに。


 ギルドの中に入ると、一瞬で周りが騒めき始める。

 あー、エレナがいるからかな……

 こっちの世界に来てから、視線を感じる機会が多過ぎて気が休まらないよなぁ、全く。


 周りを無視して受付に向かい、丁度手の空いた様子のミリアちゃんに話し掛ける。


「お疲れ様、ミリアちゃん」

「あ!ユーキちゃん!突然連れて行かれちゃったからびっくりしたよ〜」


 うん、やっぱり彼女と話すのは和むなぁ……


「心配掛けてごめんね? それで、この子の冒険者登録をしたくて来たんだけど」

「あれ?その子は……あぁっ!朝の!」

「うん。メイヴィス家のお嬢様」


 さらっと言い放った俺の言葉に驚愕するミリアちゃん。


「えぇっ!? メイヴィス家って公爵家の!?」

「そうよ? とりあえず早く手続きして欲しいんだけど」


 先程から置いてけぼりにされていてつまらなかったのか、エレナが不機嫌そうに言い放つ。


「ご、ごめんなさい!えっと、名前と年齢を――」

「エレナ。歳は十四」


 不機嫌なエレナの様子を見て、まるで最初に俺が登録をした時みたいに狼狽えるミリアちゃん。


 いや、何威圧してるんだこのお嬢様は。


「ミリアちゃんは私の友達だから、エレナも仲良くしてくれると嬉しいんだけど」


 エレナに笑顔を向けながらも、言葉には少し違う感情を乗せて『お願い』する。


「わ、分かったわ。仲良くするから、その顔やめて……」


 それを見たエレナが慌てながら言葉を返してきた。


 理解してもらえたようで何より。

 ミリアちゃんが青い顔でこっちを見てたのは、きっと気の所為だろう。



 それから若干ぎこちない様子ではあったが手続きは終わり、グレイスさんに適正を占って貰うために2人は奥の部屋へと向かった。


 特にやることのなくなった俺は、空いていた席へと座ると卓に突っ伏した。


「疲れた……」


 朝から色々な事があり過ぎて、これ以上何かをする気力が湧かない……

 今日は家に帰ってお風呂に入ったら、そのまま寝てしまおう……そうしよう……


 そんな事を考えていると、隣に人が立つ気配がした。


「ねぇ君一人? 暇なら俺達と遊びに行かない?」


 顔を上げるのも億劫だったため、寝たふりでやり過ごそうと決める。

 しかし相手はそんな事も御構い無しに肩に手を置き揺さぶってくる。


「ねぇってば、寝たふりしないで起きてくれよ」


 ――うっざ。

 世の中のナンパされる女子の気持ちがよく分かった。


 歯牙にも掛けられてないのに気がつかないで絡んでくるとか、迷惑にも程がある。

 仕方なく顔を上げると、見るからに柄の悪そうな男2人が横に立っていた。


「お、すげー美人じゃん! なぁ、遊びに行こうぜ?」

「結構です」

「そんなこと言わずにさぁ。ちょっとでいいから、な?」


 鬱陶しいな……

 どうやって追い払おうか悩んでいる時に、タイミング悪くエレナが帰ってきてしまった。


「ユーキ、お待たせ――って、こいつら何?」

「お、もう一人増えた。これで二対二で丁度いいし、君も一緒にどうよ?」

「は? 何言ってるのこいつら」

「相手にしない。行くよ?」


 今にも食って掛かりそうなエレナの手を取り、外に行こうとする俺達の前に二人組は回り込んだ。


「つれない事を言うなよ、ユーキちゃん」


 ニヤニヤしながら名前を呼ぶ男。

 あ、なんか腹立つ。魔法撃ち込んじゃおうかな。

 そんな事を思った時、とうとうエレナが爆発した。


「いい加減にしなさい! 人の名前を軽々しく呼ぶなんて、恥を知りなさい!この下衆男!」


 あちゃー、これは不味いな。

 この後の展開は読めるぞ……


「なんだと、この女! 下手に出てれば調子に乗りやがって!」


 ――まぁこうなるよね? お約束はお約束なんだなぁ。

  でもお前ら決して下手には出てなかったと思うけど。



 下衆呼ばわりされ、逆上した男がエレナに掴みかかろうとする。


「肉体強化(フィジカルアップ)」


 咄嗟に自分に強化の魔法を掛け、掴みかかってきた男の腕を掴み、そのまま背負い投げの要領で投げ飛ばす。


 元々相手の力を利用する技である上、肉体強化で上がった力を上乗せして投げたため、男は予想以上に強い力で地面に叩きつけられ、受け身を取らなかった事もありそのまま気絶していた。


「おぉ、割と上手くいくもんだなぁ。学校の柔道教育も馬鹿にできないや」


 独り言を呟いていると、まさか仲間が投げられて気絶すると思ってなかったであろうもう一人の男は「へ……?」

 と情けない声を出して立ち竦んでいた。


「女の子相手に暴力はいけないと思わない?」


 笑顔でその男に近付いて行くと、顔を引攣らせて後退し、気絶した男を担いで逃げていった。



「大丈夫? あんな風に逆上する事があるから、下手に刺激しない方がいいよ?」

「うん……ごめんなさい」


 お?なんか素直な反応。やっぱり怖かったのかな?

 そんな事を思っていると、急にギルド内が沸き立った。


「すげーなお嬢ちゃん!さっきのはなんだ!?」「一撃で熨されてたよな、あいつ」「最後に言い放った言葉と笑顔が凄く良かった!」「俺あんたのファンになるよ!」


 おぉぅ――なんか凄いな……

 気がつかない間にかなり注目を浴びていたらしい。

 というかお前ら見てないで助けろ?



 ――ちなみに、この日の出来事が噂として流れて尾鰭が付き『指先一つで男を気絶させた女がいる』というとんでもないものになるのは、まだ先の話である。

え?柔道はそんなものじゃない?

世の中にはマジカル八極拳というものがあってじゃな・・・

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