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貴族の家へ

 どうやら貴族のお嬢様を助けた冒険者とは俺の事だったらしい。


『お嬢様を助けて頂いた件で、旦那様が是非ともお礼をしたいとのことなので、一緒に屋敷に来て欲しい』と執事らしき人から説明されたのは、昨日助けた女の子に手を引かれ、馬車に押し込まれて出発した後での事だった。



 ――なんかとんでもない事になったな。

 正直に言うなら、行きたくない。

 別にお礼目当てで助けた訳じゃないし、そもそも昨日は貴族のお嬢様だなんて知らなかった訳で。


 しかし既に馬車は動き出しており、おまけに右腕は件のお嬢様にガッチリと掴まれてしまっている以上諦めるしかなさそうだ。

 ……というかこの子、さっきから腕を絡ませてきてるのは何でだ。



「昨日お嬢様を救って頂いた事、誠に感謝しております」

「あ、はい」

「申し遅れました。私はメイヴィス家で執事をさせて頂いている、ポールと申します」


 前の座席に座っていた老年の男性は、そう言って一礼した。


「私の名前はユーキといいます。よろしくお願いします、ポールさん」


 反射的に自己紹介してから疑問を感じる。

 ――メイヴィス家?

 そういえば、今まで家名って聞いた事なかったっけ。

 もしかしてこの世界は貴族等のお偉いさんしか家名を持ってないのかな?

 そんな事を考えていると、横から話しかけられた。


「昨日は助けてくれてありがとう。私はエレナ、エレナ・メイヴィスよ。よろしくね、ユーキ」


 エレナと名乗った女の子は、見た感じ十二〜十三歳くらいで、水色の髪と、猫を思わせるような目元には青空のような色をした瞳が覗いていた。


「えっと……よろしくお願いします、エレナさん」

「エレナでいい、それに敬語は止めて?」


 いやいや、年下に見えるとはいえ、貴族の娘を呼び捨てになんか出来ないでしょ。


「流石にそれは――」

「私が良いって言ってるんだからいいの! 」

「――分かった。よろしく、エレナ」

「爺もいいわね?これは私が許可したんだから」

「畏まりました」


 なんという強引さ……

 昨日の姿が嘘のようである。

 本人の希望とはいえ、後々面倒事に発展しそうだよなぁ。

 後、いい加減腕を解放して欲しい。



 それからどれくらい経っただろう、馬車が緩やかに速度を落として止まるのが分かった。


「お嬢様、ユーキ殿、どうぞこちらへ」


 ポールさんに促され馬車の外へ出ると、目の前にはとんでもなく大きな屋敷が建っていた。


「うわ、でか……」


 思わず声が出てしまう程に立派な屋敷だ。

 周りの敷地を含めると、一つの街が出来そうなくらいである。


「さ、行きましょユーキ」


 エレナに引っ張られ屋敷へと入っていく。


 玄関の大広間で俺を待っていたのは、黒い外套で身を包んだ初老の男性と、その後ろに控える侍女、エレナと同じ髪色の女性二名の四人だった。


「良く来てくれたね。娘を助けてもらった事、深く感謝しているよ」


 そう言って頭を下げる初老の男性。

 それに合わせて他の三人も頭を下げた。


「私はこの屋敷の主人でエレナの父、ローランド・メイヴィス。隣に居るのが妻のエルザだ」

「エレナの母のエルザです、昨日は娘を助けてくれてありがとう」


 エレナの両親から挨拶された俺は、自分がまだ名乗っていない事に気付き、慌てて自己紹介をする。


「名乗るのが遅くなりすみません。私の名はユーキと申します。この度は屋敷に招待して頂き、ありがとうございます」


 正直緊張し過ぎて、自分がまともに喋れていたかも分からない。

 元の世界じゃこんな機会無かったから、余計緊張する。


「ユーキさん、というのね。私はエレナの姉のリザです。あまり緊張せず、普段通りにして良いのよ?」


 側から見ても緊張してるのが分かったのか、エルザさんの隣にいた女性から声を掛けられた。


「あ、はい。ありがとうございます」


 彼女は肩まで伸びた淡い水色の髪、同色の瞳と整った顔立ちをしており、紺色のドレス風の服を着ている。

 月並みだが、美人という言葉が似合う人だと思った。


「さて、全員自己紹介は済んだようだね。立ち話もなんだし、食堂へいこうか」


 ローランドさんの言葉を受け、皆移動を始めた。

 俺はというと、相変わらずエレナに腕をガッチリと掴まれており、彼女に引き摺られるような形で後を追うのだった。




 これまた大きな食堂に着くと、湯水のように様々な料理が出て来た。

 遠慮せずに食べなさい?と声を掛けてもらうも、正直緊張していてそれどころじゃなく、あまり食事に集中出来なかった。


 

「昨日娘から話を聞いた時は驚いたよ――聖魔法使う冒険者に助けられたとね。ユーキさん、君は高名な癒し手なのかな?」


 食事を終え、ひと段落した頃にローランドさんから声を掛けられた。

 その質問には全員関心があったのか、視線が集まるのを感じる。


「いえ……ただの冒険者です」

「ただの冒険者が使えるような魔法ではないと思うんだが……」


 そう言われてもなぁ。

 将来稀代の癒し手になるとは言われたが、今は高名どころか無名である。それに事実使えた訳で……


「お父様。ユーキが私を助けてくれたことは紛れも無い事実なのだから、高名かどうかなんてどうでも良いと思うのだけれど?」


 なんと説明したら納得してもらえるかを考えていると、隣にいたエレナから助け船が入った。

 腕はいい加減離してもらえないかな……


「あー、うん。確かにそうだね。すまないユーキさん、素性なんて些細なことだ。娘を助けてくれた恩人、それで充分だった」

「いえ、気になるのは当然だと思いますし」


 納得しているかは微妙な様子だったが、彼女の一言でこの場は解決したのだった。



「それで――今日ユーキさんに来てもらったのは、実はお礼をする事以外にも理由があってね。昨日の君の姿を見て、エレナが冒険者になりたいと言い出したんだよ」


「はぁ、冒険者にですか」

「うん。それで、トレントを一撃で倒せる程の魔法を使っていたという君に、娘のことをお願いしたいと思って呼んだんだよ」


 あー、それでさっきの質問があった訳か。

 でもそれだけなら別に俺じゃなくて、もっと腕の立つ冒険者の方が適任だと思うんだけど。


「確かに昨日トレントは倒しましたけど、それだけなら他にも倒せる冒険者はいると思います。何故私なんですか?」


 疑問に思った事を正直に尋ねる。

 自分自身が駆け出しの冒険者なわけで、すぐに「はい引き受けます」なんて言える訳がないから。


「実は私も同じ事を娘に言ったんだ。腕利きの冒険者なら他にもいるだろう?とね」

「嫌よ、ユーキ以外の冒険者にはお願いしない。強制するなら私一人で冒険者になるわ」


 ローランドさんの言葉に、俺の腕を抱きしめながらエレナが反発する。


「という感じでね……一人で出て行かれるのは困るし、君にお願いするしかなかったんだよ」


 はぁ、なるほど?

 つまり他の冒険者に頼もうにも頼めない状況な訳ね。

 ここまで彼女が俺に固執する理由はわからないけど。


「理由は分かりました。けど私も駆け出しなので、正直に言うと身の安全までは保証出来ないですよ?」

「それでも構わない――とまでは言えないが、一人で出て行かれるよりは遥かに安全だろう」


 まぁ、袖振り合うも多生の縁と言うくらいだし、この出逢いもきっと何か意味があるのだろう。


「わかりました。引き受けます」

「ありがとうユーキさん。娘を頼みます」


 俺の返事に表情を明るくするエレナ。

 ローランドさんもどこかホッとした様子でそう呟いたのだった。

本当にすみません、ちょいと時間が無くて更新が遅れました・・・!


次回はもう少し早く更新出来るよう頑張ります(



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