第三十五話 サイト442~殉職~
「とりあえず、上に上がるぞ。」
そのお義父さんの一声で、大穴から地上に這い上がってきた。
外は打って変わって、異様なまでの静けさに包まれていた。
ただ黙々と金属の塊を掃除していく人たち。そこには、かつてのような人型ロボットが働いている姿は見えなくなっていた。
俺たちはそんな戦争に疲れ切ったのか、すぐ目の前にそびえ立つ家に帰ってきた。
「お帰りなさいませ。皆様、お風呂の準備が整っております。ゆっくりと疲れを癒してください。」
奥から、金属丸出しの人型ロボット、ダミーがタオルやらなんやらを持ってきた。
ここのロボットだけは、外部との通信が一切切られていたために、暴走を起こすことはなかったらしい。
目の前で軍の仲間が死んだりと悲惨な状況が多かったせいだろうか、心身ともに疲れ切っていたせいか、お風呂を出てからすぐに全員一眠りしてしまった。
次に起こした目覚まし時計は、一本の電話とサイレンだった。時計は午前7時、朝まで眠ってしまったらしい。
「通達、着信一件。内線番号9595、軍事病院救急外来からです。通達、、、」
救急外来という言葉が胸に突き刺さる。
リビングに急いで全員が集まった。
すでに外に手配されていた車で、お義父さん以下この団の全員が病院へと向かっていた。
「こちらです」
車から降りると、すぐに医師に案内された。
この時点でみんな、何かを悟ったかのように、顔がこわばっていた。無論、いくら鈍感な俺でも薄々気が付いていた。
案内されたのは入院病棟。の奥、いわゆる集中治療室。
札には、『泉崎 隆久 先生』 と書かれていた、言わずと知れたリュウのお父さんである。
どうも戦争の時、怪我人の治療中に頭にコンクリートの破片が当たったらしい。
主治医の話では、ほぼ助かる見込みはない、もって2日だろうということだった。
それから3日間、ずっと重い空気が流れていた。
医師の診断を1日長く生きた俺の恩人は、意識が戻ることなく静かに息を引き取った。
1週間後、その恩師の机を片づけていると、俺あての封筒が見つかった。
中身は、キュアと書かれた液体と、手紙、だった。
手紙には、乱雑な字で「普通になりたいか?」と書かれていた。
俺はすぐに意味が分かった。俺の超能力をなくして、頭痛をなくして、普通の人間に戻るための治療薬が完成されていたことを知った。
でも、俺は決めていた。今回の戦争で分かったこと。この能力らのおかげで、仲間ができた。
「悪いね、せっかくだけど、見なかったことにするよ。」
俺は封筒にそれを戻し、大切に空っぽの引き出しにしまった。
そんな時に、世の中というのは理不尽なもので、凱旋パレードなんてもんが翌日に控えていた。
当然のように俺たちも参加になっていた。喜べる空気じゃない。
わざわざ選挙カーに乗って、手を振りながら高層ビル群の間を1時間かけて声援に答えなくてはならない。
正直本番直前、キレそう。
翌朝、だるい足取りでスタートした。
お義父さんが、これが終われば休めるぞ。と声はかけてくれるものの、リュウを始め皆作り笑顔の練習に必死なくらい、気分はすぐれなかった。
1時間のパレードも、終わりに差し掛かっていた。
この辺は本格的な中心街で、人も多い。
俺はぼうーっとしながら、お義父さんの横でひたすら手を振っていた。
ふと遠目にやった時、何かが光った。気がした。
また観客に視線を戻し、手を振っていると、突然、何かの破裂音がした。
慌てて周りを見ると、お義父さんが倒れている。
即死だった。
直径14.9㎜、338ラプアマグナム、有効射程距離1200m~1500m
弾丸は地面をえぐるようにして突き刺さっていた。
狙撃
明らかにお義父さんを狙った狙撃だった。
戦争は決して、終わってなどいなかった。




