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第46話:妃たちの所有権争奪会議、魔力供給と脱皮の罠

 新エリュシオン帝国の建国という歴史的偉業を成し遂げた黄金の王、アレン。

 しかし、皇帝として玉座に座る彼の日常は、平穏とは程遠い「愛の戦場」と化していた。王宮の中枢に位置する円卓会議室。そこでは今、帝国の未来を左右する……という名目の、極めて個人的かつ熾烈な「皇帝使用スケジュール」を巡る閣議が開かれていた。


 円卓の中央、白銀の軍礼装を纏った人間姿のアレンを囲むのは、正妃として指名された乙女たち。彼女たちの瞳には、一国の政務を司る知性以上に、いかにしてアレンを自らの腕の中に引き留めるかという、ドロリとした独占欲が渦巻いている。


「……静粛に。これより、今月の『皇帝陛下・魔力安定維持スケジュール』の策定を開始するわ」


 筆頭魔導士にして正妃の一人、ルナ・アルマが眼鏡のブリッジを押し上げ、分厚い書類を卓上に叩きつけた。そこには、一分刻みでアレンの行動を管理する、狂気的なまでの過密日程が記されている。


「……いい、アレン。『魂の直結ディープ・リンク』は、今や貴方の生命維持装置そのもの。月曜から水曜までは、私の研究室での『直接供給おかわり』を最優先事項とするわ。これは国家の安全保障に関わる問題よ」


『……ルナ。……三日間も研究室に閉じ込められるのは、さすがに身体が持たないよ。……たまには、庭園で三千人のみんなと、もふもふする時間も欲しいんだ』


 アレンが困惑した表情で抗議するが、ルナの冷徹な微笑がそれを遮る。


「……ダメよ。……貴方の魔力は、今や純粋すぎて周囲に過負荷を与えすぎる。……私がこうして、付きっきりで管理(独占)してあげないと、この国は黄金の光で蒸発してしまうわ。……さあ、サインしなさい、アレン」


 ルナが契約書を突き出したその時、室内にねっとりとした甘いフェロモンの香りが立ち込めた。


「……あら。……ルナ様の管理も結構ですが、私の『生理的欲求』を忘れてもらっては困りますわ」


 ラミア族のミーシャが、エメラルドの鱗を激しく擦り合わせながら、アレンの背後から這い寄ってきた。彼女の瞳は爬虫類特有の縦長の瞳孔へと変わり、その肌は真珠のような鈍い光沢を放っている。


「……アレン様。……私の周期的な『脱皮』が近づいております。……今回は魔力の高まりが激しいのです。……貴方様の黄金の魔力で私の内側を温めていただかなければ、私の新しい鱗は、貴方様以外のものを拒絶して死んでしまうでしょう……」


 ミーシャの長い蛇体が、椅子に座るアレンの脚を、腰を、そして胸板を、一寸の隙間もなく幾重にも締め上げる。脱皮直前の熱を帯びた肌が、アレンの礼装越しに直接的な情動を伝えてくる。


「……ですから、今回の脱皮期間――約一週間は、アレン様を私の『琥珀の密室アンバー・コクーン』に拉致……いえ、ご案内いたしますわ。……二人きりで、ドロドロに溶け合うまで、蜜月を過ごすのです……ふふ」


「なんですって!? 一週間も!? 却下よ、却下!!」

 ルナが激昂し、杖から藍色の火花を散らす。


「ミーシャ、貴女の脱皮なんて私の知ったことじゃないわ! アレンの魔力蛇口を握っているのは私なのよ! 貴女の膜の中でアレンが魔力切れ(ガス欠)を起こしたらどうするつもり!?」


「……あら、ならば名案がありますわ、ルナ様」

 ミーシャが、勝利を確信したような冷酷な笑みを浮かべた。


「……ルナ様も、私の膜の中に一緒に入ればよろしいのでは? ……私が外側からアレン様を締め上げ、内側から貴女が魔力を供給し続ける。……アレン様を二人の愛でサンドイッチにして、一睡もさせずに可愛がって差し上げるのです。……これこそ、公平な所有権の分配でしょう?」


「……っ、それは……。……一理あるわね。……アレンの反応を至近距離で観察しながら、私の魔力を絶え間なく流し込めるなんて……最高の実験環境エデンだわ」


『……えっ、二人とも!? 待って、相談もなしにそんな恐ろしい合意をしないでよ……っ!!』


 アレンの叫びは、二人のヒロインの狂気的な合意によって粉砕された。

 その日の夜、アレンは王宮の地下深くに作られた、ミーシャの専用産室へと連行された。


 ――【琥珀の二重密室ダブル・アンバー・コクーン】。


 ミーシャが吐き出した、粘り気のある透明な魔力膜が部屋全体を包み込み、外界との一切の干渉を遮断する。その中央、大きなベッドの上で、人間姿のアレンは逃げ場のない「愛の圧殺」に晒されていた。


「……あ、あぐ……っ。……ミーシャ、苦しい、肌が吸い付いて……。……ルナ、魔力が……そんなに一度に流し込まれたら、意識が……っ!!」


 脱皮を始めたミーシャの、瑞々しくも粘着質な新しい肌が、アレンの全身に真空のように貼り付く。彼女の蛇体は、アレンを逃がさないための檻として機能し、彼の骨格をミシリと鳴らしながら愛おしそうに締め上げる。


 一方で、アレンの背後からはルナが全裸同然の姿でしがみつき、自身の指先と唇をアレンの首筋に押し当てていた。『魂の直結』を通じて、暴力的なまでの藍色の魔力がアレンの体内に逆流し、彼の理性を内側から焼き切っていく。


「……ふふ。……アレン。……ミーシャの締め付けで高まった貴方の鼓動、私の魔力でさらに加速させてあげるわ。……ほら、もっと私を求めて。……私の藍色に染まりながら、ミーシャの鱗を愛でなさい……っ!」


「……はぁ。……アレン様。……私の新しい鱗の、最初の感触……。……泥棒人間の魔力に当てられて、こんなに熱くなっています。……貴方の全てを、私の粘液で塗りつぶして差し上げますわ……」


 アレンは、二人のヒロインによる物理的・魔力的な「同時搾取」の波に飲み込まれた。

 ミーシャの静かなる締め付けと、ルナの激しい魔力浸透。

 逃げ場のない水の底で、熱い鉄を流し込まれるような、矛盾した官能と過負荷。

 アレンの碧い瞳は虚空を見つめ、白金の鎖(紋章)は二人の情念を吸い込んで、寝室を白夜のような光で満たし続けた。


 翌朝。

 琥珀の膜が霧散し、脱皮を終えてこれまで以上に艶やかになったミーシャと、魔力供給で頬を上気させたルナが、満足げな表情で部屋から出てきた。

 彼女たちの腕の中には、人間姿を維持する余力すらなく、小さな黄金の毛玉へと戻り、魂が口から漏れ出しているような姿のアレン。


『……きゅう……(もう、一歩も動けないよ……)』


 アレンの念話は、今や掠れた風の音のようだった。

 しかし、そんな彼を待っていたのは、執務室の前で武器を構えて待機していたフェリスとシルフィだった。


「――そこをどけ、大蛇と眼鏡!! 主殿の『お座り』の時間は、もう三時間も過ぎてんだよ!!」

 フェリスが黄金の雷を散らし、アレン(毛玉)をミーシャの腕から強引に奪い取ろうとする。


「お兄様ー!! シルフィ、お兄様の心臓が、あのおばさんたちの匂いで汚れちゃってるのを感じたよ! ……今すぐ、シルフィの糸で中までお掃除してあげるね!!」

 シルフィが、心筋から紡いだ赤い糸を鞭のようにしならせ、狂気の笑みを浮かべる。


「……あら。……次の順番待ちは、貴女たちだったかしら? ……でも、アレンは今、私の教育(魔力調整)が必要なの。……邪魔をしないでくださる?」

 エリザベートが、背後から優雅に、そして逃げ場のない威圧感を放ちながら現れた。


 アレンは、フェリスの腕の中で、自分の首の鎖が「次の愛」を予感して震えるのを感じた。

 皇帝という最高権力。

 それは、世界を統べるための力ではなく、八人の妃たちが「合法的に、順番に、全力で」アレンを消費するための、免罪符に過ぎなかった。


(……救ったはずなのに。……建国したはずなのに。……どうして、毎日毎日、誰かの腕の中で死にかけているんだろう……)


 もふもふ王アレンの幸せな受難。

 所有権を巡る妃たちの会議は、今日も結論が出ないまま、皇帝の心身を削り、愛の深淵へと沈めていくのだった。


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