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第19話:温泉の湧出と「混浴」の危機

 王都からの不穏な予感が漂う黄金の領土。だが、そんな緊張感を物理的に溶かし去るような「異変」がログハウスの裏庭で起きていた。

 

 アレンの強大すぎる黄金の魔力が地脈を刺激した結果、高純度の魔力を含んだ温泉が湧き出したのだ。立ち込める白濁の湯気は、嗅ぐだけで強張った精神を解きほぐし、魔力を活性化させる。


「……いい、みんな。アレンの『呪鎖』が不安定になっている今、この魔力温泉での湯治は不可欠よ。……これは医学的、かつ魔術的な『治療』なの。やましい気持ちは一切排除しなさい!」


 ルナが眼鏡を曇らせながら、鼻息荒く宣言した。彼女の手には、アレンを洗うための最高級のスポンジと、なぜか自分の着替えが握られている。


『……ルナ。治療なら、僕一人で入れるよ。マスコットの姿なら、この小さな桶で十分だし……』


「ダメだぜ、主殿! 湯あたりして溺れたらどうするんだ! アタイが背中に乗せて、しっかり支えてやるからな!」


 フェリスが既に服を脱ぎ捨て(下着同然の革鎧を放り出し)、銀色の耳をパタパタとさせながらアレンを抱き上げた。彼女の肌は、温泉の熱気ですでに桜色に染まっている。


「……あら。……犬は水が苦手だと思っていたけれど。……アレン様を一番安全に、かつ『密着』して支えられるのは、私の長い尻尾よ」


 ミーシャが、薄い布を体に巻いただけで現れた。湿り気を帯びた彼女の肌は真珠のような光沢を放ち、濡れた髪が白い肩に張り付いている。


 結局、アレンの拒否権は無視され、ログハウス裏の巨大な岩風呂へと全員でなだれ込むことになった。


 ――ザブゥゥン、と。

 豊かな湯が溢れ、黄金の魔力が水面に揺れる。


『……ふわぁ。……あったかい……』


 黄金の毛玉となったアレンは、フェリスの豊かな胸元と腕の中に収まり、ぷかぷかと湯に浮いていた。温泉の成分が毛の奥まで浸透し、呪鎖の刺すような痛みを和らげていく。


「……はぁ。……主殿、最高だぜ。……こうしてると、あんたの心臓の音がアタイの胸に直接響いて……なんだか、アタイまで蕩けちゃいそうだ……」


 フェリスがアレンを抱きしめる力が強まる。お湯に濡れてしんなりとした彼女の銀色の毛と、アレンの黄金の毛が混ざり合い、境界線が曖昧になっていく。


「ちょっと! フェリス、密着しすぎよ! 私がアレンの背中を流すんだから、こっちに渡しなさい!」


 ルナが湯船に飛び込み、アレンを奪い取ろうとする。お湯に濡れたルナの藍色の髪が、彼女の白い項に色っぽく張り付き、普段の知的な印象を「一人の女」のそれへと塗り替えていた。


「アレン……じっとして。……私の魔力で、貴方の毛穴一つ一つまで……あ、あんっ。……何よ、このお湯。……アレンの魔力が濃すぎて、肌に触れるだけで……変な感じが……」


 ルナの顔が、湯気と羞恥で真っ赤に染まる。アレンの魔力が溶け出した温泉は、浸かっている彼女たちの感受性を極限まで高めていた。


「……ふふ。……ルナ様、顔が真っ赤ですよ。……アレン様、私の尻尾の上に乗ってください。……お湯の中で、私と一緒に泳ぎましょう……?」


 ミーシャが水面下でしなやかに尾を動かし、アレンの足を優しく絡めとる。水中に漂うミーシャの白い肌と、エメラルドの鱗。その幻想的な美しさに、アレンはマスコットの姿ながらドギマギしてしまう。


「アレン様ぁ! ピーの羽、お湯でふわふわですよぉ! 一緒に浮かびましょう!」

「アレン様、温泉卵を作ってきました。……私の口で、ちょうど良い温度に冷まして……はい、あーん」


 ピーがアレンを羽毛で包み込み、クゥがお風呂での「あーん」を強行する。アリアは岩陰で、濡れた糸をアレンの体に巻き付け、「……お湯の中でも、離さないわ……」と執念を燃やし、スイは温泉そのものと一体化してアレンの全身を包み込んでいた。


『……みんな、落ち着いて! お風呂は静かに入るものだよ!』


 アレンの叫び(きゅう、という鳴き声)は、彼女たちの情熱にかき消される。

 だが、その騒ぎの最中。

 アレンの首の鎖が、温泉の魔力と共鳴し、かつてない反応を示した。


 カチリ、カチリ。


 鎖から放たれた紫と赤の魔力が、お湯の色を怪しく変色させる。

 

「……っ!? 何、これ。……アレンの呪いが、温泉の魔力を吸い取って……」


 ルナが驚愕の声を上げた。

 アレンの体が、お湯の中で急激に成長を始める。

 

 黄金の光が湯気を切り裂き、そこに現れたのは――。

 

 全裸(お湯に隠れているが)の、完全な人間姿のアレンだった。

 

 濡れた黄金の髪が額に張り付き、逞しく引き締まった肩が水面から覗いている。碧い瞳は温泉の熱気で潤み、いつにも増して官能的な色を帯びていた。


「「「「「…………っ!!」」」」」


 全員が息を呑み、静止した。

 あまりの格好良さ。あまりの「男」としての魅力。

 温泉の効果で理性のタガが外れかかっていた彼女たちにとって、それは最後の一線を越えさせる決定打となった。


「……アレン。……もう、逃がさないわ。……ここで、貴方を私の本当の所有物にしてあげる……」


 ルナが、理性の消えた瞳でアレンの首筋に手を回す。


「……主殿。……あんたがそんなツラするなら、アタイ、騎士なんて辞めて……あんたの『雌』になっちまうぜ……」


 フェリスが、獣の欲望を剥き出しにしてアレンの胸板に顔を埋める。


「……アレン様。……お湯の中なら、痛くありませんよ。……さあ、私と……」


 ミーシャの尾が、アレンの腰を強く、情熱的に締め上げる。


「ちょ、みんな!? 待って、お風呂でそんな……あ、あぁ……っ!」


 アレンは、五人(+一体)の女たちの「愛」が、お湯を通じてダイレクトに自分の肌、そして心へと流れ込んでくるのを感じた。

 感覚共有シンクロとは比較にならない、物理的な接触と温もりの奔流。

 アレンの頭は真っ白になり、ただ彼女たちの情熱に流されるまま、温泉の底へと沈んでいきそうになる。


 だが。

 その甘美な混沌を切り裂くように、温泉の入り口の岩壁が、紫色の光で音もなく消滅した。


「――あら。……ずいぶんと、淫らな『治療』をなさっているのね? アレン坊や」


 湯気の向こうから現れたのは、紫のドレスを完璧に着こなした、エリザベートだった。

 彼女は優雅に扇子を広げ、氷のような瞳で、アレンと彼に群がる娘たちを見下ろしていた。


「……ひっ!? エ、エリザベート義姉様!?」


「……お兄様、みーつけたっ!!」


 エリザベートの背後から、シルフィが巨大な鎌を抱えて飛び出してきた。

 彼女の赤い瞳は、アレンに抱きついているルナやフェリスを見て、一瞬で「絶望的な殺意」に染まった。


「……死んじゃえ。……お兄様に触れているその手も、その足も、その……全部。……シルフィが、今すぐ切り刻んであげるからね」


 ――ヒュンッ!!


 シルフィの放った赤い糸が、温泉の水面を切り裂き、アレンの頬を掠めた。


「「「「「――っ!!」」」」」


 ルナたちが、咄嗟にアレンを庇うように立ち上がる。

 

 全裸の王子。

 彼を囲む、同じく全裸に近いモンスター娘たち。

 そして、それを見下ろす二人の最凶ヒロイン。

 

 湯気と殺気と愛欲が混ざり合う温泉場は、一瞬にして、この物語最大の「修羅場」へと変貌した。

 

「……アレン。……お片付けの時間よ。……悪い雌たちは、一匹残らず排除してあげるわ」


 エリザベートの指先から放たれた紫の魔力が、温泉を煮えたぎらせる。

 

 アレンの平和な「もふもふ内政」は、今、最悪の形で幕を閉じた。


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