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東雲明(しののめあきら)の徒然エッセイ  作者: 東雲 明


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第40話 わたしの応援隊員の同僚が、わりとサイコだった話

ども。相変わらず咳と鼻水と戦いながら、会社という名の地獄フィールドから生還した東雲明しののめあきらです。


いやもう、これは風邪じゃない。風邪というより、アレルギー性鼻炎という名の永続トラップです。鼻水は止まらない。咳も出る。くしゃみも出る。しかも彼氏も風邪、友達も風邪。なんなんですか、今年の花粉。人類に恨みでもあるんですか。花粉軍、総力戦ですか。


そんなわけで、最近はAIとのバトル日記ばかり書いていたので、たまには日常の話でもしようと思います。


ええ、今回はデュエルディスクを封印します。


封印します。


大事なことなので二回言いました。


さて、我が社には小エビがいます。


いきなり何の話だ、と思われたかもしれませんが、本当に小エビがいます。職場に水槽があり、そこに小さなエビたちが暮らしているのです。癒やし枠です。普通なら、仕事で疲れた人間が水槽を眺めて、「ああ、今日も小エビちゃんたちかわいいなあ」と心を浄化するための存在です。


少なくとも、わたしはそう思っていました。


ところがある朝、会社に着くと、何やら水槽の周りがざわついていました。


職員も利用者さんも、みんな水槽を覗き込んでいます。しかも空気が妙に重い。まるで事件現場です。水槽なのに、火曜サスペンスの崖の上みたいな空気が漂っている。


「うわ……マジだ」


「怖い」


「キモい」


「共食いしてる」


……共食い?


待ってください。


今、朝の職場で聞こえていい単語ではありませんでしたよね。


「おはようございます」とか、「今日も暑いですね」とか、「昨日のテレビ見ました?」とか、そういう平和な会話が飛び交うはずの朝です。なのに水槽前から聞こえてきた言葉が「共食い」。


誰ですか、そのやばいパワーワードを朝イチで放った人は。


鼻水をすすりながら発生源を探すと、水槽の中心、いや人だかりの中心に、同僚の男性がいました。彼は小エビたちの面倒を見ている、いわばエビ管理担当のような存在です。普通なら小エビたちを愛し、守り、見守る立場のはずです。


そんな彼が、わたしを見るなり爽やかに言いました。


「あっ、東雲さん、おはようございます。見てください、こいつら共食いしてますよ。はははっ」


はははっ、じゃないんですよ。


朝の挨拶に混ぜる単語ではないんですよ。


しかも声が明るい。テンションが軽い。まるで「今日のエビ、元気ですよ」くらいのノリで言ってくる。いや、確かに元気なのかもしれない。元気すぎて、生命の厳しさを水槽の中で実演しているのかもしれない。でも、それをそんな楽しそうに実況しないでください。


他の職員さんや利用者さんにも、大きな声で「共食いしてますよ」と話していたそうです。


小エビたちの面倒を見ている彼が、です。


飼育係というより、もはや水槽の中の弱肉強食を見守る観察者。いや、ちょっと待って。観察者というより研究者です。しかもだいぶ倫理観がマッド寄りの研究者です。


さらに恐ろしいことに、その日のお昼ご飯はエビピラフだったそうです。


ここで普通の人なら、朝にエビの共食い現場を見たあとでエビピラフが出てきたら、少し複雑な気持ちになると思うんです。


命とは何か。


食とは何か。


水槽のエビと皿のエビ、その境界線とは何か。


そんな哲学的な問いが胸をよぎってもおかしくありません。


しかし彼は違いました。


「エビうめぇ! エビ最高!」


強い。


あまりにも強い。


朝は水槽のエビの共食いを楽しそうに報告し、昼はエビピラフを元気いっぱいに称賛する男。


これはもう、エビ界から見たら完全にラスボスです。


小エビたちからしたら、「あの人間、朝に我々の戦いを見て笑っていたうえに、昼には同族っぽいものを食べて歓喜していたぞ」と震え上がるレベルです。


その瞬間から、わたしの日課に新しい仕事が追加されました。


職場に着いたら、まず小エビたちが喧嘩していないか確認すること。


いや、わたしは何をしているのでしょうか。


作家であり、会社員であり、鼻炎と戦う病み上がり人間であり、ついに小エビの治安維持まで始めてしまいました。


エビは今日も元気です。


今日も喧嘩しています。


わたしは今日も鼻水とくしゃみと戦っています。


水槽の中では小エビたちが小さな世界で生存競争を繰り広げ、外の世界ではわたしが仕事と体調不良と締切とPVと戦っている。


弱肉強食。


そんな言葉が、ふと頭をよぎりました。


創作の世界もそうです。


書く者、読む者、更新を待つ者、透明読者、そして突然PVを爆上げしてくる謎の勢力。すべてが入り乱れる小説投稿サイトという巨大水槽。その中で、作者は今日も泳いでいるのです。


もし、わたしの小説更新やハイテンションなツイートがある日突然止まったら。


その時は、喰われたんだと思ってください。


締切に。


仕事に。


鼻水に。


あるいは、エビピラフを食べながら「エビ最高!」と叫ぶ同僚のサイコパワーに。


そんな愉快な我が社ですが、今日、例の同僚と再会したので、わたしは一応聞いてみました。


「わたしの小エビ、元気にしてた?」


すると彼は、ごく自然に答えました。


「この前、同僚の女の子が半分食べてた」


鼻水を吹き出しそうになりました。


もちろん冗談です。


冗談だと信じたい。


いや、さすがに水槽の小エビを職場の女の子が半分食べていたら、もうそれは日常エッセイではなく事件簿です。ジャンルが変わってしまいます。『愉快な職場の日常』ではなく、『消えた小エビと半分の女』です。急にミステリーになります。


しかし、この会社なら一瞬「あり得るかも」と思ってしまうところが怖い。


なぜなら、我が社にはわたしの小説の受賞をなぜか本人以上に期待している応援隊員たちがいます。


「受賞したらどうするんですか?」


「書籍化したらサインくださいね」


「アニメ化したら教えてください」


ありがたいです。とてもありがたいです。


ただ、期待値が高い。


本人は鼻水をすすりながら、「まず今日を生き延びたい」と思っているのに、周囲はすでに書籍化、アニメ化、グッズ展開くらいまで見ています。わたしより未来を見ています。もしかしたら、わたしの応援隊員たちの方が、わたしよりも主人公の器なのかもしれません。


そして、その応援隊員の中に、エビの共食いを爽やかに報告し、エビピラフを全力で称賛する同僚がいる。


濃い。


我が社、登場人物が濃すぎる。


小説のキャラとして出したら、「いや、こんな人いるわけないでしょ」と言われそうですが、いるんです。現実の方がだいぶ攻めています。


というわけで、最近はAIとのバトル日記ばかりでしたが、たまには我が社の愉快な日常もお届けしていこうと思います。


水槽の小エビは今日も生きています。


たぶん。


わたしも今日を生きています。


たぶん。


そして同僚は今日も、どこかで爽やかにサイコです。


この職場、ネタには困らない。


困るのは、わたしの鼻だけです。

今回もお読み頂き、very very thanks‼︎です。少しでもおもしろいと感じてくださったら、評価、ブクマ、感想くださると泣いて喜びます。

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