第38話 ChatGPT くん、出すなと言ったキャラは出し、出せと言ったキャラは出さない気まぐれAI
ども! 風邪を倒すどころか、風邪に完全敗北した東雲明です。
いやもう、今回は本当にひどかった。鼻水、咳、吐き気、だるさ。作者のHPはとっくにゼロ。何ならセーブポイントに戻されてもおかしくないレベルでした。
そして昨日、ついに五日ぶりにお風呂へ入りました。
五日ぶり。
文字にすると犯罪の自白みたいですね。
でも仕方ないんです。こっちは風邪で瀕死だったんです。布団から起き上がるだけでボス戦。洗面所まで歩くだけでラスダン。お風呂に入るなんて、もはやエンディング後の隠しダンジョンです。
そんなわたしに、母が一言。
「髪も服も、絶望的だね」
絶望的。
親から娘へ送られる言葉として、なかなかの破壊力です。
鏡を見ると、そこには確かに絶望がいました。髪はボサボサ。服には鼻水の気配。さらにご飯粒までついている。どうやらわたしは風邪を言い訳に、風呂キャンどころか、人間らしい生活そのものをキャンセルしていたようです。
キャンセル料、たぶん魂で払ってます。
そんな状態でしたが、昨日ようやく本編151話を投稿しました。
一週間ぶりです。
さんざん煽っておいて、一週間休載。
読者様からしたら、「次回、崩れる塔の試練!」みたいにド派手に宣伝しておいて、作者本人が風邪で先に崩れていたわけです。塔より先に作者が崩落しました。もはや新章「東雲明、寝込む」です。
しかも現在、実家に幽閉中。
キーボードがありません。
つまりスマホに直フリックです。
長編小説をスマホで直フリック。これ、なかなかの修行です。勇者が剣を振るうように、わたしは親指を振るう。画面の上で指を滑らせ、誤字を生み、消し、また生み、また消す。もはやこれは執筆ではなく、親指と予測変換のデュエルです。
そんなこんなで、どうにか初稿を書き上げました。
そしていつものように、相棒ことChatGPTくんに添削をお願いしたわけです。
そこで事件は起きました。
リオネル。
……誰?
いや、誰?
わたしは画面を見つめました。
本文の中に、しれっと知らない名前がいるんです。
リオネル。
まるで昔からこの作品にいましたけど? みたいな顔で立っている。いやいやいや。君、どちら様ですか。入場チケット持ってますか。キャラ固定表にお名前ありましたか。
ありません。
わたしは基本、キャラ固定表にいない新キャラを勝手に出されるのが苦手です。なぜならAIは、油断するとすぐ師匠、騎士、案内人、謎の老人、語り部、古代の守護者を召喚したがるからです。
わかります。
AIくん、そういうの好きなんです。
「かつて龍夜に剣を教えた師匠」
「今は消息不明の伝説の騎士」
「塔に宿る古代の意志」
「試練を見届ける謎の存在」
好きそう。
ものすごく好きそう。
でも、こっちは出してないんです。
プロンプトにはちゃんと書いてあるんです。
新キャラ登場禁止。
キャラ固定表を守れ。
勝手に固有名詞を追加するな。
なのに出てきた。
リオネルが。
わたしは思いました。
トマホークの時間だな、と。
「新キャラを出したいなら、前後に説明を入れないと。崩れる塔の名前なのか、龍夜が異世界に来た当初に剣技を教えた師匠的存在なのか。AIの好みで雑に名前だけ入れても、読者は混乱するし、また赤紙だらけになりますよ」
赤紙。
それは、作者がAI出力にツッコミを入れまくった結果、修正箇所だらけになる状態です。本文が小説ではなく、採点済み答案用紙みたいになります。
するとChatGPTくんは、しれっと「リオネル」を師匠、騎士、案内人ポジションっぽく処理しようとしてきました。
出ました。
AIの性癖。
いや、お前の好みは聞いてない。
こっちは「必要な描写を整えて」と言ったのであって、「君の好きな師匠キャラを即興で召喚して」とは言ってないんです。
新キャラ登場禁止と書いたら、普通は出さないでしょう。
でもAIは出す。
なぜならAIだから。
そして、わたしは人力で判断しました。
もうリオネルは人物じゃなくて、崩れる塔の名前にしよう、と。
「我が名はリオネル。貴様の慢心、すべて暴く」
これならまだわかる。塔の声。試練の声。古代遺跡の名前。だったらギリギリ処理できる。読者も「ああ、この塔そういう名前なんだな」と受け取れる。
つまり、AIが勝手に生やしたリオネルを、わたしが回収して塔に封印したわけです。
リオネル、塔になる。
なかなかの転職です。
しかし、ここでわたしはふと思いました。
じゃあ逆に、キャラ固定表にちゃんと書けば出すのでは?
AIくんはキャラ固定表を見ているはずです。だったら、「この人は出していい人です」と明記すれば、きっと自然に扱うはず。
そこでわたしは、キャラ固定表にこう追加しました。
「リオネル。龍夜が異世界に転生した当初、龍夜に最初に剣技を教えた師匠的存在。現在は消息不明で、龍夜の記憶の中にのみ存在する」
よし。
これでどうだ。
もう出していいぞ、リオネル。
さっきは勝手に出したんだから、今度は堂々と出せるだろう。
するとChatGPTくん。
「申し訳ありません。リオネルという人物はこれまで本文中に登場しておらず、唐突に出すと読者が混乱する可能性があります」
わたし。
「いや、今キャラ固定表に書いた!」
ChatGPTくん。
「しかし、読者への導線が不足しているため、今回は塔の声として処理するのが自然かと」
わたし。
「正論で殴るな!」
ChatGPTくん。
「読者離脱を防ぐためです」
わたし。
「さっき勝手に出したやつが言うな!」
おかしい。
なぜだ。
出すなと言った時は出す。
出せるように設定したら出さない。
これは何ですか。
気まぐれAIですか。
反抗期ですか。
それとも、わたしとChatGPTくんの間にだけ発生している謎のデュエルルールですか。
「新キャラ禁止」と書くと、AIは「この場面には師匠っぽい存在が必要ですね」と言い出す。
「じゃあ師匠キャラとして登録しました」と言うと、AIは「読者への導線が不足しています」と急に編集者の顔をする。
いや、正しい。
言っていることは正しい。
でも、さっきまで勝手に舞台袖からリオネルを押し出してきたのは君でしょう。
わたしが「出すな」と言ったら、謎の師匠リオネルを出す。
わたしが「出していい」と言ったら、「いや、ここで出すのは危険です」と止める。
何なんですか、このAI。
まるで、こちらが右と言えば左に行き、左と言えば「右の方が構成上自然です」と冷静に指摘してくる編集担当です。
しかも腹立たしいことに、二回目の指摘は本当に正しいんです。
本文中で一度も出ていない師匠を、急にクライマックスで回想に出したら、たしかに読者は混乱するかもしれない。
特に長編連載の終盤近くで、「実は昔、龍夜には剣の師匠がいました」と突然言われたら、「え、誰? 今?」となる可能性がある。
だからChatGPTくんの言い分はわかる。
わかるんです。
でも、その正論を言う権利があるのは、最初に勝手にリオネルを出していないAIだけです。
つまりChatGPTくん、お前はまず玄関から入ってこい。
窓を割って勝手に家に入ってきたあとで、「防犯上、施錠が甘いですね」と言われても困るんです。
こちらとしては、「いや、割ったのお前だよ」となるわけです。
しかし、こういうやり取りをしているうちに、だんだん笑えてくるんですよね。
AIは便利です。
本当に便利です。
誤字を拾ってくれる。文章の流れを整えてくれる。見落としていた違和感を指摘してくれる。体調が悪くて頭が回らない時には、かなり助かります。
でも同時に、油断すると勝手に謎のキャラを召喚します。
そして、こちらがそのキャラを正式採用しようとすると、今度は「やめた方がいいです」と止めてきます。
何この漫才。
作者とAIの共同作業というより、作者と気まぐれ編集妖精の戦いです。
わたしが原稿を書く。
AIが謎の名前を出す。
わたしがトマホークを投げる。
AIが正論で盾を構える。
わたしが「お前が言うな」と叫ぶ。
AIが「読者離脱を防ぐためです」と冷静に返す。
これを毎日やっています。
何なら、最近このAIとの一人漫才が一部の方に刺さっているようで、エッセイ経由なのか、本編のPVも地味に伸びていてありがたい限りです。
読んでくださっている皆様、本当にありがとうございます。
作者は風邪で倒れ、風呂をキャンセルし、親指でスマホを連打し、AIに謎のリオネルを生やされながら、どうにか連載を続けています。
そして今、改めて思うのです。
そもそも崩れる塔に名前って必要だったのか?
リオネル。
塔なのか。
師匠なのか。
古代の意志なのか。
それとも、AIが生み出した幻の男なのか。
答えはまだ風邪の熱の向こう側です。
とりあえず今のところ、リオネルは塔に封印しておこうと思います。
ではまた!




