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東雲明(しののめあきら)の徒然エッセイ  作者: 東雲 明


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第35話 本人よりも周りが盛り上がるわたしの執筆環境

 こんにちは!お久しぶりです。東雲明しののめあきらです。


 さて、一昨日のことです。


 わたしが応募していた「第7回一二三書房webコンテスト」の結果発表が出ました。


 こういう日って、朝からちょっとだけソワソワするんですよね。


 いや、もちろん過度な期待はしていません。

「今回はどうかな?」くらいです。

冷静です。大人です。社会人です。

結果発表のページを開く指が若干震えていたとしても、それはスマホの持ち方の問題です。


 で、結果。


 落選。


はい。

今回も見事に落選でございます。


 こういう時、創作者はだいたい一度天井を見ます。

そして天井には何も書いていません。

「今回は残念でしたが、次回作にご期待ください」とも書いていません。

ただの天井です。


 わたしも一応、数秒だけ虚無を見つめました。


 でも、わりとすぐ切り替えました。


落ちたものは仕方ない。

次だ、次。

タイトルを整えるか。

あらすじを磨くか。

冒頭三話の引きを強くするか。

応募先との相性も見るか。


そうやって頭の中で、次のコンテストに向けた作戦会議を始めようとした、その時です。


そうだ。

彼氏に報告しよう。


わたしはスマホを持ち、いつものテンションでLINEを打ちました。


「悲報!今回も落選でした。」


送信。


正直、返事はそんなに期待していませんでした。


というのも、彼は普段、わりと塩なのです。


この間、そこそこ大きめの地震があった時。

わたしは心配になって、すぐ安否確認LINEを送りました。


「大丈夫?」


返事、しばらくなし。


寝てたんかい。

いや、無事ならいいんです。いいんですけど、こっちは揺れで完全に目が覚めて、布団の中でスマホ握りしめてたんですよ。

その横で彼氏はたぶん、地球の揺れより睡眠を優先していました。


さらに、お花見のお誘いをした時もそうです。


「お花見行かない?」


返事は来ました。

来ましたけど、温度が低い。


春の陽気、桜、彼女からのお誘い。

こちらとしてはもう少し、こう、花びらが舞うような反応を期待するじゃないですか。


実際に返ってくるのは、業務連絡に近い。


日時確認。

場所確認。

天気確認。


花見というより現地調査。


そんな彼です。


なのに。


わたしの落選報告を送った瞬間。


「えぇえぇえぇ!そんなぁ!」


即レス。


速い。

めちゃくちゃ速い。


地震より速い。

桜より速い。

もはや通信速度が違う。


わたしはスマホを見ながら、ちょっと笑ってしまいました。


待って。

そこはそんなに食いつくんだ。


わたしの安否確認より、コンテスト結果の方がレスポンス早いの、どういうことなの。


しかも彼、そこから急に熱が入るんです。


「でも内容はいいと思うんですよ」

「タイトルかな?」

「あらすじの見せ方ですかね?」

「やっぱり序盤で読者を掴む必要があると思います」


始まった。


コンテスト通過するには?ミーティング。


場所はLINE。

議題はわたしの異世界ファンタジー。

参加者は彼氏とわたし。

なお、本人はさっき落ちたばかりです。


わたしは軽いノリで聞いてみました。


「やっぱり、流行りに合わせてスライムとか出した方がいいと思う?」


すると彼は、少しもふざけずに返してきました。


「最初からスライム前提ならいいけど、スライム関係ないなら唐突すぎると思います」


……君はプロの編集者か?


なにその的確な返し。

もっとこう、「スライムかわいいからいいんじゃない?」とか、そういうゆるい返答でよかったんですよ。


なのに彼は真剣です。


スライムの導入整合性を気にしている。


わたしの作品世界におけるスライムの必然性を検討している。


もうその時点で、わたしの頭の中では会議室ができあがっていました。

ホワイトボードに「スライムは必要か」と書かれ、彼氏が腕を組んでいる。

わたしはその横で、なぜかペンを持っている。


彼氏は続けます。


「主人公が成長する話なら、そこをちゃんと押した方がいいと思います」

「いきなり強いより、努力して強くなる感じですよね」

「ミユウを守りたいっていう動機は強いと思います」


待って待って待って。


普通に読んでくれてる。

しかもけっこう本質を掴んでいる。


彼氏よ。

君はいつから編集部に就職したんだ。


わたしはスマホの画面を見ながら、ちょっとだけ姿勢を正しました。

落選報告をしただけなのに、いつの間にか作品分析が始まっている。

しかもやけにまじめ。


こっちは軽く「落ちたよー」と言ったつもりだったのに、向こうはもう次回応募に向けて反省会を開いているのです。


本人より先に。


そう。

ここが問題です。


本人より先に、周りが盛り上がる。


わたしは落選した本人です。

一応、いちばん悔しがっていい立場です。

なのに、わたしが「次どうしようかな」と考え始めるころには、彼氏はもう改善案を出している。


温度差がすごい。


こっちはまだ玄関で靴を脱いでいるのに、向こうはもう作戦会議室で資料を配っている感じです。


さらにすごいのは、職場です。


わたしは職場でも、応募していたことを軽く話していました。


軽く、です。

本当に軽くです。


「今度コンテストに応募してるんですよ」くらいのノリです。


でも、周りの受け取り方が軽くない。


落選を報告すると、まず返ってきたのがこれです。


「今回もサイン会レクは延期か……」


待って。


サイン会レクとは。


わたし、まだ受賞していません。

書籍化もしていません。

献本も届いていません。

もちろんサイン本もありません。


なのに、なぜか職場では、わたしが受賞した場合のイベントがすでに存在しているのです。


しかも「延期」という言い方がすごい。


中止ではない。

延期。


つまり、いつか開催される前提。


わたしより信じている。


ありがたい。

ありがたいんですけど、信頼の置き場所が未来すぎる。


話を聞くと、どうやら職場では、わたしが受賞した場合の妄想イベントがかなり進んでいたらしいのです。


別の職場で働く彼氏を召喚。

職場をあげて祝賀会。

もらった献本に直筆サイン。

利用者さん全員にプレゼント。


規模が大きい。


わたし本人はまだ、受賞後の生活をそんなに具体的に考えていません。

せいぜい「受かったら泣くかもな」くらいです。


なのに周りはもう、イベント進行表を作りかけている。


誰が司会をするのか。

どこで写真を撮るのか。

サインは何冊必要なのか。

彼氏は何時に呼べばいいのか。


わたしの知らないところで、わたしの受賞後スケジュールが勝手に組まれている可能性がある。


怖い。

いや、ありがたい。

でも怖い。


しかも落選報告をすると、全員が本当に残念そうな顔をするのです。


本人より残念そう。


こっちはもう次のコンテストのことを考えているのに、周りはまだ「今回もダメだったか……」と肩を落としている。


ちょっと待って。

本人、けっこう元気です。


それどころか、タイトルとあらすじをまた工事しようとしてます。


しかし職場の人たちは優しいので、そこから叱咤激励が始まります。


「そうやってすぐ諦めないの」

「まだ次があるでしょ」

「書き続けることが大事なんだから」

「受賞したら絶対サインちょうだいね」


ありがたい。

本当にありがたい。


ただ、最後の一言だけ欲が出ている。


でも、こういう応援って、創作者にはかなり効きます。


コンテストに落ちると、どうしても一瞬だけ、自分の作品がどこにも届かなかったような気持ちになります。

画面の向こうで、自分だけがぽつんと立っているような感じになる。


でも、周りが勝手に盛り上がってくれると、そこに笑いが入ってくるんです。


「落ちた。終わり」ではなく、

「落ちた。ところでサイン会レク延期らしい」になる。


これは強い。


落選のダメージが、なぜかイベント延期のお知らせになる。


しかも本人はそこまで落ち込んでいないのに、周りが「次こそ!」と盛り上がる。

その結果、わたしもつられて「じゃあ次も出すか」となる。


単純です。

でも創作って、そういう単純な支えで続くことがあります。


もちろん、受賞したいです。


できるならしたい。

ものすごくしたい。


本屋さんに自分の本が並んでほしいし、献本を手に取ってみたいし、あとがきに「職場で勝手にサイン会レクの予定が組まれていました」と書きたい。


むしろそのあとがきを書くために受賞したいまであります。


だって面白すぎるじゃないですか。


本人よりも周りが先に祝賀会を予定していた話。

本人よりも彼氏が真剣にコンテスト対策を始めた話。

落選した瞬間、サイン会レクが延期になった話。


ここまで来ると、わたしの執筆環境そのものがエッセイのネタです。


わたしは小説を書いているつもりなのに、周囲が勝手にスピンオフを作っている。


彼氏は編集者ポジション。

職場は応援団兼イベント運営部。

わたしは作者本人のはずなのに、たまに一番冷静な観客みたいになっています。


でも、たぶんこれは、かなり幸せなことなんだと思います。


創作は基本ひとりです。

書く時はひとり。

悩む時もひとり。

落ちる時も、画面を見るのはひとり。


だけど、結果を話した時に、笑ってくれる人がいる。

悔しがってくれる人がいる。

次の作戦を勝手に立ててくれる人がいる。

まだ受賞していないのに、サイン会の心配をしてくれる人がいる。


これ、冷静に考えるとすごいです。


本人が「まあ次だな」と言っている横で、周りが「次こそいける」と言ってくれる。

本人が「タイトルどうしよう」と言っている横で、彼氏が「スライムは唐突では」と真顔で言う。

本人が「落ちました」と言っている横で、職場が「サイン会レク延期か」と肩を落とす。


なんなんでしょう、この環境。


ありがたいのに、ちょっとおかしい。


いや、かなりおかしい。


でも、わたしはこのおかしさに助けられています。


落選しても、笑い話になる。

次の応募に向けて、また動き出せる。

「じゃあ次はどうする?」と自然に考えられる。


これはたぶん、ひとりだったらもう少し重かったと思います。


だから次も書きます。


タイトルを直します。

あらすじを磨きます。

冒頭を見直します。

必要なら活動報告も研究します。

note運用も考えます。

エッセイにはおもしろいことを書きます。


スライムは、必要があれば出します。


必要がなければ出しません。

彼氏編集者に怒られるので。


そんなわけで、今回は落選でした。


でも、東雲明の周辺では、すでに次回コンテストに向けた謎の応援体制が整いつつあります。


本人よりも周りが盛り上がる執筆環境。


受賞する前から祝賀会の気配があり、書籍化する前からサイン会レクが延期され、彼氏はスライムの導入整合性をチェックしてくる。


どう考えても、普通ではありません。


でもまあ、こんな環境で書けるなら、もう少し頑張ってみようかなと思うのです。


次こそは、サイン会レクを延期ではなく開催にしたい。


その時はきっと、本人より周りの方が泣いている気がします。


ではまた!

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