17話 漁港な世界1 9/11
玄関にスリッパを脱ぎ、居間の襖を開けた瞬間、あかりは叫んだ。
「あっ、すごーい!」
畳敷きの部屋の中央に、大きくて柔らかそうな布団が二組敷かれている。
「仲居さんにお願いすれば、ホントにお布団の用意もしてくれるんだね。なんか感動!」
「おー、これはこれはー」
肌触りの良さそうな布団に吸い寄せられるようにして、こゆきが部屋の中へ足を踏み入れる。
「なんとも魅力的なお布団でー」
屈み込んで布団の手触りを確認したこゆきは、そのままするりと身体を潜り込ませてしまった。
「いやぁ……」
瞼を閉じたこゆきが、安らかな声で呟く。
「あかりも入ろう…………すぐ眠れるよ、これ……」
テレビ台の隅に置かれている小さな置時計を見る。まだ九時を少し過ぎた程度だったので、寝るにしてはかなり早い時間であったが――
「……そうね。ちょっと早いけど、今日のところはさっさと寝て、明日に備えよっか!」
壁のスイッチに手を伸ばし、部屋の照明を落とした。
布団の上で大の字に身体を横たえたあかりは、拳を天井に向けて突き出した。
「明日はさっさと二人を見つけて、つくよとせいなにも、こゆきの魚を食べてもらおう! やるぞー!」
「おー」
もぞもぞと、こゆきもあかりと同じように腕を挙げる気配があった。
「じゃあ、おやすみ!」
「おやすみー」
就寝前の挨拶を交わして目を閉じた瞬間、あかりの眠気はみるみる増していった。
今日見た風景が、次々と瞼の裏を流れていく。
駅前で見た、この世界でクリアするべきお題。
商店街で出会った、色々な人たち。
港で見た輝く海。釣りをしていたこゆき。
夕食で出た、活け造り、唐揚げ、焼き物。
大きな浴場。
柔らかい布団。
あかりの意識は、睡魔の中へ飲み込まれていった。
翌日の正午前。
つくよとせいなが最後に辿り着いたのは、防波堤の上であった。
「あかりは商店街で聞き込みをした後、この漁港に向かい、こゆきは日中から夕方まで、ここで釣りをしていた……聞き込みで得られた情報からすると、ここまでは確かなようですね」
「うん。でも……」
二人で周囲を見渡しだが、あかりとこゆきの姿はない。
「そろそろ、タイムリミットになるね……」
頭上の太陽を見上げ、せいなは続ける。
「あかりとこゆきも、まだ自分たちのこと、探してくれてるんだろうね……」
「恐らくは……ただ、今回のお題の達成は、少々難しいかもしれません」
海に視線を投げたつくよは、小さく嘆息した。




