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貴族転生したら、病院を開きました  作者: KiedeJWL


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第七章 王都からの死者

よろしくお願いします

 辺境の穏やかな日々に変化が訪れたのは、初雪の便りが聞こえ始めた頃だった。


「レオン様、王都から使者が参られました」


 執事が慌ただしく告げに来たのは、レオンが診療所で薬草を仕分けている最中のことだった。


「王都から? うちに、何の用だ」


「詳しくは分かりませんが、辺境伯様が急ぎお呼びです」


 嫌な予感を覚えながら、レオンは応接間へと向かった。そこには、豪奢な仕立ての外套を纏った、いかにも文官然とした中年の男が、辺境伯と共に待っていた。


「レオン殿とお見受けする。私は王宮筆頭医官、モルガン=ハイフィールドと申す」


 筆頭医官。この国の医療――治癒魔法を司る組織の頂点に近い人物ということだろう。その視線には、値踏みするような、あるいは敵意にも似た鋭さが宿っていた。


「辺境の地で、聖なる治癒魔法に頼らぬ独自の医術とやらを広めているという噂、王都にも届いておる」


「治療をしているだけです。魔法を否定するつもりはありません」


「口ではそう言うが……教会からは、由々しき事態だと苦情が上がっておる。魔法に頼らぬ治療などという異端の技が、民の信仰心を揺るがしかねぬとな」


 レオンは、内心で溜息をついた。予想していた反発が、ついに表面化したということだろう。


「異端、ですか。俺は、ただ、治せる命を治しているだけです」


「その真偽、王都にて確かめさせてもらう。……レオン殿、王都へ同行願いたい。第二王女殿下が、長らく原因不明の病に伏せっておられる。教会の治癒魔法をもってしても、一向に快方に向かわぬ。……もし、そなたの技とやらが本物ならば、殿下を救ってみせるがいい」


 その言葉には、明らかな挑発の色があった。もし失敗すれば、それを口実に「異端の医術」を排斥する、という思惑が透けて見える。


 だが、レオンにとって、その裏の思惑よりも重要なことがあった。


「王女殿下は、今、どのような状態ですか」


「……高熱と、原因不明の倦怠感が、もう半年以上続いておる。時折、意識を失われることもあるとか」


(半年以上、原因不明の発熱と倦怠感、意識障害……。単なる感染症とは考えにくい。何らかの慢性疾患か、あるいは……)


 医師としての本能が、既に思考を巡らせ始めていた。


「分かりました。同行します」


「レオン、本当にいいのか。相手は王宮だぞ、下手を打てば……」


 辺境伯が心配そうに声をかけてくるが、レオンは静かに首を振った。


「治せる病があるなら、治す。それだけです」


 その決意に、モルガンは僅かに眉を動かしたが、何も言わずに頷いた。


 *


「王都に行くのですか、坊ちゃま」


 診療所に戻ったレオンから話を聞いたリゼッタが、心配そうな顔をした。


「ああ。留守中の診療所を、ロベルトと頼んだ患者たちの引き継ぎで乗り切ってもらうしかない」


「私も同行いたします」


「フィリアーヌも、か」


「無論だ。王都の連中が、お前に妙な真似をせぬとも限らぬ。それに――」


 フィリアーヌは、どこか意味深に微笑んだ。


「王都の女どもが、お前にどんな目を向けるか、見ておきたいのでな」


「な、何を言ってるんだ」


「さあ、何のことやら」


 はぐらかすように笑うフィリアーヌに、レオンは首を傾げるしかなかった。リゼッタも、なぜか同行を申し出て、結局、レオンと共に王都へ向かうことになったメンバーは、リゼッタ、フィリアーヌ、そして護衛役としてガイウスが加わることになった。


 馬車――もっとも、フィリアーヌが竜の姿になれば移動時間は大幅に短縮できるのだが、王都に竜の姿で乗り込むわけにもいかず、通常の馬車で数日かけての旅となった――に揺られながら、レオンは窓の外に流れる景色を眺めていた。


(王女の病か……。この世界に来て、初めての「大物」の患者だな)


 緊張がないと言えば嘘になる。だが、それ以上に、原因不明の症例に立ち向かうという、医師としての探究心の方が勝っていた。


 *


 数日後、王都の城門をくぐったレオン一行を待っていたのは、辺境の街とは比較にならない、壮麗な都の景観だった。


「凄い……」


 リゼッタが、思わず感嘆の声を漏らす。石造りの荘厳な建物が立ち並び、行き交う人々の服装も、辺境の質実剛健なものとは一線を画す華やかさがあった。


 王城に到着すると、すぐにモルガンの案内で、謁見の間へと通された。


「面を上げよ」


 玉座に座す国王の声に、レオンは静かに顔を上げた。壮年の国王は、鋭い眼光でレオンを見据えていた。


「そなたが、辺境で評判の若き医術士か」


「レオン=ヴァンディアと申します、陛下」


「モルガンから聞いておる。娘――エルフィーネの病を、治せると豪語しておるそうだな」


「豪語したつもりはございません。ただ、診てみなければ、何とも申し上げられません」


 その率直な物言いに、国王は僅かに目を細めた。


「良い心がけだ。過信も、卑下もせぬか。……よかろう。エルフィーネのもとへ案内させる。モルガン、頼んだぞ」


「はっ」


 こうして、レオンは、この物語の中でも大きな転機となる、王女エルフィーネとの対面へと向かうことになった。

よろしくお願いします

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