第7話 写らない嘘
「潮田さん、白竜湖で撮らせてください」
「なんでうち?」
カメラバッグを肩に掛けた女子が、窓際に立っていた。制服の胸元には、新しい校章がついている。
始業式から一週間が過ぎ、廊下には部活動紹介のポスターが並んでいた。
野球部。
吹奏楽部。
写真部。
潮球部のポスターは、まだない。
「顔は良いからです」
「顔は? 他に言い方あるじゃろ」
花の後ろから、結が顔を出した。
「何の話?」
「白竜湖で、うちを撮りたいんじゃって」
結の顔が、カメラバッグへ向いた。
「ユニフォームで?」
「はい。部活動の写真を撮りたいです」
「めっちゃええじゃん。PR大チャンスじゃん」
「まだ、うち何も決めとらんよ」
「断るん?」
「断るとは言ってない」
「じゃあ行くじゃん」
「うちに聞いてから決めてや」
写真部員の手が、バッグの紐を握り直した。
「日曜日です。顧問の先生が車を出してくれます」
「先生の車?」
「五人乗りです」
結が指を折った。
「先生、写真部、花、うち。まだ一人乗れるね」
「なんで結まで入っとるん」
「知らん先生と知らん一年の車に、一人で乗るん?」
「乗れるよ」
「じゃあ、うちは行かんでええ?」
花の口が閉じた。
結がスマホを取り出す。
「何時?」
「九時に学校です」
部の連絡用画面を開いた。
【日曜、白竜湖で撮影】
【花がモデル】
花が画面を覗き込んだ。
「勝手に送らんで」
「事後報告よりええじゃろ」
「決めたん結じゃん」
写真部員の親指が、レンズキャップの縁を一周した。
「写真部の人には、まだ言わないでもらえますか」
結の指が画面の上で止まった。
「撮影のこと?」
「はい」
「なんで?」
「ちゃんと撮れるか、まだ分からないので」
「写真部なのに?」
「だからです」
結はスマホをポケットへ戻した。
「分かった」
花が廊下の壁を指した。
「写真できたら、あそこに貼るけんね」
潮球部の場所には、画鋲の穴だけが残っていた。
「ちゃんとかっこよう撮ってよ」
写真部員の頭が一度下がった。
「頑張ります」
「そこは任せてくださいじゃろ」
「任せてください」
結がスマホを向ける。
「今の、もう一回」
「撮らないでください」
「撮る側なのに?」
写真部員はカメラバッグを背中側へ回した。
「撮る側なので」
結のスマホが下がった。
「一緒じゃね」
「何がですか」
「何でもない」
花が先に歩き出した。写真部員が後ろへ続き、結も二人を追った。
写真部のポスターには、桜と猫と雨上がりの校庭が並んでいた。写真の下には、撮った生徒の名前だけが小さく印刷されていた。
* * *
日曜日。
写真部顧問の車は、校門前に止まっていた。
花と結が後部座席へ乗り、写真部員は助手席でカメラバッグを抱えている。
「全員おる?」
顧問がミラーを合わせた。
車が動き出した。
三原駅の前を抜け、港から離れる。窓の向こうから海が消え、建物の間が広がり、斜面と畑が増えていった。
花は窓へ頬を向けた。
「山ばっかり」
「同じ三原なんよ」
結がスマホを窓へ向ける。
畑。
細い川。
山の斜面に並ぶ家。
「海と山が、同じ市に入っとるんじゃね」
「結、三原市民じゃろ」
「こっちまで来んもん」
「三原、広いけんね」
結がもう一枚撮った。
窓ガラスに、花の横顔が重なっていた。
「消してや」
「半分しか写ってないよ」
「半分でもうちじゃろ」
「使わんって」
画面を送る。
山。
道路。
花の横顔。
結の姿はなかった。
助手席の写真部員が、首だけ後ろへ回した。
「普段、湖でも練習するんですか」
「せんよ」
花は窓の外へ顔を戻した。
「水、あるじゃないですか」
「海じゃないけん」
「そんなに違うんですか」
「違うよ」
「何が?」
花の顔が、結へ向いた。
「結、説明して」
「うちに振るん?」
「さっきから広報みたいな顔しとるじゃろ」
「顔は関係ないじゃん」
写真部員は前へ向き直った。
「分からんまま撮ります」
「その方がええよ」
「ええんですか」
「花が目立てば、だいたい分かるけん」
「雑じゃね」
結の指が、カーナビの表示で止まった。
【道の駅 いいね!白竜】
「道の駅、寄るん?」
顧問の両手は、ハンドルから動かなかった。
「帰りにな」
「行きは?」
「撮影が先だ」
写真部員がレンズキャップを外した。親指で縁をなぞり、またレンズへ戻した。
車が山道を曲がる。
木々の間から、水面が見えた。
車は道の駅の駐車場へ入った。
白竜湖は、建物の向こうに広がっていた。水面には雲の白い部分が残り、対岸には春の色が混じった木が並んでいる。湖畔へ下りる道には、乾いた葉が重なっていた。
花は施設の更衣室を借りた。
ユニフォーム姿で戻ってくる。ゴーグルを額へ上げ、オレンジ色のボールを脇に抱えていた。
「暑い」
「まだ四月じゃん」
「水に入らんのに、これ着る意味ある?」
「写真じゃけ」
結がスマホを構えた。
「花、こっち」
「もう撮るん?」
「準備中も使えるじゃろ」
「髪、まだ直しとらん」
「いつもと一緒じゃん」
「違うわ」
花はボールを脇へ挟み、手ぐしで前髪を直した。
結のスマホが一度鳴る。
「見せて」
「写真部の前に確認するん?」
「変な顔を残されるよりええじゃろ」
結が画面を花へ向けた。
ユニフォーム姿の花。
オレンジ色のボール。
背後には、白竜湖の水面。
「ええじゃん」
「うちがええけんね」
「まだ写真部、一枚も撮っとらんよ」
写真部員は湖畔と駐車場の間を歩いていた。
カメラを上げる。
下ろす。
二歩動く。
道の駅の建物と湖の間で、何度も位置を変えた。
「潮田さん、ここにお願いします」
花が指定された場所へ立った。湖を背にし、右手にはオレンジ色のボールを持つ。
「どうすればええん?」
「そのままで」
「普段、こんな止まり方せんよ」
「写真なので、止まってください」
「動いた方がかっこええじゃろ」
「ぶれます」
結のスマホが上がった。
「花、負けとるよ」
「何が」
「写真の知識」
「競技なら勝つよ」
写真部員がカメラを覗いた。
「村上さん、これを持ってください」
白い板が差し出された。
結が両手で受け取る。
「何これ」
「レフ板です」
「テレビで見るやつじゃん」
「潮田さんの顔に光を当てます」
結は花の斜め前へ立った。
「ここ?」
「右です」
一歩動く。
「もう少し」
さらに一歩。
「そこです。内側へ傾けてください」
結が白い板を花へ向けた。
「こう?」
「はい。動かないでください」
「花より注文多くない?」
花がボールを持ち直した。
「結、腕下がっとるよ」
「重いんよ」
「白い板じゃん」
「持ってみ」
「うちはモデルじゃけ」
「急に受け入れるじゃん」
シャッターが鳴った。
一枚。
二枚。
「潮田さん、顔を左へ」
花の顔が動いた。
「反対です」
「左って言ったじゃろ」
「潮田さんから見て右です」
「最初に言ってや」
結がレフ板の横から顔を出した。
「湖、あんまり入ってないよ」
写真部員の目は、ファインダーから離れなかった。
「この方が構図がいいです」
「白竜湖まで来たのに?」
花の肩が後ろへ動く。
「そのままでお願いします」
「注文多いね」
シャッターが続いた。
顧問は湖畔のベンチから腕時計を確認し、駐車場の方へ顔を向けた。
「車を見てくる」
結はレフ板を持ったまま、顧問の背中を追った。
「さっき停めたばっかりじゃん」
顧問は湖畔の道を上がっていった。
写真部員の指が、シャッターを押す。
「村上さん、板を上げてください」
「先生、行ったよ」
「もう少し上です」
「どこまで?」
「潮田さんの肩くらいまで」
白い板が上がり、結の視界の右側が消えた。
正面には花がいた。
花の肩。
オレンジ色のボール。
ユニフォームの胸元。
駐車場へ続く道は、花の体の後ろに隠れていた。
「次、ボールを胸の前で持ってください」
花が両手で抱える。
「これ、持っとるだけじゃん」
「何の部活か分かりやすくなります」
「ゴーグルも下ろす?」
「お願いします」
花がゴーグルを下ろした。
「見えにくい」
「顔を上げてください」
「見えんって」
「その位置で大丈夫です」
「雑じゃね」
結のスマホが鳴った。
部の連絡用画面に、凪からメッセージが届いている。
【写真、楽しみにしています】
その下に、陽からオレンジ色の丸が一つ届いた。
結はレフ板を片手で支えた。
【花、ずっと止まっとる】
「何送ったん」
花の顔が動いた。
「動かないでください」
花が正面へ戻る。
「実況だけ」
「変なこと送らんで」
シャッターが止まった。
写真部員が画面を確認する。
顧問はまだ戻ってこない。
「終わり?」
花がゴーグルを上げた。
「あと少しです」
「結、交代せん?」
「何を」
「モデル」
「うちはええよ」
「なんで」
「花だけで分かるじゃろ」
「うちも部員じゃろ」
花がボールを脇へ抱えた。
「入りんさいや」
「今、制服じゃん」
「別にええじゃろ」
「ポスターなら揃えた方がええよ」
写真部員のカメラは、結の方を向いたままだった。
結はスマホの画面へ顔を落とす。
「先に花の分、終わらせようや」
写真部員がカメラを構え直した。
顧問が戻ってきたのは、数分後だった。
「車、大丈夫じゃった?」
「ああ」
「場所、変わってなかった?」
顧問の足が、ベンチの前で止まった。
「変わるわけないだろ」
「じゃあ何を見たん」
「終わったのか」
写真部員がカメラを胸元へ下ろした。
「はい」
「戻るぞ。道の駅に寄る」
「もう目の前じゃん」
花がボールをバッグへ入れた。
「先に着替えてくる」
写真部員がカメラの画面を開いた。
「写真だけ確認してください」
四人が小さな液晶を囲んだ。
一枚目。
ユニフォーム姿の花が、湖を背に立っていた。
オレンジ色のボールは胸の前。
水面は画面の左端に入っている。
二枚目。
花の顔が横を向いている。
背後の湖は、さらに細くなった。
三枚目。
ゴーグルを下ろした花。
ユニフォームとボールが、画面の中央にある。
「うち、かっこええじゃん」
「自分で言うん?」
「見たら分かるじゃろ」
結の指が、画面の右端で止まった。
「これ、うち?」
白いレフ板の角。
その下に、指が二本だけ写っている。
「入ってしまいました」
次の写真にも、白い板の端だけが残っていた。その次も花。さらに次も花。
どの写真も、右側が狭い。
道の駅へ続く道は、一枚にも写っていなかった。
結が一枚前へ戻す。
花の肩。
オレンジ色のボール。
ユニフォームの胸元。
写真の外には、白いレフ板があった。
「全部、同じ方が切れとるね」
写真部員の親指が、カメラの縁へ移った。
「似た構図になりました」
「使えんの?」
「写真としては使えます」
「ならええじゃん」
「ポスターにするなら、もう少し湖を入れた方がいいです」
「白竜湖まで来たんじゃけね」
結はカメラから顔を上げた。
顧問は駐車場の方へ体を向けている。
「戻るぞ」
花がバッグを肩へ掛けた。
結はレフ板を畳もうとしたが、円形の板が途中で跳ね返った。
「これ、どうするん」
「貸してください」
写真部員が受け取り、二度ひねる。
白い板が小さな円に収まった。
「今の、もう一回」
「こうです」
「速い」
「慣れです」
「部活って、だいたいそれじゃね」
花が先に歩き出した。
「何回もやりゃできる」
四人で湖畔の道を上がる。
道の駅の建物が近づいたところで、結の足が止まった。
「花」
「何」
「さっきの場所、もう一回立って」
「着替えたいんじゃけど」
「一分」
「なんで」
「ええけん」
花はバッグを地面へ置いた。
「ここ?」
「左」
一歩動く。
「もうちょい」
花が撮影時と同じ場所へ立った。
結は、カメラがあった位置まで戻る。
湖を背にした花。
花の肩が、道の駅の入口と重なった。
「バッグ、胸の前で持って」
花がバッグを胸の前へ上げる。
入口が消えた。
結は右へ動いた。
建物の扉が見える。
一歩戻る。
花の肩が、もう一度扉を隠した。
結の右手が、撮影時にレフ板のあった場所へ伸びる。
花の体と、白い板。
二つが重なれば、湖畔から道の駅まで見えない。
「結?」
花の声が届いた。
道の駅の扉が開いた。
写真部顧問が出てくる。
手には、透明なファイルがあった。
中の白い紙に、黒い文字が並んでいる。
【春季写真展】
【出品受付控】
顧問の足が止まった。
花が入口へ顔を向ける。
「結」
「見えとる」
写真部員の両手が、カメラバッグの紐を握った。
結は撮影位置から動かなかった。
「先生、車を見に行ったんじゃないん?」
顧問がファイルを下ろした。
「車も見た」
「道の駅にも入った?」
「ああ」
「何出したん」
写真部員が顧問の横へ進んだ。
「私のです」
顧問から透明なファイルを受け取る。
受付印が、紙の右下に押されていた。
「春の写真展に出しました」
花が受付控へ顔を寄せる。
「これ、さっき先生が持っとったん?」
「はい」
「見えとったら、うち絶対聞いとったよ」
「うちも聞く」
結が花の立っている場所を指し、次に撮影位置を指した。
「じゃけ、花をあそこに立たせたんじゃね」
写真部員の親指が、受付控の角を押した。
「結果が出るまでは、誰にも知られたくなかったんです」
「写真部にも?」
「今年は出さないって、もう言ったので」
「嘘ついとったん?」
「はい」
「なんで」
「去年、全部落ちました」
透明なファイルが、写真部員の胸元へ寄った。
「今年も出すって言って、また落ちたら嫌だったので」
花がバッグを地面へ下ろした。
「それだけ?」
「はい」
「悪いことしとるんかと思った」
「してません」
顧問の指が、ファイルの端を押した。
「出品も撮影も、学校には届けてある」
「車の確認は?」
「した」
「道の駅が本命じゃったじゃろ」
顧問の指が止まった。
「受付は今日までだった」
「うちらが先生の持っとる紙を見たら、その場で聞いとったもんね」
結のスマホが、ポケットの中で鳴る。
「部の連絡にも送っとったかもしれん」
「ほら」
花の指が結へ向いた。
「結が一番危ないじゃん」
「花も絶対、学校で写真部捕まえとるよ」
「聞くだけじゃん」
「声がでかいんよ」
写真部員が二人を交互に見た。
「だから、見えないようにしました」
「うちらを目隠しに使ったん?」
「撮影は、本当にしたかったです」
「レフ板は?」
「本当に必要でした」
「花の位置は?」
写真部員の指が、カメラバッグの紐へ戻った。
「半分です」
「半分、目隠しなんじゃん」
花がユニフォームの首元を引いた。
「暑いし」
結が透明なファイルを指した。
「出した写真、見せて」
写真部員の手が止まった。
「嫌ならええよ」
カメラがバッグから出た。
液晶の表示が切り替わる。
雨上がりのバス停。
ベンチの横に、閉じた傘が一本立っていた。
道路には、水たまりが残っている。
人は写っていない。
「大和町?」
「はい」
花が画面へ顔を近づけた。
「誰の傘?」
「分かりません」
「勝手に撮ったん?」
「持ち主が戻ってくるまで待ちました」
「戻ってきた?」
「はい」
「その人は撮らんかったん?」
「撮ってません」
写真部員の指が、カメラの縁を一周した。
「傘だけの方がよかったので」
「ふうん」
花はユニフォームの袖を引いた。
結は画面を見たままだった。
ベンチ。
閉じた傘。
水たまり。
撮った人は写っていない。
「ええ写真じゃん」
写真部員の顔が上がった。
「ほんまですか」
「うちは好き」
「花さんは?」
花がもう一度画面へ顔を寄せた。
「地味」
写真部員の肩が下がった。
「でも、なんか見る」
「どっちですか」
「両方」
花はバッグを持ち上げた。
「着替えてええ?」
「はい」
「先に行くよ」
花が建物へ向かい、顧問もその後ろへ続いた。
「十分で戻れ」
「先生」
「何だ」
「嘘、下手ですね」
「車は確認した」
「そこじゃないです」
顧問は道の駅へ入った。
駐車場に、結と写真部員が残った。
カメラの液晶には、雨上がりのバス停が出たままだった。
「村上さん」
「何?」
「怒ってますか」
結はスマホを取り出し、通知を一つ消した。
「レフ板、重かった」
「すみません」
「腕、まだ痛い」
「すみません」
「ほんまに重かったんよ」
写真部員の顔が下がった。
結の指が、カメラの液晶へ向く。
「じゃあ、撮って」
「何をですか」
「部のポスター」
「今日の写真で作るんじゃないんですか」
「花しかおらんじゃん」
「潮田さんの撮影なので」
「部のポスターなら、全員おる方がええじゃろ」
結は指を一本ずつ折った。
「澪さん、凪、花、陽。うち」
最後の指だけ、胸元へ向いた。
「村上さんも?」
「うちも」
「撮る方じゃなくて?」
結のスマホに、今日の写真が並んでいた。
山。
道路。
湖。
花。
最後の一枚には、レフ板の端と指が二本だけ写っている。
「次は入る」
写真部員がカメラを持ち直した。
「場所は?」
「港」
道の駅から、制服へ着替えた花が出てきた。
「何しよるん。置いてくよ」
「写真の依頼」
「タダで?」
結が写真部員へスマホを向けた。
「タダですよね」
「部活動の依頼なら」
「タダじゃん」
花が結の肩を押した。
「今、一枚撮ってもらえば?」
「制服じゃん」
「うちも制服に着替えたよ」
「道具ないじゃろ」
「今日は記録でええじゃん」
写真部員が駐車場の端へ移動した。
「試しに撮ります」
「何の試し?」
「二人の位置です」
花が湖を背に立つ。
「結、早う」
結はスマホを持ったまま動かなかった。
花が半歩横へずれた。
一人分の場所が空いた。
「置いてくよ」
「車、同じじゃん」
「じゃあ置いてけんね」
結はスマホをポケットへ入れ、花の横へ進んだ。
「近くない?」
「二人なら、そのくらいです」
写真部員がカメラを構えた。
「撮ります」
結の右手がポケットへ向かう。
指先が、スマホの角に触れた。
手が下がった。
シャッターが鳴った。
花が先にカメラへ近づく。
「うち、目閉じとる」
「もう一枚ですね」
「結は?」
結も液晶を覗いた。
制服姿の花。
その横に、結が立っていた。
ゴーグルも、ボールもない。
二人とも、画面の端まで入っていた。
結の右手には、何もなかった。




