6 白雪の屈辱
「義母様は、王宮の最上階、――鏡の間にいるはずだわ」
白雪に先導され、リンとガイは王宮の隠し通路を進んでいた。
兵士たちの目を逃れながら、女王のいる最上階を目指す。
至るところにある隠し扉は複雑に入り組んでおり、例え侵入できたとしても目的地にたどり着くのは難しいと、嫌でも分かる造りであった。
ランタンの小さな明かりだけが頼りなく灯り、薄暗さが侵入者達をそっと隠す。
「部外者が入っちまって良いのかと思ったが…」
「確かに、これは『入れた』だけじゃ、どうにもならないね」
白雪の後に続く二人が、辺りを見回し感嘆の声をあげた。振り返った白雪が少し笑った。
「昔も今も、お城って言うのは物騒なのよ」
「怖いから含みを持たせるの、やめろ…」
物語の世界にすら高位貴族独特の闇があるのかと、リンが肩をすくめた。
「ねぇ、ずっと気になってたんだけどさ」
リンの隣を歩いていたガイが、ふと切り出した。違和感の多い今回の任務なので、詳しく知ったところで果たして意味があるかは不明だが。
「白雪の話だと、継母も鏡の『美女宣言』が無いことには困ってたんだよね?」
「そうね」
「何で、今、別行動で暴走してるの?」
白雪の足が止まった。
当然、後に続く二人も止まらざるを得ない。訝しげに白雪に目をやると小さな肩が震えていた。
本能的に、リンとガイは身構えた。
――あ、これは碌でもない理由が来る。
そんな確信だけがあった。
「『鏡の精霊』の魔力に負けてしまったんだと思うわ…」
リンとガイが揃って無言になった。
安定の意味不明さである。
「『説明不足』がデフォかよ」
「うん、白雪。もう少し詳しくお願い」
がっくりと項垂れた二人は、もはや膝をつかなかっただけでも褒めてほしい心境だった。
「お義母様は魔女だから、私より魔力の影響を受けやすいんだと思うの」
もう黙って最後まで聞く覚悟を決めた二人は、無言で頷き先を促す。
「初めは誰だか分からない『リリアーヌ』に混乱して、一緒に鏡を説得してたんだけど…」
「話が進まないって大変だもんね」
もはや、何に共感したのか分からなくなっているが、ガイが肯定した。
リンは黙ったままだ。
「鏡の主張に抵抗しきれなくなって『リリアーヌ』という美女の存在を、この物語に受け入れてしまったの」
堪えきれず顔に両手を当てて、白雪は声を震わせた。
「私、この物語でずっと『かわいい』といわれ続けて生きてきたのに、こんな屈辱ってないわ!」
「知るか!!!」
ついに、リンが我慢の上限に達して声をあげる。ガイはひとまず「まあまあ」と興奮するリンをなだめて白雪を見る。
「えっと、それじゃ継母の方は、今は敵ってことで良いのかな?」
「どいつもこいつも、まとめてぶっ飛ばしてやる!!」
気の短い相棒がイライラと叫ぶのを押さえつけながら、ガイが白雪に確認する。
意味が分からないなりに、どれをぶっ飛ばせるのかくらいは確認しておこう。
「的の整理だけさせて?リンがこんな状態じゃ、戦闘になった時マジで困るから」
「リンて、すごく感情的なのね?」
「いつもは、違うからね?」
うそ泣きだったのかと疑いたくなるほどに、乾いた目で白雪がリンを見る。頼むからこれ以上刺激しないでほしいと、ガイは心底願うのだった。
「やかましい、このバグ女!鏡の間とやらに着いたら、問答無用でその場の全員をぶっ飛ばすぞ。良いな、ガイ!」
「せめて、無理やり集められてる美女候補達だけは見逃してあげなよ。可哀想じゃん」
すっかり、頭に血が登ってる相棒に深々とため息を付く。
そもそも、リンは昔から短気だ。
雰囲気や皮肉屋な物言いのせいで一見冷静に見えるが、想定外の事態には驚くほどすぐキレる。
今も、ガイを見つめる昏い目には、隠しきれない苛立ちの焔が燃えている。
「いいか、ガイ…」
低く唸るようなリンの声に、ガイは、三度目の深いため息を漏らした。
「今、この場で、一番可哀想なのは、…俺たちだ!!!」
「はぁ…。分かったから、現場では冷静に頼むよ、相棒」
呆れたような白雪の視線が突き刺さる。
ことの原因はお前だ、と言ってしまえば少しは楽になれそうだったが、ガイは黙って飲み込んだ。




