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7 謎の美女と継母の怒り

 そこは昼間だというのに、薄闇に沈んでいた。


 ――鏡の間。

 女王の私室であるその部屋には、息苦しいほどの異様さが満ちていた。


 壁に掛けられた大きな鏡は、美しい光の粒を反射していた。

 それなのに、滲み出る気配だけが、ひどく妖しく不穏だった。


 一段高い場所にある、その鏡の前に女王が静かに向き合った。


 その目は常軌を逸した危険な色を宿し、口許は厳しく引き結ばれている。


「鏡よ、鏡。世界で一番美しいのは誰?」


「…世界で一番美しいのは『リリアーヌ』です」


 何度問いかけても返ってくるのは、同じ名ばかり。


「リリアーヌ」


 そのたびに、女王の苛立ちは膨れ上がっていく。


「ええい!一体どこにいるというの、『リリアーヌ』という娘は!!」


 鏡の前には、美しいと評判の娘たちが並ばされていた。

 女王の剣幕に怯え、誰ひとりとして顔を上げられない。


 機嫌を損ねれば処刑される――その恐怖で、少女たちの顔は蒼白だった。


「鏡よ!この中に『リリアーヌ』はいるの!?」


 射殺さんばかりに怒鳴りつける女王に、普段の落ち着いた底冷えする美しさはない。


「その中にリリアーヌはいない」


 鏡の精は、女王の怒りなど意に介さず、ただ淡々と告げる。


「じゃあ、私は誰を毒殺すれば良いのよ!!!」


 物語が一向に進まない。

 それだけで、女王の焦りは狂気へと変わりつつあった。


「こうなったら、誰でも良いから『リリアーヌ』として毒林檎を食べさせるしかないわ…」


 闇に飲み込まれたような目で、ギロりと捕らえた娘たちを睨み付けた。


 隠し扉の隙間から中を伺っていた白雪が息を飲む。


「…いけない!お義母様が、もう限界だわ」


「継母、もうめちゃくちゃじゃん」


 ガイが、もう何度目になるか分からないため息を漏らす。

 その隣でリンが静かに胸元の「光の魔道ペン」を抜いた。


 その目もまた、深い闇を含んでいる。


 ガイがその腕をとり、一度だけグッと目を見た。


「ちゃんと『ぶっ飛ばす』から、しっかり指示くれないとダメだからね?」


 リンは一度だけ瞬きをすると、静かに息を吸い込んだ。

 ふう、と小さく吐き出し、ガイを見て、ゆっくり口角をあげる。


「お前にそんなこと、言われるようじゃお仕舞いだ」


「いや、結構あるからね?」


 リンの目から苛立ちが消え、知的な光が戻ってきた。

 いつものようにシニカルに笑ったリンに、安堵の息を漏らしてガイも笑った。


 さあ、一斉射撃の始まりだ。

 薄く開いていた隠し扉を蹴り飛ばす。


「ガイ、行け!!」


 リンの光の魔道ペンが、宙をすべる。

 その軌跡が、一瞬で複雑な幾何学模様――魔方陣を編み上げた。


 光の軌跡が三方向に分かれた。囚われた少女たちには防御、兵士達には制圧、そして鏡と女王には特大の聖魔法。


「…綺麗」


 三種類の属性も役割も異なる魔方陣を、リンが一気に製図する。その光の模様の美しさに白雪は思わず声を漏らした。


 その白雪の呟きも終わらぬうちに、ガイはそれらの複雑な図を完全複写(完コピ)し、己の魔力で再構築(実体化)する。


 そのまま標的に向けて手を掲げ、最大出力で撃ち放った。


 天空に無数の光の矢が具現化し、兵士達に狙いを定める。完全な防御壁に囲まれた少女達には傷ひとつ付けずに、光の雨が一斉に撃ち放たれた。


 そして同時に現れた、一際輝く『聖なる矢(ホーリーアロー)』は、一発必中の勢いで、鏡と女王を貫いた。


 もうもうと立ち込めた煙が、やがて収まっていくと、矢に撃ち抜かれた兵士達が気を失い倒れているのが見て取れた。


「…気絶させただけだよ、殺してねぇ」


「信じてたよ、相棒」


 不貞腐れたようにリンが言うと、ガイは満足そうに笑った。


「凄い…、一瞬で」


 白雪が言葉を失い、呆然と惨状を見渡した。


「全く、…失礼な野良犬達だこと」


 その時――


 撃ち抜かれたはずの女王の、凍りつくような声が響いた。


 充満した煙の奥から、悠然と姿を現す。

 その身体には、かすり傷ひとつなかった。


 リンとガイが、同時に目を見開く。


「む、無傷だと…?!」


「嘘、でしょ?」


 後ろから、白雪が大声で叫ぶ。


「気をつけて、二人とも!女王はこの国で一番の魔力をもっているのよ!!」


 一瞬、沈黙が落ちた。


 リンの額にピシリと青筋がたち、ガイは天を仰ぐ。


「いつも、いつも、説明が足りねぇんだよ、このバグ女がぁぁ!!」


 今回ばかりは、ガイもフォローする気にはなれず、リンの怒りに同意するのであった。


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