妹とゴブリンキング
「お兄ちゃん……今日は薬草採集ですか?」
「今日は俺の番だからそうなるな」
「気が向かないですね……」
妹は過激派なのですぐに魔物が出てくるように期待する、そうそうそんな都合のいいことがあってはならない。
「お前なあ……その戦闘民族みたいな考え方はどうかと思うぞ?」
「誰が戦闘民族ですか!? 私は皆さんの平和を維持したいだけですよ!」
自称平和を愛する妹にかける言葉も思いつかずギルドに向かう。今日は何事も怒らないような平和な日だ。
そうしてギルドに入るとにこやかに出迎えてくれるセシリーさんがこう言った。
「お待ちしておりました!」
俺はきびすを返して帰ろうとする、絶対面倒な奴じゃんこれ……
ガシリと妹に肩を掴まれ受付に連れて行かれる、やめて欲しいのだが……
そんな願いもむなしく、俺は受付に座らされる。
「実は……魔王軍がこのあたりに拠点を建てているらしく……討伐軍が組まれてるのですが……お二人なら単独で余裕だとギルマスが口を滑らせまして……」
あのギルマス! 何を考えてるんだ! どう考えてもこの貧乏な軍だったらその話に乗るに決まってるじゃないか!
「ちなみに俺たちに選択肢は?」
「当ギルドを出て行かれるのでしたら有りますよ?」
全くもって酷い話だ……
「お兄ちゃん? もちろん受けますよね?」
選択肢の無い問いに対して俺の答えは決まっている。
「受けます……」
「ありがとうございます! 周辺ギルド連合での依頼ですので報酬ははずみますよ!」
このどうしようもない連中に天罰が下らないかなあなどと思いつつ装備を調えるのだった。
ギルドからの帰り道、ミントはるんるん気分だったが俺の気持ちは灰色に沈んでいた。
「なんでお兄ちゃんはそんなに不安そうなんですか? 私が居れば楽勝でしょ?」
「俺は平和に暮らしたいんだよ!」
「そんなことを言ってもトラブルの方からやってきますよ、トラブルは随分と私たちのことが好きなようですね?」
「好かれたくない相手のトップクラスだな」
「大丈夫ですよ! 私がお兄ちゃんを守りますから!」
そう言って胸を張るミントに『だから不安なんだよなあ……」とは言えないのだった。
――翌日
「では、攻城戦を始めます、お二人が正面から突っ込んで慌てたところを左右から挟み撃ち、いいですね?」
目標は建築途中の砦、砦と言っても岩や金属で出来た立派なものではなく、木製の素朴なものだ、問題は無い。問題なのは砦を作る知能を持った個体が居る可能性だ。
「敵種族はゴブリン、ゴブリンキングまでを想定しています。ゴブリンロードが出たら王室に救援要請、いいですね?」
「わかりました」
「大丈夫です」
しかし周辺地域のギルド隊の皆さんは気が気では無いらしい。
「おいおい、こんなガキ二人に正面の陽動を任せるのか? 正気じゃないだろ?」
「そうだぞ、俺たちみたいな熟練の冒険者が正面に立つべきだ」
「子どもを死地に追いやるなんて、なんてギルドだ!」
悪意はないのだろう、純粋に心配なのだろう、しかし俺たちにとっては取るに足らない敵なのだ。
「まーまー、私たちが楽勝しちゃうから皆さんの出番がないかもってビビる気持ちは分かりますよ? 実際私たちは強いですから!」
それを煽るミントだった、いつものことなので俺も気にすることはなかった。
「そこまで自信満々ならいいがな、いいか、危なくなったら絶対に逃げろよ?」
そう心配しくれる他ギルドの大人を無視してミントは言う。
「お兄ちゃん! 力と体力、全力でバフしてください!」
「わかったよ……」
――
力「SS」
体力「SS」
魔力「A」
精神力「S」
――
このくらい積んでおけば大抵の敵には苦戦のしようがない、危なげないステータスだ。
「じゃあ、いきますよー!」
「うおおおおおおおおおおお!!!!!!!」
ギルド隊が三つに分かれていく、中央の俺たちが一番早く接敵するだろう。
「ぎ!? ぎいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!」
ゴブリンの群れが襲いかかってくる、しかしミントはそれを事もなげに徒手空拳で叩き潰していく、この程度の相手なら武器すら必要ない。
阿鼻叫喚の中、ゴブリン達は中央の俺たちへ戦力を集中させてくる、横の部分が手薄になったところで残りのメンバーが奇襲をかける。
そこからはもう一方的な殺しだった。目についたゴブリンを殴り飛ばすミントに皆が驚きながらもゴブリンの殲滅は続いていく、そこで『ソレ』は現れた。
身体の色が赤く、体格が大人の二倍くらい有るゴブリンが出てきた。
「おい! あれが首領だ! アイツを倒せばここは崩壊するぞ! 戦力を集中させろ!」
ゴブリンキングの登場で冒険者の皆さんは多少ビビっている、しかしミントはどこ吹く風で、ゴブリン達へしたのと同じようにゴブリンキングに殴りかかる。
ドガアアアアアア
親玉が半分以下の身長の子どもにぶっ飛ばされたのに皆が驚く、ゴブリン達でさえ怯えている。
ヒュン
特製ナイフをとりだし、ゴブリンキングの喉笛をかききる。巨体は大量の血とともに倒れ伏した。
「じゃあ皆さん、残りの細々したのはお願いしますね?」
そう言って、残りのザコの処理を任せて俺たちは前線を後にした。
しばらくの戦いの後、ゴブリンの残当も全て倒され、砦のようだったものはもはや形を崩したガラクタの山になっていた。
戦後のミーティングで皆がミントを褒めていたがミントが俺のおかげだと言ったので釣られて俺も余り望まない名誉を得たのだった。
「しかし嬢ちゃんつええな! どうやったらそんなに強くなれるんだ?」
「んー……お兄ちゃんが居るから……でしょうかね?」
そうして俺に好奇の目が集まり、謎の凄腕冒険者としばらく町の外では呼ばれるのだった。
――ギルドにて
「いやあ、やはりお二人さんは強いですね!」
「そうでしょうとも! もっと褒めてくれても良いんですよ?」
「今回はお二人が最重要なポジションをこなしたとか! いやあすごい!」
「で、報酬と貢献ポイントは?」
「お二人はすごいですねえ……迫り来るゴブリンをちぎっては投げ……」
「報酬は?」
セシリーさんの頬に汗が伝っている、なんとなく予想はついた。
「報酬は全ギルド公平に分配という形になりました。個人ではなくギルドごとに分配したのでそれなりの金額ですよ!」
「貢献ポイントは……」
「ミント、察してやれ」
たまらず俺が口を挟む。
「だって! これだけやったんですから貢献ポイントたくさんもらわないと割に合いませんよ!」
「実は……ギルマスがお二人はもう貢献ポイントをカンストしていると対策会で言っちゃいまして……お二人に与えると嘘がばれるので……その……」
「そんな……」
こうして俺たちは今日もFランクパーティとしては贅沢な生活を続けるのだった。




