37話 フルチン
「動きを制限したでござる。この一撃で終わらせるでござるよ」
右膝上からばっさりと切断された足の代わりに剣を地面突き立てて倒れないよにバランスをとっている。
その剣を握る手に力を込めはじめる。多分めちゃくちゃヤバい一撃がくると思われる。
そしてこの一撃が成功しようと失敗しようとカムイにとっては最後の一撃になるだろう。これ以上続ければ出血死の可能性もある。
ポンパとミリアによって俺は恥ずかしさで死にそうなので、おそらくカムイの一撃も防げると思う。
俺は手のひらをカムイに向け攻撃体制に入った。
「アレン!俺とお前のコンビプレイでカムイを倒そうよ!」
俺の背中をツンツンしながら話しかけてくるので振り向いたらポンパだった。
「いや、お前限定強化全然出来てねーだろ?一緒に戦ってくれるのは感謝したいけど無理でしょ?」
「そんな事ないよ?だってホラ、見てくれよ」
そう言ってポンパが指を指した方をギャラリーのテンションがだだ下がりしている。
「これ、どういう状況だよ?」
「それがさぁ、結構盛り上がってたけどなかなか俺が攻撃しないからみんなシラケちまったんだよ」
むしろみんなよくそれまで付き合ってくれてたと思った。
「でも、おかげで結構いけそうだ。俺は遅咲きなんだよ!」
「あぁ、確かにそうかもな」
「じゃあアレン、脱ごうよ!」
「ん?」
聞き間違いか?
「今こいつ何て言った?『行こうよ』……だよな?まさか『脱ごうよ』とは言ってないよな?聞き間違いかと思ったぜ、ハハハ」
「いや、『脱ごう』って言ったよ」
「何でだよ?」
「俺がアレンの洋服を無理矢理脱がせば周りからの嫌悪感は増すから強くなれるし……」
なるほど。こいつは誘拐ビジネスを始めるまでにこうやって嫌悪感を集める方法を身につけてきたのか。
「あぁ、わかったよ」
「よし!早くしないとカムイの攻撃がきちまうよ!脱ごう!手伝うよ!」
ポンパにいきなり服を掴まれた。なんだこいつ、俺のの服を破くつもりなのか?やたら腕力が強い。
「ちょ!ちょっ!止め!破ける!破けるって!脱ぐから!脱ぐから止めろ!」
「見ろ!ポンパ様がアレン様を無理矢理脱がせようとしているぞ!」
俺は洋服を破かれる事を死守し、自分でシャツを脱いだ。
「あー、まどろっこしいね!」
腕の部分を脱ごうとしている隙をついてポンパが俺のズボンを一気にずりさげる。
「ちょ!おまっ!!」
俺のアレンがこんにちはした。
「あ、ごめん」
急に冷静に謝るポンパ。ギャラリーも「さすがにそれは……」って感じの反応で皆が「うーーん」と唸っている。
「ポンパ様もポンパ様だが、アレン様もアレン様だな」
義賊兵達が口々に好き放題言っている。
ポンパ、俺はこの戦いが終わったらお前を個人的に自警団に連れて行きたくなったぜ。
「普段からあれだけ連呼してたけど、言うだけじゃ飽き足らなかったなんて、本当に気持ち悪いわ。カムイに斬られて死んで償いなさい」
背後からミリアの一言が聞こえた。
時すでに遅しとは思うが俺は慌てて股間を隠そうとした。
「行くのである!!『タツマキ斬り』!!」
カムイの怒声が室内に響き、自分の体を支えていた剣を下から上へ斬り上げた。
自分の支えを無くしたカムイは剣を振る事に全力を注いだ事で受け身ももらず思い切り地面に倒れた。
斬り上げた剣撃から直径5m程度で天井付近まであるタツマキが発生した。ただのタツマキじゃないようで
、斬撃で出来たタツマキだ。タツマキが通過する時にそこに落ちていた兵士のものだろう鎧がタツマキに巻き込まれた瞬間、上に巻き上がりながらタツマキの中で切り刻まれた。
鎧ですら、腰の辺りまで持ち上がる頃にはボロボロに切り刻まれていた事から、あのタツマキに俺達が触れちまったら一瞬で切り刻まれるだろう。
「ポンパ!土魔法だ!とにかく分厚くて堅い魔法防壁を作るぞ!」
俺は瞬時にタツマキの手前に魔法防壁を作った。作った先からすぐに防壁が破壊されていくが、こちらもすぐに防壁を作り出してタツマキの威力を削ぎ落とそうとする。
「了解!!土の魔法だね、フルチンで!!」
ポンパは魔法剣をタツマキに向け剣先から大量の岩石を飛ばしてタツマキに当て続けた。
ポンパの指摘で思い出した。俺、フルチンだ!
魔法を使い続けたなくてはいけないので、手で隠す事もできず、あわてて股を閉じでどうにか隠そうとする。
タツマキがどんどん迫ってくるが、少しずつ力が弱まってきた。
「おお!タツマキの威力が弱まっているぞ、フルチンだが!!」
「すごいぞアレン様、フルチンのわりに!」
「頑張れフルチン様、アレンだとしても!」
ギャラリーの声援が罵声にしか聞こえない。
とにかく1秒でも早くこの状況を打破したい。
「さっさと勝つか負けるかしてもらえるかしら?まぁ、負けたらその格好で死ぬ事になるわね」
ミリアが後ろから笑いを堪えるような震える声が聞こえた。
ダメだ、死ねない。
状況が打破出来るならもう死んでもいいと思っていたが、それは完全にダメだ。
土の防壁が地面からどんどんと湧いてきてタツマキの威力をかき消し、やがて岸壁の波がカムイに向けて襲いかかる。
カムイは倒れたままだった。目も耳も聞こえず、まともに身動きもとれないでいた。これから自分に何か起こるかもわからずにただ死を待つのみなのだ。
俺はすぐに魔法を解除した。
「ふぅ…ふぅ……なんとか終わったな」
俺は誰にも気づかれないように気配を殺して静かにズボンを履いた。
「やっとズボンを履いたぞ」
義賊軍のやつらのヒソヒソ声が聞こえた。
こいつらホントうざい。
俺は立ち上がりカムイのところに向かった。
「おい、カムイ。ポンパにあやま……」
と言いかけたところで言うのを止めた。
カムイには何も聞こえていないどころか、自分が勝ったのか負けたのかすらわかっていないのだ。
「カムイ、てめぇ~よぉ~!」
そう言ってポンパがカムイに襲いかかりたこ殴りにする。
「ちょ、ちょ、ちょーー!待て待て待て!もう俺達の勝ちだろ!それ以上したら死んじまうぞ」
「はぁはぁはぁ……こいつは俺の部下を全員殺したんだよ!腐った野郎なんだよ」
「とりあえず落ち着けよ。おい、リッチー、止めるの手伝ってくれ!」
リッチーは俺が戦っていた間、余裕ぶっこいてサンドイッチを食べていたらしい。ちょうど食べ終わるところだった。
「オッケー!もうちょっと待ってもらえるかな。手が汚れてるんだ」
マイペース過ぎてダメだ。
「早く!誰かカムイの治療を頼む!」
俺が叫ぶと王様の護衛兵の一人が近寄ってきて、カムイの治療を始めた。
もう一人護衛兵が近づいてきてポンパに話しかけた。
「カムイ殿があなたの部下を殺したとおっしゃられましたが、どういう事でしょうか?」
「俺は誘拐団のボスだったんだよ。こいつら兵士団に多額よみかじめ料を払って見逃してもらってたんだが、俺が捕まってみかじめ料が払えなくなると兵士団が俺の部下達を全員殺していったんだ……」
「それでカムイに賞金がかかって、俺が捕まえに来たってわけだ」
「そ、それは、にわかに信じがたいのですが……」
護衛兵は事実を受け入れきれずに歯切れの悪い返事をした。
「あとであっちの義勇軍のボスのジョンに聞いてみなよ。領主だぜ、あいつ」
「ヘイ、マイフレーンド!」
俺がジョンを指差すとジョンが手を振ってきた。
「かしこまりました。後日詳細をお聞かせいただきますので一旦お引き取りください」
「あぁ、そうさせてもらうぜ」
そう言って俺達と義勇軍は退出した。
後処理はジョンとジョンの側近の黒服二人に任せる事にした。




