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見習い魔法使いが最強に至るまで  作者: 鬼仁雪姫
第7章
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79話 教育と戦闘狂




「さて、約束通り教育してやろう。」


「何でこういう時だけ、こういう事()()()、覚えてるんすか。いつもは忘れっぽいのに。」


「あ? 何か言ったか?」


「何も言って無いっす。」



 夜も更け、辺りが静かになって来た時間にノトさんに連れられた場所はお城の地下。と言っても、牢獄がある所とは全く別で広々とした空間がそこにはあった。もっと簡潔かつ分かりやすく言うと如何にもという感じの地下の実験施設の様相を呈していた。そこで実際に実験はしていないだろうが、似た様なものだろう。


 私は彼らがいる施設の中とは別の、中を見る事が出来るガラス越しの小さな小部屋にいる。そこにはルピさんも一緒にいて相変わらず無表情で中をじっと見つめている。



「ルピさん。」


「………。」


「? ルピさん?」


「え、はい。何でしょうか? 何か申されましたか?」


「まだ、何も言って無いですけど。もしかして、ですけど………。何かを思い出したりしていましたか?」


「ええ、まあ。」



 私に呼ばれた事で視線を合わせたが質問の内容が余程に堪えたのか視線を下に落とす。そして、ブツブツと何かを呟き始めた。本当にレアな姿なので吃驚して見ていると魔力の流れを感じ二人に視線を戻す。



「何時振りだったかな。本気を出せそうなのは。」


「え、本気出すんすか?」


「当たり前だろう。それじゃなきゃ意味がないじゃないか。反省するにはしっかりけじめをつけないと。」


「反省してますよー。だから勘弁してください。本気なんて出した暁には……………。」


「確かにこれはレイト、お前の反省をさせる為だ。表向きはな。」


「…………表、向きっすか。」



 何を話しているかはしっかりと聞えてくる。内容を聞いてノトさんが何を言いたいのか何となく察しが付き、顔が引き攣る。正反対にノトさんは企むような楽し気な笑みを浮かべる。



「スカッとするのに付き合えよ。まあ、お前にとっては命がけだろうが。」


「完全に私情じゃないっすか!? それで命掛けられるとか悲惨過ぎるっす。」


「俺がどんな性格か分かっているだろう? 今更なんだ。どっちにしても文句は言わせねえけどな。」



 そう言って収納から剣を二本取り出して構える。対してレイトさんは素手だ。圧倒的な不利な状況に見えるそれに私は心配になりハラハラする。その態度に気が付いたのかルピさんがクスクスと笑いを溢しているのが聞こえ、其方に視線を向ける。



「大丈夫ですよ、ユリナ様。レイトは普段チャラチャラしていてとても頼りなく見えますが私と共にあの人の少し下の実力と言われていましたから。今はどういう構図になるかは分かりませんが普段の訓練をサボる事は無いですから心配いらないでしょう。」


「普段から訓練なんて、何時してるんですか? いつも忙しそうですけど。」


「ああ、私たちは眠る必要は無いですから。その辺は個人の考え方によって変わっては来るのですが、私とレイトは無頓着な方ですね。まあ、レイトはそっちの方が無頓着でも怠惰に過ごしていたいでは有るようですけれど。私としてはもう少ししっかりしてほしいところです。」



 溜息を吐きながら普段の苦労を語るルピさん。若干ノトさんと似てるとは言うまい。というより、レイトさんだけでなくルピさんも根本的に考えて見てみるとノトさんに影響されてそれぞれ似ている所がある。レイトさんは言わずもがな。ルピさんは変な所が真面目だったり、静かに笑う所とか。



「さて、最初は準備運動から。徐々にスピードを上げていく、ぞっ!」


「ふぅ。」



 剣と素手の拳が打ち合ったとは思えない音が鳴り響く。最初に動いたのはノトさん。一直線に斬りかかりに行った何のフェイントも含まない愚直な剣筋を読めない筈が無く、上段から振り落とされた剣をレイトさんは普段の表情から乖離している真剣な顔で受け止めている。素手で。


 「大丈夫。」とルピさんは確かに言ったものの心配にはなる。今の所、拮抗している様に見えるがやはり上段から振り落とされた攻撃の方が強力で段々とレイトさんが押されてきている。その状況を、笑みを深めて見ているのがノトさん。もう片方の剣で下段から斬り上げようと狙っているのが見える。涼しい顔をしてレイトさんは受け止めた。両腕とも受け止めているその状況を打開できないと分かったのか一旦下がるノトさん。



「まさか、ここまでしっかりと力を備えているとは思いもしなかった。」


「有難いお言葉ですね。サボらなくて良かったと思えるっすよ。」


「まあ、他の事でサボってちゃ意味ねえけどな。」


「えー、少しは情状酌量の余地ありだと思ってほしいっすけど。普段の行動から。」


「何言ってんだ?」



 笑みを浮かべていた表情から一転、蔑みの目を向けて心底嫌そうな感じを出している。



「それとこれは別だろうが。何一緒にしてくれてんだよ?」


「厳しいっす。」


「鬼畜ですね。ちょっと殺気出してますし。」


「本当に恐ろしいのはこれからですよ。」



 話している内容が聞こえて来ているので小さな声で悪態を吐くとルピさんは死んだ魚の目をして呟いた。因みにだが私達がいる場所の声だけは聞こえないと聞いた。大声を出しても聞こえない防音設定だという。そこは魔法でちょちょいと出来てしまうというのは便利だと思う。本当に。私もルピさんも確かに小さな声で呟いた筈で聞こえないと聞いていたから余計に気にせず喋ったというのもある。


 ぐるりとレイトさんに向けていた視線を此方に投げるノトさん。体をびくりと反応させるとニヤリと怪しい笑みを浮かべる。



「俺には丸聞こえだ。俺が設定したんだから俺には聞こえる様にしてるんだ、実はな。ハハッ、わざと言わなかったんだがそれが功を奏したようだな。」


「うわあ、楽しそう。」


「楽しいぞ。久し振りに力を十全に振るえそうで。」


「余所見は厳禁すっよ。」


「余所見しても問題ない。」



 私たちを見ていたノトさんの余所見をチャンスと思ったのか、レイトさんは距離を詰め殴りにかかる。それを見もせずに体を仰け反るだけで避ける。本当に楽しそうに笑い、レイトさんに向き直ると突きを繰り出す。バランスを崩していたレイトさんは器用にも体を捩り、掠り傷程度に収めた。


 段々と素早さを増していく攻防を見ているとレイトさんが押されていくのが分かる。あんなに嫌そうにしていたのにも関わらず楽し気な様子だ。



「地獄は此処からですよ。安心できません。」


「え? それはどういう……?」


「フフッ、フフフ。」


「?」


「ああ、スイッチが入ってしまいましたか。」「ああ、スイッチが入っちゃったっすか。」


「スイッチ?」



 ルピさん、レイトさん共に嫌な顔をした。レイトさんに至ってはさっきの笑顔が消えた。


 ノトさんの事は此方からは表情がしっかりと見えないので、どういった事を考えているかを知る事が出来ないが。


 出来ないのだが。


 多分、彼女らが言った“スイッチ”とは、あの事だろう。



 そう、本人も気付いていない『戦闘狂のスイッチ』の事。



「やっぱり、こっちの方が性に合ってて楽しいぜっ!!」


「何か前よりも深くスイッチ入れられている様に見えますけど!? 終わった後、憶えて無さそう......。」



 私は不安を抱え、


 ノトさんは楽しそうに、歪んだ笑みを、


 ルピさんは目を背け、


顔が引き攣っている当事者のレイトさんに私は心の中で、合掌するのだった。













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