71話 パーティー開催と交流1
「という流れだが。...........聞いていたか?」
「頭に入ってこなかったです.........。」
集中して聞く事なんて無理に決まっている。未だにバクバクと鳴り止まぬ心臓の音、頭が真っ白で右から左へと流れていく話。諦めたのか溜息を吐かれる。
「覚えてられないなら構わねえや。自由は無くなるが俺の傍から離れるなよ。全部処理してやるから。」
「はぃ。すみません..........。」
会場の賑わう声が聞こえてきたと思ったら急に静まり返る。何やら女の人が話している様だがはっきりとは聞き取れない。すると会場の明かりが消え私たちがいる控室辺りが照らされる。
「ほらっ。ぼけっとしてないで行くぞ。」
「え。」
「着替えさせられた時に教えてもらっただろう? その通りで良いからな。」
差し出された手を取り、会場の中へと歩いて行くと、どよっとしたざわめきが上がる。二階から下へと階段をゆっくりと降りていき、下に着いた時に明かりが点く。その瞬間深々とお辞儀をしてノトさんが喋りだす。
「ようこそ、お越しくださいました。我がこの街を統治しております。以後お見知りおきを。堅苦しいのは苦手なので楽に過ごしてくださいませ。」
そう言った後、私に視線を転じ、話を続ける。
「此方はこの街の新たな妃だ。こういった場は慣れていない為、あまり虐めてくれるなよ。報復が待っていると思ってくれても良い。」
ニヤッと怪しげな笑みを浮かべてさらっと恐ろしい事を言うノトさんに誰もが黙って聞いていた。
「それではご自由にお過ごしください。」
その後は、ルギシニラという街を良く知る為に多くの人がノトさんの元へと訪れ話していった。私は分からない事ばかりなので黙って横に控えていたものの余りの多さに立っているのも微笑み続けるのも疲れていた。
「ふむ。」
少し人が途切れた瞬間に何かに思い当たったのか呟くノトさんは何かをした。何かというのは何をしたのか分からなかったけれど魔力のうねりを感じたから。寄って来ようとしていた人たちが何かを思い出したのか、否、することを忘れたかのように別の者達を話し始める光景が見える。
「少し、こちらを認識しづらくするようにした。彼らには俺たちが少し席を外していると思っている事だろう。」
「何で......。」
「いや、疲れているから少し座ってゆっくりしようかと思ってたが、不要だったか?」
「........いえ。」
なるべく不満を出さずに我慢していたのがバレていた。ノトさん的には自分が休みたいというのも有ったのだろうけど。そんな事を考えながらも、会場内の長椅子に腰掛ける。暫くの沈黙の後、私は話しかける。
「ミリアちゃんも頑張るってああいう意味だったんですね。」
「ああ、あれか。街にこれで伝わっていくからな。一応他の街と此れから交流があると思えばミリアが率先してやるべきだろう。」
今も直、他の街の王たちと話している様子が見える。今回私が公式(?)に街の王妃として祭り上げられたのと同時に、ミリアちゃんも養女として紹介されただけでなく次期女王の王女殿下とも言われ、今後の関係を築いていく為にも今の王以上に長々と話している人達が多かった。
「そうして、魔王様は蔑ろにされたのだったー。」
「何ですか、いきなり。ノトさんにとっては願ったり叶ったりじゃ無いですか。」
「確かにな。よく分かってる。」
呆れた表情で言うと楽しそうに笑いながら言葉を返される。
「分かりますとも。面倒くさいの塊で出来ている人の事なんてお見通しです!」
「そうかい。」
心地よい沈黙が再び流れると会場に流れていた曲調が変わる。私はそれに耳を傾けているとノトさんは「ふう。」と息を吐いて立ち上がる。
「ホントに聞いてなかったんだな。」
「? 何のことですか?」
「こういうのは俺が率先してやらないといけないのだと。」
右手を引かれて会場の中心に向かって行く。よく見えると他の人達は戸惑いを見せている。何を戸惑っているのか分からない事や、何故中心の方へ歩いて行くのが分からぬまま私は引かれるまま歩いていた。辿り着くと向かい合う様にして立ち、腰に手を回され驚き、ノトさんの顔を見ると目で促されているので私も真似する。
「......もしかしてですけど。」
「.....そのもしかしてだ。」
「......私経験無いですけど。」
「....................何とかなるだろ。」
「......大分間が空きましたけど。」
小声で話し終えると一歩目を踏み出し、リズムよく踊り始める。ダンスの経験なんて全くない。からよく見る足を踏んでしまうとか、転んでしまうとか絶対にやってしまうと思っていた。
けれど、そんな事が起きる事は無く。穏やかに進んでいくのを見ていた周囲はトップ達が率先して踊り始める。
「何かしました?」
その質問に言葉として答えは返ってこず、代わりにウインクをされ肯定したようだった。何をしたら出来ない事が出来てしまうのだろうか。最初は緊張が勝っていたが、今は大分解れていった。そうすると冷静に物事を見る事が出来、上手く魔力を流して操作されていた。私がそれに気づいたのが分かってパクパクとしていたのだろう。軽く吹き出して微笑んでいるノトさんの姿が有った。
「便利だな、魔法って。」
「........ノトさんから没収したいですよ。」
むくれながらも動かし続けられる足にもどかしさを覚えるその様子に更にノトさんは機嫌を良くしていったのだった。
「久しいかのう、ノト殿。」
「名前は禁止だぞ、エルシリラ王。」
「そうだったの。改めてご挨拶をさせて頂こう。儂はエルシリラを統治する者で、ユグレシィバウカ=エルシリラと言う。其方は名乗ってくれるのか?」
「ご挨拶痛み入ります。我はユキノトリア=ルギシニラ・ミルだ。これからも長く付き合う事になるだろう。よろしく頼む。」
「こちらこそよろしく頼みたい所だのう。」
ダンスを終えてお開きになるのか閑散としてきた会場でノトさんはエルシリラの王様に話し掛けられていた。私の事も知っている筈だが此方を見て頭を下げられる。
「王妃様にもご挨拶申し上げます。この度はおめでとうございます。魔王様にもご挨拶の通り儂はエルシリラを統治している者。」
「.........。」
頭を下げられた状態だったので救いを求める目でノトさんを見ると笑いを堪え私と目が合うとニヤニヤと企むような目線を返される。何を求められたか分かったので心の中で溜息を吐きながら言葉を返す。
「エルシリラの王よ、ご挨拶感謝いたします。」
「おお、他の者が挨拶しても会釈を返されるだけの可憐な乙女と噂されておったが。」
「王妃よ、エルシリラの王に名前を名乗ると良い。」
「......お久し振りで御座います。私は桜城百合奈と申します。」
「.........?」
エルシリラの王様は顔を上げて私を困った様な表情を浮かべてじっと見てくる。
「ククク、ユシィ王のそんな顔を見る為に一芝居うった甲斐があったか? というかユシィ王よ、俺が弟子と一緒にいて他の女を王妃として迎え入れると思っていたのか。それこそ弟子にも王妃にも怒られる事だろう。」
「ノト殿.........。」
「すみません、ノトさんが初対面みたいに挨拶しろと目で訴えてきたモノで。私は騙そうとしていなかったんですけど。強要されてしまったので。」
「分かっておるよ。其方は、其方らはそう言うのが苦手と言うのも騙すような真似をするのが不得手と言うのも。儂ら上位者は駆け引きをせねばならぬから慣れていたのだがのう。見事に騙されてしまったの。」
「はいはい、また俺に対する悪口かい。目の前で言うもんじゃねえぞ。」
「にしても、見事に変わるのう。」
「やらんぞ。最初にも言ったが。」
左手で私を抱き寄せ、そんな事をおくびもせず言うノトさん。
「ハハッ、勝てない勝負を挑むほど馬鹿者では無いのでな。現最強の冒険者の称号を持つ主を倒してまで得ようとせんよ。」
「価値が無いって言いたいのかっ。」
「うわっ、めんどくさい。ノトさん、それ以上絡むの止めて下さい、恥ずかしいので。」
「あっはい。」
「今から尻に敷かれては今後は生きにくくなるであろうな。」
「あなた、それわたくしに対して言って無いですわよね?」
エルシリラの王の後ろにぬっと影が現れたと思いきやニコニコと笑っている筈なのに怒気を纏っている女性が立っていた。
「ぬっ。カエラ、何時からそこに居ったのじゃ。」
「さあ、何時からでしょう。ノト様、申し訳ありませんがこのお馬鹿さんを連れて行きますわよ。」
「ええ、構いませんよ。カエラさん。」
「さあ、ノト様がああ言っているのですから、行きますわよ。」
カエラと呼ばれた女性はエルシリラの王様をひぱってどこかへ連れていかれていく。私は突然の展開に驚いて固まっているとノトさんは説明してくれる。
「ユリナは見るのは初めてだったか? あの人はユシィ王の奥さんだ。名乗るのを忘れるなんて珍しいがユシィ王が絞られ切った所で思い出して戻ってくると思うけど。確か名前はカエルリラヴァレン=エルシリラだったか。」
「エルシリラの王様、大丈夫ですかね?」
「まあ、生きていられるとは思う。」
その後どよーんと暗い表情をしていたエルシリラの王様と先程の怒気は無い優しそうなカエラさんに(さん付けて構わないと言われた。)挨拶をされた。カエラさんは体が其処まで丈夫では無かったみたいだがノトさんによって回復して今ではこうして自由に動き回る事が出来ていると私に教えてくれた。そう言う経緯でエルシリラに束縛されてしまったのだけれど年に一回は経過を見に行かなきゃいけないという理由からエルシリラに家を置いているとも説明された。多分、ノトさんの魔法によって回復したんだろうから本来であれば経過なんて必要ないと思う。その考えは結局当たっていたのだけれど。
「それにしてもカエラさんまで来るとは思いませんでしたよ。」
「あら、私の求愛をあしらっていた方がどんな女性と一緒になるのか気になるのが当然のことでしょう? ちょっと歳の差がある様に思いますけどね。」
ウフフと笑いながらノトさんに話し掛けるカエラさんは隣で死んだ顔をしているエルシリラの王様を置いて私の事もじっと見てくる。
「それにしても随分普段と違うのね。どれが素なのかしら?」
「カエラさんに会った時の姿が普段と認識してもらって相違ないです。色々と隠すにはこの方法が一番なので。」
「あら、そうなの。ところで滞在している間に愛しのお姫様をお借りしてもよろしいかしら?」
「ええ、本人が嫌でなければ構いませんよ。俺はやる事を縛るつもりは無いですし。」
「という事で、ユリナさん。」
「は、はい。何でしょうか。」
「女子会しましょうね!」
「え、ええ。私で良ければ。」
「...........女子と言う歳でも無かろうに....。」
---ボスッ。
「あらあら、何か聞こえてきたのだけれど気のせいだったかしらね。ではノト様、ユリナさん、ごきげんよう。.......ほら、そんなとこで寝てないで行くわよ。」
カエラさんの動きに私だけでなくノトさんでさえ反応できなかった。固まっていた私たちにウフフと微笑みながら去っていくと同時に溜息を吐く。
「何となく緊張してしまう人でした。」
「俺もだよ。あの人には見透かされている様で恐ろしいよ。ユシィ王は.......今度こそ死ぬかもしれないな。」
「え!?」
「まあ、自業自得だろ。女性に歳の事を言うなんて。」
聞けばカエラさんはユシィ王(同じ立場なのだから愛称で構わないとノトさんからだけでなく直接王様本人から言われたためそう呼ぶようにした。)より年上らしい。しかも私とノトさん位の年齢差が有るとかないとか。詳しく聞こうにも何処からかあらあら、ウフフと現れて口を噤ませるとか何とか。
「.............。」
「どうした、ユリナ?」
「いや、あんな王様の姿、召喚された当初、それにずっと城に居て従うだけの人生を歩んでいたら見れなかった姿だっただろうなってふと思って。」
「あー。普段からユシィ王はあんなんだから俺はあんまりしっかりしている時の姿はよく分からないとか覚えてないんだよなあ。」
「それじゃあ、パーティーもお開きみたいですし。寝る時間までまだ余裕ありますし話しましょうか?」
「まあ、ユリナが思い出すのが苦にならないなら。」
「大丈夫ですよ。過去があっての今ですし、あの過去が無ければ今のこの瞬間は一生訪れなかったので。今では大事な思い出の一つと割り切ってますよ。」
「そうか。では明日に疲れが残らない程度に話を聞くとしよう。」
1と付けてるので続きますが話をちょいと遡ります。過去話終わったらパーティーの続き書きます。この章は兎に角人がいっぱい出てきます(小並感)
して今年最後の投稿です。次は年明けに!
良いお年を!!




