72話 召喚当時と語られる過去1
明けましておめでとうございますっ!
思えば私はその辺の経緯を割とすっ飛ばしていた気がする。こっちに来てからの出来事はざっくりしかノトさんに話していなかった。召喚された目的とか勉強させられた内容とか。
「ノトさんにも話した所も有りますけど順を追って話をしますけど良いですか?」
「まあ、飛ばされても困るから一から話してもらえると助かる。」
「覚えてないって言ってるようなもんですけど。でも整理するには最初からが話しやすいですかね。」
「ユリナの好きにしてくれ。ちゃんと聞くから。............眠くなるまでは。」
「ノトさんが眠くならないのを願うばかりです。」
それぞれ着替えを済ませ、ラフな格好をして寝室にいる訳で。窓際の月明かりが差し込む一人掛けのソファに対面して座っている。
「それでは。」
コホンと咳払いをして話し出す。
* * *
「........。」
黙ったまま本を読み続ける。独り言をしながら本を読む人もいないだろうけれど。溜息を吐きながらぼそっと「退屈だな。」と独白のように出た言葉も賑やかな昼休みの教室に掻き消されてしまう。別にその事に対して何かを抱く事も無くページを捲っていく。毎日同じ生活、繰り返す日常。変わり映えしない風景。本から少し眼を離し、周囲を窺うとクラスメイト達が楽しそうに笑いあっている様子が見受けられる。私とは違う感情を抱くそれらにやるせなさを覚え本を閉じ、外に視線を向ける。
窓際に座る私はふとガラスに反射して映り込む自分の姿に気付きじっと見てしまう。もう少しで肩に付きそうな黒髪を後ろで一本にまとめ、眼鏡を掛けた、美人とも可愛いとも程遠い、平凡な自分。高校生になり変わるかと思った自分の人生も一切変わることなく、運動は苦手、勉強はそこそこ出来る自分。とは言え、勉強でさえも、得意なものはとことん得意だけど苦手なものはとことん苦手ではある。別にその事を自慢している訳でも無いし誰かに話す訳でも無い。一人で過ごす時間に関して特に苦でも無かった。それは趣味として、読書やゲームだったりと色々と好きな事を出来ていたから。その中でも特に異世界系は好んで手に取っていた。兎に角、非科学的現象が起きるそれらの世界は私の妄想癖を加速させるには十分の素材だった。少々、妄想が膨らみ過ぎて一人でニヤニヤしている所を家族に見られ、恥ずかしい思いに駆られた事も有ったけれど。
自分の中では充実していたが周囲との人間関係はあまり良くなった。あまり馴染めずに一人でいる事が多いこの状況がまさにそれを代弁していると言えるだろう。
けれど、そんな毎日は突如として終わりを迎えた。
そろそろ昼休みが終わり授業の鐘が鳴る。そう思い、次の授業に使う教科書を取り出したりしようと動き出した瞬間教室が光に包まれる。パニックになりつつある中、私は、足元の巨大な魔方陣を見て目を輝かせていた。更に光の量が増したと思い、次に目を開けると教室ではない場所にいた。それは私だけでなくあの時教室にいた全ての人がいるようだった。状況が分からず声を荒げている人達がいる中、一人の声がこの空間に響き渡る。
「皆さま、静粛に。驚かせてしまい申し訳ございません。ああ、申し遅れました。初めまして、勇者様方。私はルーセンユラにある魔術と剣に優れていると言われるエルシリラの魔術師教会の長、ファーリア・エルシルと申します。私とここにいる者共で勇者様方をお呼びいたしました。無事に成功して安堵しております。」
そして、話を続けている彼女の言葉は私は途中から全てを聞き逃していた。後から、千春ちゃんに事の詳細を教えてもらった。
「お呼びしたのは他でもありません。近く復活する.....魔王に備えて皆様のお力をお借りしたいのです。魔王は私達が住む大陸の脅威であり、打倒すべき忌むべき敵でもあります。情けない話ですが私たちの今の力をもってしても魔王を倒しきる事が出来ないと判断したため私たちよりも高位の存在である者達の力を借りる事が他の街との取り決めで決まり、行われた次第で御座います。皆様の平穏と日常を壊してしまった事に関しては深く謝罪するほかありません。しかし、私たちはこうでもしない限り滅亡しか待っておりません。皆様の平穏を奪ってしまった事に関しては私たちが出来るだけ苦労せず生活できる様精一杯サポートさせて頂きます。どうか、どうか、お力をお貸しください。」
そう言って、私が知らぬ間に頭を下げて懇願していたようだった。それを生徒会の副会長を務めていた天野輝君がリーダーシップを発揮し、皆を鼓舞し、一体感が生まれての嬉々としての歓声を上げていたらしかった。
私は周囲の状況を理解する為、話をそっちのけでキョロキョロと探っていた。色々と現実を振り返り思い出しているとそんな嬉々とした歓声で回想を終え、我に返る。聞き耳を立てた事で彼女が語った内容をざっくりと知る事が出来た。盛り上がっている話ではゲームみたいだとか何とか言ってるが私は自分の頬を抓って夢では無い事を認識する。いや、夢が深すぎて抓っただけでは起きないだけかもしれないという可能性も考えなかった訳でも無いのだが教室で眠るなどそもそもしてない筈なので非現実的なことが起きている事は事実であることを受け止めた。とはいえ、私は周囲以上に、この状況にワクワクしていたので他人の事を言えないのだけれど。
「皆様方は私たちよりも高位の存在と言ったのは冗談では御座いません。こちらの世界に住まう者達よりも高い力を持ってこちらに来ている筈です。私が見た限りでも強い力を感じ驚愕しています。私にその実力をお見せ下さい。」
笑顔でそう言った彼女の後ろから更に女性が何人か現れ、大きな水晶を運んでくる。この水晶に手を翳すだけで自分の力、所謂ステータスと言うモノを表示させる仕組みになっているらしい。テンションの高い男子達が我先にと自分のステータスを出して喜んでいる様子が見受けられる。
剣士、拳闘士、魔術師、治癒士、魔剣士、などなど.............そして、勇者。
それを見ながら戸惑いを見せていた女子達も自分のステータスを曝け出し魔術師長にコメントを貰っては喜んでいる様子が見える。私は後ろの方に居たので必然的に最後の方にならざる負えないのだが何となく直感的にではあるのだが危険を察知していた。この行為に意味はないと思う。ただ、自分の個人情報を、手の内を晒す行動。そんな事をして良いのか、彼女らは信頼に当たる人物なのか、どうにかこの場を回避する手段はないのか。悩んで周りの状況を蔑ろにしていた私は近付いてくる女子達の存在に気付くのが遅れた。
「ねえ、アンタはまだよね?」
「あたしたちさ、魔術師? だっけ。結構高いって言われたけどサ。」
強引に引っ張られ、振りほどく事も叶わず水晶に手が軽く触れた。ステータスを見て私は呼吸も、心臓も一瞬止まってしまう。大きく目を見開き、他の人のステータスと比べて段違いに低い事を冗談だと捉えたくてじっと見つめたまま固まってしまった。そして魔術師長でさえこのステータスを見て静かに目を伏せっていたのを私は気付く事が無かった。
「あたしたちと同じ魔術師........か。でも、」
「雑魚ね! 才能無しってことじゃね?」
「ちょっと、幾ら雑魚だからって笑うのは.......プッ、失礼じゃん。」
「アンタだって笑ってるじゃんか。」
私のステータスを公開させた挙句、そのステータスの弱さから私を嘲り、罵り、興味を失くした様に自分たちの話を始めてしまった。
異世界に来たという事実がどれほど自分にとって嬉しかった事か。今までの環境が変わると思っていたし、信じて疑う事が無かった。勇者という主人公のポジションにはなれなくてもそれなりに恵まれたものを与えられると思っていた。なにより変化というものを望んでいた。結局私は何処の世界でも変わらない人生を歩まなければならないと痛感した。最初のワクワク感は最早消失していた。
喪失感を抱きつつ、私が最後だったのかステータスを確認し終えた後は流されるまま、一人ずつにあてがわれた部屋にいた。ゆっくり休む様言っていた気がするが私はその日クラスメイトだけでなく此方の世界の人間がどのように思って見ていたのか、そこまで頭が回らず記憶が曖昧だった。そして、この日からろくに眠れぬ日が続いた。
召喚されてから1日目の朝。晴れ渡った空に私はぼーっとしたまま魔術師長の侍女と思わしき人物に案内されるがまま付いて行くと食堂と思わしきそこには既にクラスメイト達がほとんど集まっていた。私が入ってきた瞬間、周囲は此方を様々な目で見て来た。興味がない目、侮蔑の目、憐れむ目、様々に向けられた視線に私はぐっとこらえる。弱者の言葉などこの世界では意味をなさない事も察していた。ステータスと言う概念がある以上は避けて通れぬことだと何となく分かっていた。出された食事は豪華では有ったが私はあまり喉に入らず、ほとんど手を付ける事が無かった。
この日はこの世界の情勢と魔王について。
ルーセンユラという大陸には4つの街と外れに1つの魔の街が存在する事。
此処、魔術と剣に優れていると言われるエルシリラ。
様々な機械が作られ、他の街と比べると様相が全く異なるバルディア。
北にある一年中通して厳しい雪が降りしきるスノーザド。
魔法に変わり、魔術が発展した魔術大国ウィッチェ。
人間以外の亜人たちが住む魔国、迫害されし、街のルギシニラ。
「質問です。」
「はい、何でしょうか。」
「魔法って言いましたが、今は無いのですか? そう言えば職業も魔法使いと言えばいいのでしょうか。居ませんでした。」
「はい。それには数百年前の歴史が関わってきますので後日詳しく語りますが、今の魔法を使う事が出来ると言われるのは魔剣士の職を持つもののみ。今は魔法という存在は忌み嫌われていますから。」
「...........。」
楠木さんが質問すると淡々とした言葉が返ってくる。私としてはラノベとかの知識とかに依存するけど魔術よりも魔法の方が万能に見えるし、魔法の方が格好いいと思ってしまうのだがどうやらこの世界には”魔法使い”は存在しないらしい。
「獣人の魔王の存在で獣人は蔑むべきという話が持ち上がり、亜人と名を変え周囲より迫害され、魔法使いもまた、魔王という存在になってしまった上に、魔王と言う存在を生み出そうと画策したが故に英雄たちが魔法に変わる魔術と言うものを生み出し、魔法と言う悪質な力を封じたのです。」
「英雄たちは3人で後にウィッチェとバルディアを作り上げ、当時の魔王が生まれた時代はエルシリラ辺りの国が聖剣を持っていたとのことで国名をそのままに周辺の村をも巻き込み街と言う存在を作り出した。スノーザドはもとより北国の関与しにくい場所だったが故に変わる事が無かった。大分後になり、寄せ集めの街ルギシニラが出来た。」
「現最強の冒険者たちはかの魔術を生み出した英雄たち。冒険者というシステムを作ったのも彼ら。長命種の彼らは今は名すら知れ渡っていないが私たちの誇りとなっている。」
1週間。座学と訓練の繰り返し。周囲は才能を開花させメキメキと強くなっていく。私は召喚された時から変わらない。そう全く変わりない。冷ややかな目を向けられる。虐めを受け、見て見ぬ振りされる。誰も弱者に救いの手は伸ばさない。悪化していく環境。
「ねえ、あの人初めて見る顔だね。」
「そうだね、えっ、もしかしてこっちに来てる?」
「そうかな? 途中で曲がりそうな気もするけど。」
「イケメンっぽいし顔をじっくり見ようよ。」
「そうね!」
そんな女子達の盛り上がる話も聞こえずに暗い瞳には何も映さなかった。彼女たちが騒いでいた男性は途中で曲がっていった。曲がった先には確か魔術師長の部屋があった様な気がするけれど私には関係の無い事だ。今は移動中でこの後は自由時間と言われている。その自由時間も別に城から出れるわけでは無いが、一回着替えに戻る為、部屋へと戻っている。なにせ訓練後なので汗を掻いているから。が、先程の男性がまた戻って来る事を期待して途中で立ち止まり話しながら待っている彼女らに私は付き合う必要も無いので先に部屋へと戻ろうとする。彼女らは私には疾うに興味を失くしているのでそそくさと歩いて行っても何も咎められずに離れる事が出来た。
「あー..........此処何処だろ。迷った。」
方向音痴なのは認めざる負えない。何度も通っている筈の道なのに何故か全然別の場所へと出ていて、全く知らない場所に辿り着いていた。周囲に人影も見当たらずどうしようか思案しているとコツコツと足音が聞こえてくる。
「人来た! けどここが立ち入っちゃダメな場所ならやばいかも。」
ただでさえ自分の立場は良くないにこれ以上何かをしたとなったら更に立場が狭くなり顔を向ける事が難しくなると思う。
「ん? 誰だ、ここは立ち入り禁止の筈だが?」
「す、すみません。迷ってしまって。どうやって戻るかもわからず。」
顔を合わせられず俯いていると声を掛けた男性は私の言葉に暫し返答をせず黙っていたが溜息を一つ吐くと踵を返しながら声を掛けてくれる。
「先ず、お前の戻る場所が分からない事にはどうにもならないからな。ついてこい。」
「...........。」
歩き始めた男性に付いて行く。それしか自分には選択肢が残されていなかったともいうが、男性は自分が来た道を引き返し、部屋の中へ入っていく。
「..........此処での出来事はお互い記憶から消されるようにしよう。お前にとっても俺にとっても必要な事だからな。」
「? どういう事ですか?」
「その内、分かるだろう。」
「え?」
「楽しみにしているぞ、お前の将来を。」
フッと鼻で笑った男性の声を最後に次の瞬間私は自分の部屋のベッドの上に居た。その時の記憶は確かに迷わず自分の部屋に辿り着いたものだった。今、正しい記憶が思い出されたのは、
* * *
「繋がりが深まったから。ノトさんが助けてくれたんですね。」
「.......そうだろうな。そもそもその日城に行ったという事実さえ俺は記憶から抹消させていたからな。そしてそれは俺と俺に関与した人物も一緒くたに消される仕組みになっていた。」
「フフフ。」
「なんだ。」
「いえ、あの時玄関先で会う前から助けられてたんだなって。」
「あれは助けたに入るのか。」
「はい、入ります。」
「方向音痴を助けたに入るならエルシリラで一回、ルギシニラで一回だな。ま、今となっちゃどうでもいいや、続き。」
彼とは前から会っていた事を喜ぶべきなのかどうなのかは分からない。でも、将来を楽しみにしているというのはその時から私の本質を見抜いていたのだろう。私は彼の期待に沿って強くなることが出来たのだろうか。そんな悩みも彼の表情を見ているとそんなに気にする事でもないと思ってしまう。
そんな彼との運命の出会いまで残り1週間。
今年もまったりと投稿しますので読んでくださると元気でます笑
取り敢えず3日間はお休みの方が圧倒的に多いと思うので連投しますので何卒。
よろしくお願いします♪




