70話 勝手な言い分と準備へ
「「「「助けてっ!!!」」」」
そう言われユリナは固まっている。無表情でその言葉を聞く彼女を俺は黙って見ていた。出来るだけ口を挟まない様にと考えていたが俺よりも、そして何も言えなくなっているユリナよりも先に口を出した人がいた。
「面白い人達ですね。過去にそう言われて変わらなかった人たちが逆の立場になったら平然とその言葉を使うのですから。」
普段の甘えるような様子のミリアは他と関わる時は人格というか性格が大きく変わる。悪評を受けない様にという子供なりの考えなのか、ルピから教わったのかは分からないが過去の経験と被って見えたのか冷たい声音で呟いたその言葉は響き渡っていた。
が、その言葉は4人には聞こえていた筈なのに他を構ってられないのかユリナから視線を逸らす事が無かった。未だ寄りかかっているユリナを後ろから支えている状態のままいると自分たちが助かる為の口実を次々に出して信用を得ようとしている。その目には焦り、恐怖、何より懇願しているのが透いて見える。下らないとは思いつつもこれ以上は口出ししまいとしているミリアの様子から俺も状況を黙って見ている事にした。
「桜城っ。同郷でしょう?」
「助けて当然よねっ。」
「そうよっ。それに桜城は知っているか分からないけど、その男は魔王なのよっ。」
「私達がこっちに呼び出された理由がそいつなんだから危ないのよっ!」
「.............。」
言われるそれらの言葉に何一つ反応を返す事は無いものの、あまりの必死の様相に過去を思い出しているのか少し震えているユリナ。
「もう、アンタに構わないからっ。」
「そうそう、和解してあげるっ。」
「あたしも今までの事ちゃんと謝るからっ。」
「ね、お願いだから。」
更に言葉を投げ掛けられ、今も続いているそれら対し、ユリナは顔を上に向けてくる。俺の事をじっと見てくるので俺も下を向きじっと見返す。その行動に4人が苛々しているのが分かる。懇願の言葉の数々から暴言罵倒に変わりつつあるのがその証拠だろう。
「黙って。」
ユリナが放ったその一言で周囲が静まり返る。
「ノトさん、出してあげて下さい。」
「.......ユリナがそれを望むなら。」
鎖が、牢屋が解き放たれ、意外にも精神を保っていた4人は出た瞬間、ユリナに感謝の言葉を次々と言おうと近づく。流石にずっと俺が後ろで支えているのは自分が弱く見えてしまうからと言って距離を取ってしまったユリナは、出てきた彼女らに対し、どのような表情を浮かべているか此方から見る事が出来ない。ミリアと少し後方で待機していると、へらへらと嬉しそうに感謝を述べ始めた4人の表情が企むようなニヤッと笑みを浮かべユリナを引っ張って俺から遠ざけた。
「ハハッ、余裕じゃん。」
「おい、魔王。こいつを殺されたくなきゃ死ねよ。」
なんてことを自分たちが有利と思ったのか傲慢な態度で言ってくる4人に俺は馬鹿らしくなり溜息を吐く。
「俺死んだらユリナが安全な保障何処にもねえじゃん。言ってる意味分かってる? 馬鹿女4人組。」
「分かっていたら言わないですよ、魔王様。分からないからこそ言ったんです。そこが、馬鹿たる所以なんですよ、きっと。」
「そっかー。ミリアは賢いな。」
そんな会話をしてミリアの頭を撫でていたら態度が気に食わなかったのか魔術を発動させようとしていた。俺はそれを静観していた。
「やれるならやってみたら良いんじゃないか?」
「はっ、てめえに言われなくてもやってやるよ。」
「.......ご愁傷様。」
「は??」
俺は彼女が次に動く行動を察して、言葉を4人に投げ掛けると、今まで黙っていたユリナが4人の顔面向けて水の球を浴びせ目を眩ませ、その隙に此方に走って来る。
「本当に助けてくれるつもりなかったんですね。」
「あの程度に後れを取ってたら修行は一からやり直しだぞ。」
「それは御免被りたいです。」
俺の前に立っていながらも4人には見えない様にユリナは自身の左指を俺の左指に絡ませるようにして握りしめる。震えているのかと思いきや俺の魔力さえも利用し、〔緑〕魔法を使い風で牢屋の中に押し戻した。どうやって他人の魔力を使う事が出来たのかについては後に語るとして、俺は指を鳴らして再び鎖で繋がせる。
「貴方達が知っている事が当然私も知っていると思うのが当然だと思わないの? 別に知っていようがいまいがもう関係無いけど。..........人殺しってさ、私たちが住んでいた国では非合法でしょ?」
急に話を変えたユリナに4人は何かを悟ったように怯えた表情と体を明らかに震え始めていた。
「この世界では簡単に命のやり取りがされる。合法って事かな。.......何度も虐められて助けてって言っても誰も助けてくれなくて見向きしてくれなくて。死にたいと思ってたし、殺したいとも思ってた。」
そう言った瞬間殺気が4人に向けられるのでその重圧で死の恐怖を間近に感じ取ったのかガタガタと震え、喋ろうとしている口も喋る事さえ許されない状況が作り出される。俺は繋がれている手を引っ張り後ろから抱きしめる。
「少し抑えろ。ホントに死んじまうぞ。」
「何でもお見通しって訳ですね。」
「当たり前だ。分かって当然だろう。一緒に過ごしてきてんだからな。」
「私の人生の中ではノトさんとの関わり合いなんてほんの一部ですけど。」
「俺の中では大分占めてるけど。」
「うっ。..........私もそうですけど.......。」
「あ? 大きな声で。」
「......って楽しんですね、またっ!」
大分話が逸れて場の空気を思い出し、咳払いをする。同時に。
「合法でも殺しはしないよ。甘いって言われてるけど此れだけは曲げる気は無いから。それに殺させもしない。」
「そんなに見るなって。元より殺さず生かしておいたのはユリナの意見を聞くためだったんだからさ。ちゃんと生きていただろ? まあ、この後は知らんけど。」
「死ぬのは目覚めが悪いんで死ななきゃ何でもいいです。.........もう、」
ニコッと笑顔を向けて俺とミリアを引っ張って彼女らに背中を向け、歩き始める。
「興味無いですし。」
「この後、パーティー参加ってハードスケジュールすぎません?」
「一回開催したら数日付きまわされるだろうから、今日くらいしかタイミング無かったんだよ。一応早めに行こうとは思ってたけど珍しく寝てるしさ。」
「パパが言ってるくらいだからママはちゃんとしてるんだね!」
「うっ。その事に関しては私が悪いですけど.......。」
「ま、別に構えなくていいさ。気楽な感じで構わねえよ。」
「そういう訳にも行かない場面がありますので、ユリナ様、魔王様の言い分を納得なさらないで下さいね。」
「そうっすね。流石にふらふらされると困る場面はあるっすからそこだけしっかりしてもらえれば問題ないって事を理解しておいてほしいっす。」
「えぇー。」
「ママ、頑張って! ミリアも今回頑張らなきゃいけないって言われてるからママと一緒に頑張る!」
執務室に戻ってぐだっとしていた私が言うとそれを皮切りに会話がなされていく。
「というか、ユリナ。俺の魔力使いやがったな。」
「........何のことでしょう。」
「その間は何だ。」
「だってノトさんの魔力だったら威力を高められるかと思って。」
「あいつらあれで同じことされたの二度目だぞ。てか、どうやってその能力知った?」
「自分の見えているステータスが少し表示増えてたので、調べたら見つけました。ノトさんは知っていたみたいですね。」
「昔大量にいたから聞いていた。あれ位だったらユリナの魔力量でも十分だっただろうに。」
「ちょっと試してみたくなったので。」
「そうですか。」
私が『血の盟約』での効果を確認して相互間での魔力譲渡が可能になると表記されていたのを試そうと思って今回使ってみたが譲渡は相手の意思関係なく行える様だった。それも実験項目の一つだったけど、ここまで上手く嵌ると思っていなかったから実は吃驚していたのだがあの場でその表情を出す事が出来なかったので今は実験成功に笑顔になってしまう。
諦めたのか、呆れた表情を浮かべていたノトさんだったが次に何かを思いついたのかニヤリと笑みを浮かべて立ち上がる。
「ミリアも行くぞ。」
「はーい!」
「ちょ、何処に!?」
「ルピー、俺の方もよろしく頼む。後で戻るから。レイトは別の方を。」
「承知しました。」「承知っす。」
引っ張られたまま、連れて行ったノトさんはある部屋の一室に立ち止まりノックする。すると中から扉が開かれ深々とお辞儀をされる。
「全て任せる。頼んだぞ。」
「承知いたしました。お任せください。」
「ああ。.....失礼する。」
事情が分からぬまま、ノトさんは私とミリアちゃんを沢山のエルフの女性たちがいる部屋に置いて行ってしまった。ミリアちゃんは気にせずされるがままでいる。当の私も引っ張られ、服を剥かれ始める。
「な、なにを!!?」
「魔王様に頼まれたんだもの、任せて頂戴!!」
「え? え?」
「気合入れるわーー!!!」
と言うと部屋の女性たちは掛け声を上げ、てきぱきと動き始めて、あれやこれやの内に私は流されていったのだった。
「魔王様もお人が悪い。」
「仕返しっすよね。」
「まあ、否定はしないな。実際、悪の魔王様だしな。」
ルピとレイトは俺が何をしに部屋を出て行ったのか分かっているので平気で俺に対しちくちく言ってくる。俺はそれを飄々とした態度で受け流す。大広間で準備をしながら話しているが、他にも臣下たちが準備に奔走し、動き回っている。普通ならばトップにいる王は手伝いなどする必要性は無いのだが王として慕っているものの昔からの馴染みで割とフランクな態度で接してくる。その影響か、王が近くに居ても何も言われることが無い。それに俺は一々咎めないせいか今の状態が長年続いている訳なのだが。
「そろそろ到着される時刻に迫っていますから魔王様も準備を。こちらは後の者にお任せしましょう。」
「そうだな。...............はあ、面倒だなあ。」
「レイト、この場は頼みましたよ。」
ルピと一旦執務室に戻り着替えを渡される。着替えと言っても羽織るものを変える位で後は自分の魔法で姿を変えられるから時間はかからない。今は全体のバランスを見ると言って変えているがそれが終わったら一旦、髪も眼も戻す予定だ。
「こんなんで大丈夫か?」
「問題無いかと。後は魔王様の態度次第ですね。」
「それが一番の問題点だよ。嫌になっちまうな。」
準備を終えた俺は魔法を解除してから、執務室の椅子に深く座り込み、溜息を吐いているとルピは会場の準備の方へ向かっていったため、部屋は静寂に包まれる。その静寂さを目を瞑って過ごしているとノックされる。
「..........すみません、入っても大丈夫ですか?」
俺はその言葉を聞いて最初の出会いの時の声の掛け方と似ていた為クツクツと笑う。そして思い出したついでにそのままその時の再現をしようと試みる。ただし、今回に関してはドアを開けずに。
「どちら様で、俺に一体どんな御用でしょう?」
「えっと、あの?」
「すみませんが御用が無いのでしたらそこにいないで下さい。気が散るので。」
困っている様な声音で返されるその言葉はあの時のまま。俺は楽しくなって更に笑っていると堪忍袋の緒が切れたのか、バタンと大きな音を立てて扉を開けてきた。クツクツと笑っていた俺だったが暴力的に開けられた扉の方に目を向ける。そして、眼に飛び込んできた光景に思わずピシッと固まる。
「何で、開けてくれないんですかっ!? ..........ん? どうしました?」
最初は怒って入ってこようとしていたユリナだったが俺の反応に疑問符を浮かべる。俺は立ち上がり扉の方に立っていたユリナに近付いて行く。
「..........綺麗だ。」
「へ!!??」
エルフの侍女たちに着飾らせるよう頼み、それを終えて戻って来たユリナの姿に対し、素直に感想を言うと予想外の言葉だったのか目が激しく泳ぎ、赤面しているのが分かる。
「ど、どうせ、私をまた揶揄ってるんですよね!?」
「まさか、本心だ。」
「~~~~~~っ!!」
いつもの揶揄うような態度で無かったお陰で伝わったのかそれ以上は何も言わず俯いたまま黙ってしまった。
「全く、周囲の視線が全部ユリナに向いていきそうだ。俺の存在が希薄になり兼ねんな。」
ユリナがこうしてきたという事はそろそろ会場に向かわねばならないのだろう。ルギシニラの魔王としての姿へと変化させ、確認する。確認を終えた所で未だに俯いたままいるユリナに見える様に手を差し伸べる。
「お嬢様、お時間が近付いてまいりました。会場へ向かうとしましょう。」
「.......それはふざけてやってますよね?」
「さあ、どうでしょう?」
そう言いつつもユリナは恐る恐る出してくる手を俺はしっかりと握り、執務室から会場の方へ向かってゆっくりした足取りで向かって行った。




